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決断力とは?経営の合理的な判断に必要な意志決定について徹底解説!

経営者の意志決定は、会社に大きな影響を及ぼします。
いかに正しい決断を下すのかということは、多くの経営者が抱える課題でしょう。

ただ最近では、未曽有の災害や急激な技術の進歩など、先行きを見通すのは困難な状況です。

そんな時代において求められる経営者の「決断力」とは、どのようなものなのでしょうか。

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そもそも完璧な決断を下すことは可能なのか

 

経営者ではなくとも、世の中には決断を先延ばしにしてしまう人がたくさんいるものです。

「現状を維持する」という選択肢が入っていると、変化によって良くなる喜びより変化によって悪くなる悲しみのほうがクローズアップされるとされています。
その結果、現状を維持するという行動を取りやすくなることは「現状維持バイアス」と呼ばれ、人間の不合理行動の一つです。[1]

現状を変えるということには、大きな恐怖心がつきまとうため、現状維持することが客観的に見て不合理な行動だとしても、変化したくないという気持ちが優先されるのです。

ただ、判断が遅れてしまえば、取り返しのつかないことにもなりかねません。

例えば最近では、高齢ドライバーによる事故が多く、免許の自主返納を促すというケースがあります。

筆者が耳にしたことのあるケースでは、70代の男性で免許を返納されたという方がいました。

周囲から
「まだ運転できるのに、どうして返納したの?」
との問いに、その男性の答えが
「判断力が、まだ残っていたから」
というものでした。

判断が下せるうちに合理的な判断を下すことが重要であることを示す一例ではないでしょうか。

大きなトラブルにつながってしまう前に的確な判断を下すというのは、経営においても重要であることは言うまでもありません。

しかし、そもそも失敗することなく、合理的な意志決定を下し続けることは可能なのでしょうか?

行動経済学における研究結果によると、人間の不合理行動は、現状維持バイアス以外にも多くのものが知られています。

その主なものについてまとめたものが、以下の表です。[1]

認知的不協和 無意識のうちに自分の都合のよい情報や楽観的な情報だけを受け取り、自分の都合の悪い情報や悲観的な情報は無視してしまう傾向。
編集 考慮すべき要素や条件が多いと、要素・条件を大幅にカットして問題を簡略化してしまうこと。
選択的意志決定 変更には心理的苦痛が伴うため、一度決めたら理由をつけてそれを貫こうとすること。
代表性ヒューリスティック 対象となるものを象徴する、あるいは代表する特徴を捉えて判断や認識を行うこと。
係留性ヒューリスティック 直前に見聞きした数字の影響を無意識的に受けてしまうこと。
利用可能性ヒューリスティック 想起しやすい物事の発生確率を実際よりも高く見積もってしまうこと。

「知識ゼロからの行動経済学入門」川西諭著をもとに筆者が作表

ヒューリスティックとは、外見で人を判断するなど、認知的な負荷の小さい簡便な方法によって判断を下すことです。

ここに挙げたものは、あくまで一例であって、これが全てではありません。

これを見ても、合理的な決断を下すというのがいかに難しいのかが、お分かりいただけるのではないでしょうか。

一回で完璧に決断しようとするよりも、事前にある程度の修正を見込んでおくことの方が合理的であると考えられます。

大事なのは、全くミスをしないということよりも、素早く問題点を修正するという柔軟さにあると言えるでしょう。

 

どんなフレームで考えるのかが大事

 

決断に大きな影響を及ぼすのが、物事をどのような視点で捉えるのかです。

「人間万事塞翁が馬」や「災い転じて福と為す」という言葉もあるように、目先の出来事だけで良い・悪いを判断することはできません。

心理学では、物事の意味を解釈する際の枠組みを変えることを「リフレーミング」と呼びます。
どのようなフレームによって出来事を捉えるのかによって、その受け止め方も変えることができるのです。

リフレーミングのやり方としては、物事の二面性に着目するというやり方もあります。

最近のコロナ禍においても、経済活動が大きな打撃を受けたというマイナス面があります。
その一方で、リモートワークの導入や、書類や印鑑の電子化が進んだりといったプラス面もあります。

片方の面ばかりにとらわれてしまい、もう一方の面を見落としてしまえば、的確な判断が難しくなってしまいます。
偏り過ぎた判断になってしまわないためにも、物事の二面性というのは十分考慮する必要があります。

また、決断ができずに行き詰ってしまった時には、フレームを見直してみるというのも有効です。

例えば、フィリッパ・フットにより1967年に提唱された「トロッコ問題」と呼ばれる有名な問題があります。
この問題では、暴走したトロッコがそのまま直進し、線路上にいる5人が犠牲になるのか、それともポイントを切り替えてトロッコを別の線路に誘導し、1人を犠牲にするのかが問われており、NHKが2010年に放送した『ハーバード白熱教室』で有名になりました。[2]

この問題は長い間、答えの出ない難問とされてきました。

この問題に答えようとする際には、多くの人は、以下のような前提を無意識のうちに考えるはずです。

・5人を犠牲にするか、1人を犠牲にするかのどちらかを選ばなければならない。

・トロッコを制御するためには、ポイントを動かす以外にない。

・ポイントは、5人がいる方向か、1人がいる方向のどちらかの状態にしか切り替えられない。

このままでは解決の糸口は見えず、5人を救うために1人を犠牲にすべきかどうかで悩むことになります。

そこで、前提条件を見直してみることにします。

実はポイントは、完全に切り替えずに中立と呼ばれる状態にすれば、トロッコはどちらへも行けずに脱線するということが知られています。
つまり、ポイントの切り替えに関して、思い込みがあったわけです。

問題の条件設定にもよりますが、このように難問と言われるような問題であっても、思い込みを外せば、意外にもあっさりと解決できることもあるのです。

思い込みというのは、思考を節約することで素早い意志決定を可能にする反面、それにはまり過ぎてしまうと、適性な判断ができなくなる恐れがあります。

うまい解決策がなかなか思い浮かばないという時には、フレームを変えて問題を捉え直すというのも一つの手です。

 

情報が多ければ正しい決断ができるのか

 

情報は多いほど正確な判断が下せるようになるというのは、多くの人が考えていることではないでしょうか。

確かに、情報量が少ないと判断を誤ってしまうのではないかとの不安から、なかなか決められないということもあります。

しかし、逆に情報量が多くなったからといって決めやすくなるのかというと、そうでもありません。

また、決断に当たって取り得る選択肢の数についても、多いほど良いように思えますが、実際にはそうはなりません。

複数の選択肢の中からたった一つを選び出すことは、認知的な負担が大きいことが知られており、「どれも選ばない」という決定回避の心理が働きやすくなるとされています。[1]

決定回避の心理は、選択肢の数が多くなると起こりやすくなります。
よって、スムーズな決断を行うためには、選択肢はなるべく絞り込む必要があるわけです。

情報や選択肢を絞り込むうえで重要になってくるのが、「仮説思考」です。
仮説を持っておくことで、必要な情報を絞り込みやすくなり、素早く意志決定を下せるようになります。
さらに、大局観を持って仕事ができるともされています。[3]

ただ、仮説が間違っていたらどうするのかと感じる方もいらっしゃるかもしれません。

情報が多ければ正しい意思決定ができるとは限らず、かえって問題を複雑化させてしまうことさえあります。

また、すでにご紹介したとおり、バイアスやヒューリスティックと呼ばれるものの存在によって、合理的な決断を下すというのは、なかなか難しいものです。
さらに、実際にやってみたら、予想とは異なる結果が出るということもあります。

そのことを考えるのであれば、実行結果からフィードバックを得て判断を修正していく方が確実であると言えます。

情報に振り回されて決断が下せないという状態になってしまわないようにするためには、仮説を持つことが大事になってきます。

 

データサイエンスが決断をサポートする時代

 

「ビッグデータ」や「人工知能」といったワードが注目を集めるようになって以来、データサイエンスによる意志決定は、当たり前になりつつあります。

今までは、長年の知識、経験、勘を頼りに決断を下すことが多かったかもしれません。

しかし、変化が激しく、過去の常識が通用しないことが多くなってくると、まさに今起こっていることを的確に捉え、それを判断に生かしていくことが求められるようになってきます。

素早い的確な判断のためには、データサイエンスの活用は欠かせません。

ただ一方で、経営者としてデータサイエンティストとやり取りするためには、それなりのリテラシーが必要です。

データサイエンティストが上司、取引先から言われてうなったこと、困ったことの一例が以下の表です。

うなった一言 困った一言
「データのことはよくわからないが、こういう仮説もあるのではないか」

⇒データが示唆するものよりも深い仮説を検証できると、非常に良い取り組みになる

「データは豊富にあるから、何か面白い結論を導いてくれ」

⇒何が面白いのかを定義してもらわないと、分析ができない

「ビジネスの価値向上につながらなければ、単なる数字遊びにすぎない」

⇒データサイエンティストが陥りがちなことを指摘している

「データはたくさんあるから、分析すれば何か出てくるでしょ」

⇒何をしたいのかという仮説が必要

「間違った問いに答えることは無駄だ」

⇒論点設定の大切さを表している

「これから入手するデータを使って予測した結果を、新製品に乗せてほしい」

⇒最初から分析結果まで指定されても困る

出所)週刊ダイヤモンド2017年3月4日号 P50~51の「これだけは言いたい 凄腕データサイエンティストあるある!」より一部抜粋のうえ作表

これを見ても分かるとおり、データさえあれば何か分かるというのは誤解であるというのが理解できるのではないでしょうか。

経営者は仮説を立て、データサイエンティストがそれを検証し、フィードバックするという流れが重要になってきます。

とりわけ、数学マーケティングによって大規模な投資に成功し、注目を集めた例がUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)です。

メインとなったハリー・ポッター建設の総投資額は450億円で、これは当時のUSJの年間売上高の6割に相当するという巨額投資です。
失敗が許されない中、統計・確率をフル活用したマーケティングでリスクを抑え、劇的な成功を収めました。[4]

経験や勘よりも、統計や確率に基づいた決断の方が、客観性や信頼性を担保できます。

決断には、いつも不確実性が伴います。
また、人間が合理的な判断を下すというのは、実は難しいことであるということも、ご紹介したとおりです。

失敗を恐れ、完璧に判断が下せるまで動かないということは、今の時代には決断のタイミングを逃してしまうというリスクになりかねません。

決断力を高めるためにも、科学の知見に基づいた意志決定というのを取り入れてみてはいかがでしょうか。

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参照

[1] 出所)「知識ゼロからの行動経済学入門」川西諭著 P38~40,42,56~57,82,90,96,98
[2] 出所)太成学院大学紀要 論文 第21巻 P123~124
https://www.jstage.jst.go.jp/article/taiseikiyou/21/0/21_123/_pdf/-char/ja
[3] 出所)「仮説思考」内田和成著 P34
[4] 出所)週刊ダイヤモンド2016年7月2日号「確率・統計入門」P30
週刊ダイヤモンド2017年3月4日号 P50~51

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