経営者にとって企業法務の問題は悩みの種。コストセンターとも称される「企業法務」はどのように進めていけば良いのでしょうか。
事実、経営者の方は以下の課題を抱えています。
- コストセンターの経費はなるべく減らしたい
- 優先すべき課題が他にある
- 企業法務を効率化しないと企業が回らない
そこで本記事では、経営の目線から企業法務についてわかりやすく解説いたします。
<<あわせて読みたい>>
識学講師が見た、伸びる会社の社長が持つ「4つの共通点」とは?目次
企業法務とは?
企業法務には以下2つ種類があります。
- 臨床法務
- 予防法務
企業法務を理解する上で大切なことは上記2つの言葉の意味の違いです。
臨床法務とは、実際に法的な裁判が発生した際に、裁判を解決へと導くための取り組みのことです。訴訟対応や裁判外の和解などがこれに該当します。
予防法務とは、臨床法務の対応へと発展する前に、未然に法的な紛争を避けることです。例えば、契約書の作成、コンプライアンスの遵守が該当します。
漠然と法務といったときには、上記のどちらに該当するかを確認した上で議論を進める必要があります。
<<あわせて読みたい>>
コンプライアンスの意味とは?法令遵守だけではない考え方をわかりやすく解説!
企業法務の役割、重要性
特に中小企業経営者の方の中には、法務の重要性を実感しにくいという方も多数いらっしゃるでしょう。
実際、法務の仕事がその効果を発揮するのは、具体的なトラブルが生じた場合がほとんどです。
つまり、ビジネスがうまく回っているうちは、法務にかけたコストが無駄に思えてしまうことも多いかと思います。
ご認識のとおり、法務部門(顧問弁護士)は、それ自体が直接利益を生むことはない「コストセンター」です。そのため経営者としては、法務にかけるコストを削減する方向に意識が向いてしまっても無理はありません。
こうした方向性は、経営判断として必ずしも間違っているとは言えませんが、その一方で企業が持続的な成長を続けていくためには、法務・コンプライアンスの重要性にも目を向ける必要があります。
<<あわせて読みたい>>
ガバナンスとは?コンプライアンとの違いやビジネスで必要な事例をわかりやすく紹介企業法務の仕事内容
企業法務に該当する仕事は以下の通りです。
- 労務
- コーポレートガバナンス
- 株主総会の実施、運営
- 契約書のリーガルチェック
- 知的財産権
- 債権回収・管理
- 裁判の解決
- 法令遵守
上記のように、企業法務は経営の守りの「要」となることが多いです。
ただし、攻めの経営「M&A」にも法務が関連するため、リスクを正しく算定、調査することが企業法務担当者には求められます。
企業法務の資格
企業法務に関連する資格には以下があります。
- 弁護士
- 司法書士
- 弁理士
- 社会保険労務士
- 行政書士
ただし、上記の資格を保有する社員を社内で抱えることは少なく、基本的には専門家に依頼する形を取るのが一般的です。
一方で、企業内で企業法務を担当する場合には以下の資格が推奨されることがあります。
- ビジネス実務法務検定
- 知的財産管理技能検定
- 個人情報保護士
上記は認定資格になるため、必ずしも必須というわけではありませんが、企業法務担当者であればとっておきたい資格として引用されることがあります。
企業法務には「必要十分」なコストをかけるべき
大企業・中小企業の別を問わず、企業は日常的に法律と関わっています。
特に企業の規模が拡大すればするほど、取引先や消費者との間でトラブルに巻き込まれる可能性が増加します。
最近では「予防法務」の重要性が提唱されているとおり、日常のオペレーションから法的な検討を徹底して、トラブルの発生を未然に防ぐことが重要です。
こうした予防法務の観点から、法務部門(顧問弁護士)に一定のコストをかけることは、会社の持続的な成長を安定的に支えるために必要といえます。
しかし、何でもかんでも法務部門(顧問弁護士)に業務を任せていては、必要な人員や依頼費用がかさんでしまいます。
法務部門(顧問弁護士)はコストセンターですから、真に法務のチェックを受けるべき業務に絞って処理を依頼し、法務コストを「必要十分」な限度に抑えることもまた大切でしょう。
<<あわせて読みたい>>
内部統制とは?コーポレートガバナンスとの違いから実例まで徹底解説ビジネスサイドで可能な企業法務の「仕組み化」
企業にとって余計な法務コストを削減するためには、ビジネスサイドで法務を「仕組み化」してしまうことがもっとも有効です。
具体的な「仕組み化」の方法としては、以下のものが考えられます。
まずはビジネスのルーティーンをマニュアル化する
最初に認識すべきなのは、法務もビジネスの一部であり、ビジネスの一環として問題になるということです。
したがって、法務の「仕組み化」を行うには、まずビジネスのルーティーン自体をマニュアル化することが必要になります。
マニュアル化されたビジネスを前提として、毎回同じように発生する法的論点へのソリューションをマニュアル的に適用することが、法務の「仕組み化」にほかなりません。
よくある法律上の論点をマニュアルに書き込む
ビジネスに関するマニュアルの中では、頻発する法律上の論点と、それに対する解釈・結論をきちんと書きこんでおきましょう。
マニュアル作成の段階で、法務部門や顧問弁護士による網羅的な検討を通しておけば、それ以降はマニュアルに従って対応することで、ほとんどの法律問題をクリアすることが可能になります。
たとえば金融機関の法務部では、口座開設者が亡くなった場合に備えて、相続手続きに関するマニュアルが整備されています。
相続マニュアルの中では、相続人の確定に関する法律上のルールや、相続人の本人確認に必要な書類など、相続に関する基本的な事項は当然書き込まれています。
さらに、口座開設者や相続人が外国人で、戸籍謄本や印鑑証明書に相当する公的書類がない場合にはどうするのかなど、実務上発生した法律上の問題点についても、その際の検討結果も適宜マニュアルに書き込むのです。
このように、マニュアルを実務に即してブラッシュアップしていく中で、法的な観点に関する記述を充実させていくことによって、法務部門(顧問弁護士)に相談せずとも、ビジネスサイドだけで解決できる範囲が広がっていきます。
契約書類はひな形を最大限活用する
契約書類については、ひな形を最大限活用することも、法務の「仕組み化」の観点からは重要です。
ひな形の作成は企業内弁護士か、いない場合には顧問弁護士に依頼すると良いでしょう。
顧問弁護士に依頼すると費用は掛かりますが、ひな形として汎用的に用いる契約書こそ、最初の段階できちんとしたリーガルチェックを受けることが大切です(「必要十分」なコストのかけ方)。
<<あわせて読みたい>>
監査役とは?監査役会の役割やその重要性や意義を解説します企業法務部門(顧問弁護士)によるチェックが必要なケース4選
ビジネスの中のルーティーン部分については、法務についても仕組み化が可能ですが、一方で以下のような場合には、改めて法務部門(顧問弁護士)によるチェックを受けた方がよいでしょう。
官公庁への対応が絡む場合
官公庁は法律を厳密に適用する、書類を厳しく審査するといった傾向があるため、官公庁対応が絡む法務については、その都度法務部門や顧問弁護士のチェックを受けましょう。
たとえば官公庁へ提出する書類を作成する場合や、官公庁による調査を受け入れる場合などが考えられます。
イレギュラーな契約を締結する場合
単発の売買・ローンや新規取引先との取引、その他自社にとってイレギュラーな契約を締結する場合は、契約内容についてリーガルチェックを行う必要性が高いといえます。
特に、相手方からひな形が提示された場合には、不当な条項が含まれていたり、重要な条項が抜けていたりしないかを専門的にチェックすることが大切です。
具体的なトラブルが発生しそうな場合
取引先と揉めそうな場合、従業員との間で労務トラブルが発生しそうな場合など、具体的なトラブルに発展する可能性が相当程度高まっているならば、危機管理対応を法務部門や顧問弁護士に依頼しましょう。
ビジネスサイドがトラブル対応を行うと、紛争をいたずらに拡大させてしまうおそれがあるうえ、対応に追われているうちに別の取引機会を逸することにもなりかねません。
法的トラブルへの対応は、リスク管理部門である法務の専売特許なので、こうした場合にこそ法務部門や顧問弁護士を活用しましょう。
新規ビジネスを始める場合
新規ビジネスを始める際には、スキームが法律上(特に業法上)問題ないか、関係者と締結すべき契約に漏れはないかなど、事前のフィージビリティ・スタディ(feasibility study)を行うことが大切です。
新規ビジネスはアイデア先行で行われることも多く、詳細に検討してみると法的に問題があって実現できない、できたとしてもペイしないということがよくあります。
ビジネスを実際に走らせた後で、リーガル面の問題を原因として頓挫し、かけたコストが無駄になってしまうことがないように、スキーム検討の段階から法務部門や顧問弁護士を交えて十分な議論を行っておきましょう。
まとめ:企業法務は経営者次第
コストセンターである法務部門(顧問弁護士)をどのように使いこなすかは、経営者としての腕の見せ所といえます。
「必要十分」な業務範囲とコストを見極め、自社にとって効率的な活用方法を模索しましょう。
[adrotate group=”15″]
[adrotate banner=”36″]
<<あわせて読みたい>>
コンサル歴20年超の講師が明かす 伸びる企業の共通点とは