リーダーシップ特性理論は優れたリーダーに共通する資質や特性の解明を試みる研究です。今日まで続くリーダーシップ研究は、特性理論を出発点としてさまざまな仮説、検証を繰り返すことで発展してきました。
特性理論の概要を知ることで、現代のリーダーシップ論をより深く理解できるようになるでしょう。
本記事ではリーダーシップ特性理論の歴史や、リーダーシップの特性を知るために役立つ研究、診断について解説します。
目次
リーダーシップとは?
リーダーシップとは、目標達成に向けて個人や集団を導いていく能力のことです。組織のメンバーに働きかけて動機づけを行い、その行動をけん引することがリーダーシップの本質です。
リーダーシップに関する研究では古くから「リーダーシップとは個人が生まれ持った資質である」と考えられていました。しかし、現代では「リーダーシップは個人の行動によって発揮されるものであり、後天的に身に付けられるもの」という考え方が一般的です。
現代のリーダーシップ論に大きな影響を与えたイギリスの学者ジョン・アデアは、リーダーシップを発揮する目的として以下の3つを提唱しました。
- 組織目標の達成
- チームの結束強化
- 個人の能力開発
アデアが提唱したリーダーシップモデルでは、リーダーの責務とは「組織」「チーム」「個人」に働きかけることであるとされています。
つまり、アデアが重視したのは「リーダーとしての資質」ではなく「リーダーとしてのふるまい」です。個人の資質よりもリーダーとしての行動やふるまいに着目するリーダーシップ論を「行動理論」と呼びます。
リーダーシップを高めるための行動については「リーダーシップを高めるために必要な8つの行動とは? リーダーシップを養う3つの方法も紹介」で詳しく解説しています。リーダーシップについて詳しく知りたいという方はぜひチェックしてみてください。
リーダーシップ研究の基礎・特性理論とは?
先述のとおり現代のリーダーシップ研究は、リーダーの行動に着目する行動理論がベースです。
しかし、以前は「優れたリーダーが持つ資質」に関する研究も盛んに行われていました。ここからは初期のリーダーシップ論である「リーダーシップ特性理論」について解説します。
リーダーシップ特性理論とは?
リーダーシップ特性理論とは、「リーダーシップは生まれ持った資質である」という前提のもと、優れたリーダーに共通して見られる資質や特性を解明しようと試みる研究のことです。
その目的はリーダーとして適している人物を選出し、組織のパフォーマンス向上を図ることにあります。
特性理論において研究の対象となったのは主に以下の2点です。
- 優れたリーダーとはどのような人物か
- リーダーとリーダーでない人の違いは何か
これらの疑問を解明するため、当時の研究者たちは優れたリーダーをあらゆる側面から観察し、身体面や性格的面について共通する特性の解明に努めました。
特性理論の代表的な論理としては1930年代にアメリカの心理学者ストッグディルによってまとめられた「ストッグディルの特性論」が挙げられます。
特性理論の歴史
人類の歴史では、部族の長や国家の君主など、集団のリーダーがリーダーシップを発揮することで発展してきました。そのためリーダーの資質は古くから重視されており、リーダーシップ特性理論の起源をたどると紀元前の哲学者プラトンまで遡ります。
プラトンは著書『国家論』の中で「英知を持ったリーダーが国を治めよ」と述べました。以降も孫氏やマキャベリといった歴史上の思想家が著書の中でリーダーの資質に関する記述を残しています。
そして、現代のリーダーシップ研究に強い影響を与えたのが、19世紀にイギリスの歴史家トーマス・カーライルが発表した『リーダーシップ偉人説』です。
その中でカーライルが「優れた資質を持つ偉人だけがリーダーたり得る」と説き、以降のリーダーシップ論の主流となりました。
1900年代に入るとアメリカを中心にリーダーシップに関する研究が盛んとなり、リーダーの資質に関する特性理論が浸透していきます。
1940年代後半には従来のリーダーシップ論に対するアンチテーゼである行動理論が主流となるものの、現代においても特性理論はリーダーシップ論の基礎として位置付けられています。
特性理論におけるリーダーの特徴
特性理論の研究では、優れたリーダーの資質について身体面や精神面などあらゆる角度から分析がなされました。特性理論の代表的な研究者であるストッグディルは、優れたリーダーに共通する特徴として以下の要素を挙げています。
- 公正
- 正直
- 誠実
- 思慮深さ
- 公平
- 機敏
- 独創性
- 忍耐
- 自信
- 攻撃性
- 適応性
- ユーモアの感覚
- 社交性
- 頼もしさ
ストックディルの研究によると、優れた経営者に共通する要素の多くは精神面や性格に関連するものでした。一方で、身長や年齢など身体的な要素での共通項はほぼ見られないことも判明しています。
特性理論の問題点
優れたリーダーの資質を解明しようとした特性理論ですが、残念ながらその研究は十分な成果を残すことなく一度衰退してしまいました。
特性理論の問題点として挙げられるのは「人の特性は抽象的なものであり、定量的な測定や観測が困難であったこと」です。
また優れたリーダーに見られる特性は非リーダーにも見られることから、個人の特性とリーダーシップの関連には常に疑問が残りました。特性理論の第一人者であったストッグディルも後年になって研究の限界について語っています。
そして研究者たちは、個人の特性だけでなく多角的なアプローチでリーダーシップの研究を行いました。その結果、リーダーの行動に注目する行動理論に注目が集まり、リーダーシップ研究はより高度なレベルへと発展を遂げることとなったのです。
リーダーシップ研究のその後
特性理論の研究が限界に達した後も、リーダーシップ論は行動理論を新たなベースとして今日まで研究が続けられてきました。ここでは特性理論以降のリーダーシップ研究の変遷について解説します。
行動理論(1940年代後半~)
行動理論は、特性理論に続くリーダーシップ研究の新たなステージです。リーダーの特性の次に研究者が注目したのはリーダーの行動です。
「優秀なリーダーの行動とそうでない者の行動では何が違うのか」「リーダーのどのような行動がフォロワーをけん引するのか」という点に着目して研究が進められました。
状況適応理論(1960年代~)
行動理論の研究が進むと、組織が置かれる状況によってリーダーシップを発揮する行動に違いが現れる点が注目されるようになります。
これにより、リーダーシップは特性や行動によって普遍的に定義されるものではなく、組織の状況によって形を変化させるものであるという認識が広がりました。これを状況適応理論、もしくは条件適合理論と呼びます。
コンセプト理論(1980年代~)
1980年代に入ると、状況適応理論をベースに、より具体的な状況を想定してリーダーシップのあり方が考察されるようになりました。
現在では組織の大きさや組織内での階層、さらにはそれぞれの集団を取り巻く環境により適切なリーダーシップがあるという考えが一般的です。このようなリーダーシップ論はコンセプト理論と呼ばれています。
リーダーシップ研究については、「リーダーシップ理論とは? 考え方やこれまでの変遷、近年注目の理論を紹介」で詳しく解説しています。詳しく知りたいという方はぜひチェックしてみてください。
リーダーシップの特性を知るための他の研究・診断
一度は衰退した特性理論ですが、近年ではその意義を再評価してリーダーシップ研究に取り入れる動きも見られます。
心理学の発展に伴い、より高い精度で個人の特性を観測できるようになったことがその理由です。ここではリーダーシップ特性の把握に役立つ研究や診断の手法を紹介します。
ビッグ・ファイブ理論
ビッグ・ファイブ理論とは、人間の性格は5つの独立した因子の強弱で成り立つことを説明した理論です。1990年代に提唱された理論ではありますが、現在では多くの性格診断や適性検査がビッグ・ファイブ理論をベースとして実施されています。
ビッグ・ファイブ理論における5つの性格因子は以下のとおりです。
- 開放性
- 誠実性
- 協調性
- 神経症的傾向
- 外向性
リーダーシップの観点からすると、ビッグ・ファイブ理論で特に重視される因子は外向性であると考えられています。
ただし外向性の因子が強いからといってもリーダーシップを発揮できるとは限りません。ビッグ・ファイブ理論による性格の診断結果は、あくまでリーダーに適した性格を備えている可能性がある程度の認識に留めておきましょう。
ストレングスファインダー
ストレングスファインダーとは、アメリカのギャラップ社が提供する才能診断ツールです。オンライン上で177個の質問に回答することで、自分が内包する才能や強みがフィードバックされます。
なおストレングスファインダーにおける才能とは、自分では意識しにくい思考や感情、行動の特徴です。自身の才能の特徴を知ることで、自分らしいリーダーシップのあり方を考えるきっかけとなるでしょう。
MBTI
MBTIとはユングのタイプ論をもとにした性格検査であり、世界中の企業でも積極的に取り入れられています。日本でも2000年にMBTIのツールやメソッドが正式導入され、以降はさまざまな分野で活用されるようになりました。
MBTIが他の性格診断と異なるのは、MBTIの専門家による指導を通じて、自分の性格を深く理解するというプロセスを重視する点にあります。専門家のフィードバックにより、客観的に自分のリーダーシップを見つめ直すことが可能です。
リーダーシップ特性理論の知識を深めて実際の仕事に活かそう
現代のリーダーシップ論は、長らくリーダーの行動に着目して研究が続けられてきています。その一方で、近年では心理学の発展により、改めてリーダーの資質についても注目が集まっています。
リーダーとしての資質と行動の両面から考えることで、より自分らしいリーダーシップのあり方を見つけられるでしょう。
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