離職率を改善することは、企業の競争力維持や業績向上に大きな影響を与えると認識されています。
離職率が低下すれば、採用コストの削減や社員のモチベーション向上につながり、企業全体の生産性を高める効果があるからです。
この記事では、離職率の改善に成功した3つの日本企業の事例を取り上げ、それぞれの取り組みについて詳しく解説します。
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目次
離職率の改善を実現した3つの企業の事例
今回の記事で取り上げるのは、以下の3つの企業における事例です。
- サイバーエージェント
- サイボウズ
- ビースタイル
1.サイバーエージェント
元々、サイバーエージェントには一部で“激務”“きつい”というイメージがあり、実際、東証マザーズに上場した2000年前後では離職率が30%に達していました。
この“社員の3人に1人が辞めていた”時期からおよそ20年、現在のサイバーエージェントの離職率は約8%。全産業の離職率の平均値である14.2%を下回る水準にまで改善しています。
サイバーエージェントは、離職率改善に向けて以下のような取り組みを実施してきました。
- 女性社員向けケアの充実〜macalon(マカロン)パッケージ
- 若手の活躍を促す「新卒社長」制度
以下、順番に説明していきます。
女性社員向けケアの充実〜macalon(マカロン)パッケージ
多くの女性従業員が働くサイバーエージェントでは、女性従業員の活躍を支援する制度としてmacalonパッケージ(「ママ(mama)がサイバーエージェント(CA)で長く(long)働く」の略)を導入しています。
一般的な育児休暇などが確保されているのはもちろん、マカロンパッケージでは非常に珍しい「妊活休暇」や「卵子凍結補助(卵子凍結にかかる費用を補助する制度)」なども採用。
女性従業員の働きやすさに最大限配慮した9つの制度をパッケージ化しているのが特徴です。
女性従業員が働きやすい環境の整備を目指す企業は少なからず存在しますが、サイバーエージェントが実践する女性従業員支援の取り組みは全国的に見ても独自性が高く、ユニークな施策であると言えるでしょう。
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若手の活躍を促す「新卒社長」制度
「新卒社長」の制度は、入社数年以内の若手人材にチャンスを与え、成長を促すための「抜擢人事」の一環として2003年にスタートした制度です。
この制度では、若手社員を子会社の社長に任命し、実際に子会社の経営にあたらせています。
「新卒社長」が経営する企業の中には、クラウドファンディング仲介プラットフォーム最大手の一角である株式会社マクアケや、マッチングアプリ「タップル」を運営する株式会社マッチングエージェントなどの成功例もあります。
「新卒社長」の制度は、優秀な若手社員に実践的な事業経営・マネジメントの経験を積ませて成長を促す効果があるだけではありません。
チャレンジ精神のある社員がキャリアアップのため他社へ流出したり、独立して起業するのとは異なる第三のコースとして、サイバーエージェントの中でキャリアを積むという選択肢を与えるものでもあるのです。
関連記事:新卒社員を育てるには?『職場全体で育てよう!』が新人をつぶす理由とその対策を解説
2.サイボウズ
ソフトウェア企業のサイボウズは、1997年の創業以来、順調な業績拡大の一方で高い離職率に悩まされ続け、2005年の時点では28%もの離職率にまで達していました。
高い離職率による人材流出に問題意識を抱いた同社は、離職率改善のためにさまざまな取り組みを開始。
その中でも主な施策として以下が挙げられます。
- 多様な働き方を受け入れる「働き方宣言」
- “気軽に会社を辞められる”制度としての「育自分休暇」
結果として、サイボウズの離職率は5%を切る大幅な改善を実現しています。
以下、これらの制度について解説していきましょう。
多様な働き方を受け入れる「働き方宣言」
週3勤務や時短勤務、早朝出勤、午後出社、リモートワーク、他社と同時勤務する「副業の日」の設定など、従業員一人ひとりが独自のワークスタイルを宣言することができるのがサイボウズの特色です。
「複業の日」を設定している従業員は少なからずいて、中には「テレビリポーター」の職とサイボウズとを兼務している社員も同社のコーポレートサイトに掲載されています。
また、同社では勤務時間の長さではなく、社員の業務成果にフォーカスしています。
そのため、たとえ時短勤務を「働き方宣言」している社員であってもフルタイムで働いている社員より成果をあげていれば、高い評価を受けることが可能です。
自身のライフスタイルに合わせた働き方をしても不利に扱われることはありません。
こうした多様な働き方を可能としていることもあり、「ライフスタイルが合わないから」「育児と両立したいから」という理由で離職する必要はなくなります。
「副業」を宣言してしまえば、他社の仕事と兼務することすらも可能になるので、「他にやりたいことがあるから」という理由で離職せず、サイボウズにいながら兼務すればよいことになります。
また、成果さえあげていればワークスタイルで評価を左右されることもないので、子育てなどで忙しい女性従業員や、地方からリモートワークで業務を行っている従業員も不公平を感じることなく勤務することができます。
関連記事:若手社員の副業を真剣に考えよう!副業容認の会社ほど社員の忠誠心が高い理由
“気軽に会社を辞められる”制度としての「育自分休暇」
サイボウズの「育自分休暇」は、「会社を辞めてやりたい事があれば、6年以内ならサイボウズに再就職できる」というユニークな条件で、“気軽に会社を辞められる”制度として知られています。
この「育自分休暇」は、社長が若手社員と昼食を食べていた際、社員が「この会社が好きだけど、他の会社も見てみたい」と発言したのがきっかけで考案された制度だと言われています。
サイボウズを離れている間の6年間は、他社で働く人もいれば、語学留学をしたり、なかには青年海外協力隊に加入して発展途上国でのボランティア活動に従事する社員もいるようです。
以上から、「育自分休暇」は“サイボウズを嫌で離れたい社員”のための制度ではなく、「サイボウズでの働き方に満足しつつも他の世界も知りたい社員との縁をつなぎ留める制度」と言えるでしょう。
3.ビースタイル
総合人材サービス事業を運営している株式会社ビースタイルは、もともと20%に達していた離職率を3年間で8%まで引き下げることに成功した企業です。
以下では、ビースタイルの主な取り組みについてご紹介します。
- 組織のビジョンの浸透・強化を目指す「バリューズアワード」
- 全社員分の日報に社長が目を通す「全社日報」
組織のビジョンの浸透・強化を目指すバリューズアワード
「バリューズアワード」は、組織の目指すべきビジョン「ビースタイル・バリューズ」の社員への浸透を目指すとともに、社員同士のコミュニケーションの活性化を促す仕組みです。
この制度では、「誰かがではなく、自分が」や「期待を理解し、期待を超える」などの10か条からなる「ビースタイル・バリューズ」を実践している社員をお互いに投票し合い、メッセージを送り合う仕組みです。
これを通じて、「自分自身の行動がビースタイル・バリューズに則っているのか」を確認する機会が生まれます。
また、投票を通じて上位に選ばれた社員にはチームでのランチがプレゼントされるなどのインセンティブがあり、これもコミュニケーションを促進するきっかけとして機能しています。
全社員分の日報に社長が目を通す「全社日報」
業務日報の作成は多くの会社で行われていますが、「社長自身が全社員の日報に目を通す会社」というのはそうそう見当たらないのではないでしょうか?
ビースタイルの日報では、目標や業務の進捗状況などの一般的な項目のほか、「業務に関する相談」や「良いトピックス(必須)」、「うまくいったこと(必須)」などの項目を設け、社長や上司が助言やコメントを返信するスタイルを通して、上下の風通しの良さを実現しています。
また、従業員が悩みなどを相談しやすくするため、閲覧できるのは直属の上司と社長のみとしている点も特徴の一つです。
業務日報というと、いわゆる「報・連・相」のツールとして使われ、上司にとってもコミュニケーションを深めるためというよりは「監視」や「指導」のツールとして捉えていることが少なくありません。
しかし、ビースタイルの場合ではあくまでも“社内のチームワークの強化”という観点から重視されています。
有効な離職改善策を考えるためのポイント
ここまでご紹介した3社における離職率改善の成功例をもとに、有効な離職改善策を考える際のポイントについて解説します。
ここで解説するのは、以下の3つのポイントです。
- 社員の成長とキャリア形成を支援する観点
- 社員の働きやすさの向上
- 「甘やかす」ことと混同しない
順番に説明していきます。
1.社員の成長とキャリア形成を支援する観点
これらの企業は、「社員の成長・キャリア形成」をサポートすることを通して、自社へのロイヤリティ(忠誠心)を高めるという結果に結びつけています。
近年では、キャリア意識の高い人材を中心に、給与水準が良く安定した“ホワイト企業”を辞めてまでもキャリアアップを目指す従業員が増えています。
やはり、十分な給料を与え、終身雇用を保証するというだけで人材をつなぎ留めるのは限界があるということでしょう。
「人間的・能力的に成長できる会社」であることは、社員の能力を伸ばして企業の業績を向上させることに直結することはもちろん、成長意欲が高い人材にとって魅力を感じられる場であることにもつながります。
サイバーエージェントの「新卒社長」制度やサイボウズの「育自分休暇」制度なども、社員に実践的な経験や新たなチャレンジの機会を提供することで成長を促す制度であるといえるでしょう。
2.社員の働きやすさの向上
それぞれの企業が取り組んでいる施策には、社員が働きやすい環境を整えることが共通しています。
サイバーエージェントのmacalonパッケージ、サイボウズの働き方宣言、ビースタイルのバリューズアワードなど、それぞれ独自の取り組みを通じて、社員が自分らしい働き方を選択できる環境を整えています。
3.「甘やかす」ことと混同しない
離職率の改善に成功した3社の取り組みは、あくまでも「社員のパフォーマンスを最大限に発揮してもらう」ことを通して「仕事の能力以外の要因がネックとなって勤労意欲を失い、離職してしまうこと」を防ぐためのものであり、けっして社員を甘やかしてご機嫌をとることが目的ではありません。
したがって、今回の記事で例にあげた3社の取り組みを参考にして離職率の改善策を考える場合、あくまでも「ただ社員を喜ばせる」だけではなく「パフォーマンス向上につながる試み」であるかどうかを念頭に置く事が必要不可欠となります。
まとめ
離職率改善のポイントは、社員の成長とキャリア形成を支援し、働きやすさを向上させることです。
一方で、「甘やかす」こととは混同せず、パフォーマンス向上につながる試みであるかどうかを問いかけながら、改善策を設計していく必要があります。
あくまでも「楽をしたい」「組織にぶら下がりたい」社員にとって居心地がよい環境ではなく、企業の成長や業績向上に貢献し、キャリア意識の高い人材を引き付ける場を提供することを意識していきましょう。