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有事に求められるリーダー像 リーダーシップが引き出す意外なモチベーションとは

新型コロナウイルス感染拡大により、緊急事態宣言が発令されるまでに至った日本。このような「見えない敵」との戦いは、遡れば7世紀にも見ることができ、「日本書紀」に疫病に関する記録があります。当時の“三大はやり病”は「天然痘(疱瘡)」、「麻疹(はしか)」、「水疱瘡(水痘)」の3つで、これらは人生の「お役三病」と呼ばれていました。一生に一度しか罹患しない、これら「お役三病」を無事に終えることが、当時、健康面での最大の願いでした[1]。

今回の新型コロナウイルスとの戦いも、やがて収束を向かえる日が来るでしょう。しかし、しばらく続くであろうこの混沌とした時代を、「企業」という社会生活の一部にフォーカスし、有事に求められるリーダーとはどのような人物なのかを探ってみます。

 

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歴史上の情報戦略の達人

 

有事の際、リーダーが担う役割として「情報収集」、「情報分析」、「対策の考案」が重要となります。戦国時代、武士たちは職責を全うする強い意思の裏で、常に死と隣り合わせの日々を送っていました。精神的にも決して楽ではない状況下、心のよりどころとなったのは「リーダーの存在」だったのではないかと想像します。

歴史上の人物で、情報戦略に長けていた武将というと、織田信長の名が挙げられます。桶狭間の戦い(1560年)では、圧倒的な軍勢を引き連れた今川義元に対し、わずかな兵で応戦した織田信長が勝利し、歴史的な奇襲攻撃として名を遺すことになりました。

ここで注目すべきは勝利ではなく、桶狭間の戦いにおける「勲功者」が誰だったのかということ。通常は、敵の大将である今川義元の首を取った武士に与えられる褒賞です。しかし、織田信長は、首を取った武士ではなく、今川軍本陣の「正確な位置を伝えた武士」である、梁田政綱を勲功者としたのです。それほどに織田信長は、「正確な情報を収集・分析し、迅速に戦術を練ることの重要性」を熟知していた、ニュータイプの戦国武将でした。

そして、常に「有事」の時代だったからこそ、的確な指示を迅速に出せるリーダーの存在は、部下たちのモチベーションを維持させる大きな要因となっていたのでしょう。

 

疑戦場のような混沌とした社内

 

話は現代に戻ります。企業内において、新型コロナウイルスという「見えない敵」との戦いを強いられているさまは、戦国時代に通ずるものがあります。

筆者の顧問先のここ一か月の様子と言えば、自宅待機や営業縮小を余儀なくされた従業員たちが、「いつクビにされるのか」、「会社が倒産するのではないか」と、不安に苛まれる日々を送っていました。また、当の社長も、国からの休業要請を受けた以上は、世間的にも営業自粛をせざるを得ず、先の見えない茨の道を歩まされていました。

つまり、社内の誰もが情報不足に怯え、精神的に不健康な状態に追い込まれていました。

それでも毎日、積極的にミーティングを開き、その時点で把握している情報を共有し、「今できることをやっていこう」などと、従業員の士気を高めるべく団結を促しました。しかし、社会的な状況に変化がないため、具体的な指示も出せず、先の見通しが立たない不安から、社長の言葉は空しく説得力に欠けるものでした。

営業再開を見据え、海外の状況などから対応策を練るも、お上の「GOサイン」が出なければ全てお預け状態。社内であれこれ議論を交わすも机上の空論でしかなく、そのうち従業員のモチベーションは低下していきました。

 

事態が好転

 

そんな中、4月10日に都知事が「新型コロナウイルス感染症拡大防止のための東京都における緊急事態措置等[2]」を発表しました。

これまで、国からの要請によりあらゆるサービス業が「休業やむなし」の状態でしたが、10日の会見で、休業要請対象外の事業(東京都のみ)が明らかにされました。これにより、社会生活を維持する上で必要な施設について、適切な感染防止対策や営業時間の短縮などを施した上で、営業の継続が認められました。休業要請対象外施設として挙げられた店舗や施設の関係者からは、安堵の声が聞こえてきました。

都知事の会見を受け、顧問先の飲食店と介護施設は一斉に動き始めました。つい前日まで「うちの店は営業していいのか?」、「高齢の利用者を受け入れてもいいのか?」と、漠然とした情報のみで身動きがとれなかった各社でしたが、自社の業態や施設が休業要請対象外と明確に発表されたことで、新たなフェーズに入りました。

まず、飲食店は、店内レイアウトを変え、密集や対面を避けるテーブル配置にし、従業員は全員、マスクとビニール手袋着用を徹底しました。顧客管理は完全予約制とし、顧客同士が接触する機会を減らし、メニューも短時間で出せる料理を中心にプランニングし直しました。

前日までは、営業していること自体が非難の的となっており、テイクアウトに一本化する話も出ていました。それが、「堂々と営業ができる」という担保を受け、全員のやる気が復活しました。

介護施設は、利用者が高齢であることを十分に配慮した上で、従業員は感染拡大防止の強い意識を持って臨むことを、ミーティングで確認し合いました。従業員の中から「私たちがやらなければ、利用者さんの生命にかかわります。徹底的に安全を守り、私たちも利用者さんも(新型コロナウイルスの脅威を)絶対に乗り切りましょう!」などと、これまで見たこともないほどのやる気がみなぎっていました。

これらの変化を見ながら、労働者のモチベーションを向上させる要因は、決して、金銭的報酬だけではないということを再認識しました。

 

モチベーションとインセンティブの関係、そしてプロボノへ

 

米国の心理学者アブラハム・マズローの欲求階層説を参考に、従業員のモチベーション指標について、以下のように定式化した論文があります[3]。

①生理的欲求=年収・労働時間
②安全欲求=雇用の安定・福利厚生
③愛情欲求=所属意識
④尊厳欲求=認知
⑤自己実現欲求=裁量

一般に、従業員のモチベーションは、そのパフォーマンス(能力・職務行動・成果)の向上を規定する要因として理解されています。また、人材育成の観点からは、モチベーション(働く動機・理由)とインセンティブ(働かせる仕組み・動機付け)の関係が重要だと言われています[3]。

今回の、顧問先の従業員たちのモチベーションがアップした状況は、上記で言うところの②安全欲求までが確保された安心と、⑤自己実現欲求が一気に訪れたと解釈できます。言うまでもなく、③④を含めての⑤ですが、有事の渦中であることを加味すると、ある種「プロボノ(社会的・公共的な目的のために職業上のスキルや専門知識を活かしたボランティア活動)[4]」の側面も見えます。

プロボノとして関わるということは、自身が培ってきた専門知識やスキル、経験を活かして生産性の高い結果を提供することになります。

介護施設で働く従業員にとって「プロボノを行う」ということは、報酬を得るための介護業務とは別に、介護職員としての挑戦、社会貢献の達成感など、「非金銭的報酬のインセンティブ」が働きます。有事の今だからこそ、介護職に従事する中で得たもの全てを、「貢献」という形で示そうと、職務上のプライドと、高度な社会貢献意識が生まれた結果、モチベーションの向上につながったと感じました。

 

有事の際は誰もがサバイバー

 

自然災害、疫病、戦争等、国を揺るがす有事の際は、立場に関係なく誰もがサバイバーです。社内においては、従業員自らが考え行動することがマストになりますが、個々をまとめるリーダーの存在は何より重要です。

組織全体が混乱し狼狽する中、組織のリーダーとして「正確な情報の収集能力」、「情報の分析能力」、「対応策を講じる能力」という3つの能力が必要不可欠です。特に、これからの方向性や対策を示すスキームの構築は、初期段階で迅速に行うべきです。道が示されることで、従業員は安心を得られ、リーダーへの信頼が増します。そして、この対応が遅れれば遅れるほど、従業員のモチベーションは確実に低下します。

限られた条件の中で何ができるのか、どうすればできるのか、その方向性を的確に、迅速に決定し指示することが、有事の際に求められるリーダーの資質と言えるでしょう。

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参照
[1]参考:J-STAGE/薬学図書館(特別展「はやり病の文化誌―麻疹・疱瘡・コレラー」p255
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpla1956/46/3/46_3_255/_pdf/-char/ja
[2]参考:東京都/新型コロナウイルス感染拡大防止のための東京都における緊急事態措置等について
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/661/2020041000.pdf
[3]参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構/論文データベース(従業員のモチベーションをめぐる法的課題p38)http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2017/07/pdf/037-048.pdf
[4]引用:環境省/パートナーシップによる森林保全(注釈1)http://www.env.go.jp/nature/shinrin/fpp/partnership/partnership_other/servicegrant.html#notes01

 

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