龍谷大学文学部臨床心理学科の水口政人教授は、企業の上司・部下1,000人を対象に世代間ギャップに関するアンケート調査を実施しました。本記事では、調査の内容を簡単に紹介しつつ、同調査が示した上司と部下が世代間ギャップを感じる原因について、識学の視点から解決の糸口をお伝えしたいと思います。
目次
調査の内容
まず、公表された調査のポイントについて見ていきます。調査は、下記のページに公開されています。
「新年度スタート!全国の上司・部下1,000人に聞く『世代間ギャップ』調査 『片想い上司』と『仮面部下』!? 話しづらい、踏み込みづらい…本音が言えない組織の課題が浮き彫りに」
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-10306.html
最終閲覧日:2022年6月27日
世代間ギャップは約5割が感じている
まずは、上司と部下それぞれに、世代間ギャップを感じているかと問うたところ、部下の51.6%、上司の44.8%が「とても感じている」「やや感じている」と回答しています。
世代間ギャップに約7割が“あきらめ”
「上司と部下の価値観が合わないとあきらめているか」という問いも実施。これについて、「とても感じている」もしくは「やや感じている」と回答した割合は、上司が69.8%、部下が68.8%でした。
世代間ギャップの原因
なぜ、世代間ギャップが生まれるのかという問いに関する上司と部下の答えのなかで、上位五つは、順位こそ違えど双方に共通しています。
世代間ギャップの解決策
これら五つについて、解決策を考えていきましょう。まずは、世代間ギャップが生まれる原因として、上司1位、部下2位だった「立場が違う」についてです。
日本企業のほとんどの組織はピラミッド構造であり、組織の階層は上に行くほど責任が大きくなります。そのため、責任と比例して、長い時間軸で戦略や戦術の立案、意思決定が求められます。
例えば、社長の時間軸は1~3年、部長は半年~1年、一般職は今週~今月という時間軸です。見ている景色が違うため、目的や背景を伝えて仕事の意味を理解させることは可能ですが、納得感や腹落ちさせるのは困難です。したがって、「上司の指示には素直に従いなさい」と告げればよいのです。
腹落ちや納得を求めるとどうなるか。上司の指示が部下に落ち難くなります。中長期視点で考えた上司の指示と、短期的視点で考えた部下の利害が相反して、自己主張の強い部下に上司が言いくるめられることもあるでしょう。例えば、部下は単に「忙しい、面倒くさいから、やりたくない」が本音でも「全社や部門のためによくないです」と主張し、上司が部下に説得される状態になります。
部下は「納得しなければやらなくてよい」と錯覚して、些細な指示に対しても上司に納得感を求めるようになり、初動が遅くなります。さらに、上司が指示しても部下が言うことを聞かないと、上司にも「自分のせいではなく部下のせいだ」という責任逃れの気持ちが発生します。
上司は、部下が迷わないように明確な指示を出しましょう。部下は「理解はできるが、納得できないからやりたくない」となってはいけませんが、一方で、「なぜこのような指示を出すのか」と感じたら、上司に確認して目的や背景を正しく理解することは必要です。また、上司の指示が間違っていたら、事実情報を報告しなければなりません。現場に近いスタッフは情報がたくさんあるため、責任を果たす上で弊害があればその事実情報を上司に報告することで上司は指示を修正できます。
部下から事実情報が報告される組織にするには、役割を明確にします。役割が曖昧だと、見て見ぬ振りをして、問題が起きても他人のせいにできるからです。
部下がネガティブな情報を報告したとき、上司は感情を表に出してはいけません。感情を表に出す上司に対しては、「怒られたくない」と考え、部下が事実情報を報告しなくなります。まず、明確な指示のもと行動させることが不可欠です。
マイルールの違いと曖昧な表現
- 「常識」の考え方が違う(上司2位/部下4位)
- 年齢が違う(上司4位/部下1位)
- 生まれ育った時代背景が違う(上司5位/部下3位)
これら三つは、例えば部下が「この会社は自由だ」と認識して社内で自由に振舞う。しかし、上司はそれを見ていて、「普通は、こういうことしないよ」とか「これは、常識でしょ」などと言われたという場面で世代間ギャップを感じるということでしょう。これらを解決するには、初めから組織のルールを明確にして、認識がずれないようにすることです。
上司であれ部下であれ、人にはマイルール(過去の知識や経験、年齢や育った環境、常識など、それぞれが持つ思考の癖)があるため、当たり前の認識は皆違います。ルールでしてはいけないこととしてもよいことを分ければ、解決できるはずです。
- コミュニケーションにすれ違いがある(上司3位/部下5位)
これを感じる原因は二つあります。一つ目は、社内に曖昧な表現が使われてしまっていることです。
例えば、上司が部下に「本日中にレポートを出してください」と指示を出したとします。上司の認識は定時18:00。部下の認識は本日23:59ということも考えられます。また、入社間もない社員が前職のルール(翌日出勤前まで前日対応とする)を持ち出して、翌朝9時に提出するケースもあるでしょう。つまり、本日中の定義は当日18時~翌朝9時の範囲で認識がずれます。このような場合は、完全結果(期限と状態)で、指示を出すことが必要です。正しい指示は、「本日18時までにレポートを提出してくださいです」こうすれば、期限が明確なため部下は集中できます。
二つ目は、曖昧な役割が原因です。これは、例えば、業務が滞っていても「それはAさんの責任だ」「いやBさんの責任だ」と、それぞれが自分の責任ではない認識してコミュニケーションを図ろうとしないことです。
まずは、各社員の役割を明確にしましょう。誰に責任があるのかはっきりさせるのです。その上で、好き嫌いや相性などを理由としてコミュニケーションを取らない場合は、出た結果で正しく評価して役割を外れてもらうか、コミュニケーションを取らなくても役割を果たせるような調整が必要となります。
本来、風通しのよい組織(コミュニケーションが円滑な組織)とは、部下からの「事実情報」を元に上司が役割を果たすための意思決定ができ、部下が迷わない明確な「指揮命令」がスムーズにできる組織のことです。