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【産業医が教える】労働の視点で考える睡眠事情

睡眠は、1日の3割の時間を占める、心身を休めるために大切な要素です。しかしながら、私達は睡眠についてどれほど理解、重視しているでしょうか?

仕事や娯楽で睡眠時間を削ったり、寝る前のデジタル機器や飲酒で睡眠の質が下がったり、その積み重ねは気付かぬうちに少しずつ体調を悪化させていきます。

本記事では睡眠の基本と睡眠に関する問題、また睡眠をより良くする方法について解説していきます。

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 睡眠の意義とは?

私達の睡眠は、睡眠と覚醒を司る脳神経と、ホルモンと呼ばれる様々な物質によって、精緻に制御されています。眠っている間は、単に身体を休止させるだけではなく、様々なメンテナンスを行う重要な時間です。

例えば、体内時計を調節するホルモンで有名なメラトニンは抗酸化作用があり、がんや老化を抑える働きがあります。就寝から1〜2時間後に分泌される成長ホルモンは、疲労回復や新陳代謝向上の働きがあり、子供だけでなく大人にとっても大切な効果をもたらします。

また、ホルモンと共に重要な要素として、自律神経系の働きがあります。自律神経には活動的な働きの交感神経と、休息的な働きの副交感神経があり、睡眠中は副交感神経が優位になります。この働きによって、心拍数や体温を下げ、疲労回復と各臓器の働きの調整を行うのです。

また、脳においては細胞の修復や老廃物の除去に加え、記憶の整理が行われます。日中に学習したことを定着させるだけでなく、不要な記憶を削除する作業も行われ、学習と精神衛生の2つの役割を担います。

無視できない睡眠不足の影響

先述したように、睡眠には身体の休息とメンテナンスという重要な意義があります。

睡眠不足になるとこれらが十分行えず、疲労の蓄積や体調不良に繋がる事は誰しも経験があるでしょう。一時的な睡眠不足であればその後の仮眠や長時間睡眠で補えますが、睡眠不足が続くと、集中力の低下やメンタル不調に繋がり、労災の発生や休職・離職の原因になります。

睡眠時間と脳のパフォーマンスの関係についてペンシルベニア大学とワシントン大学が行った研究では、6時間睡眠を2週間続けると、2日連続で徹夜した時と同じレベルまで脳のパフォーマンスが低下したと報告されています[1]

また、別の研究では起床後15時間経過した脳は、酒気帯び運転と同等に能力が低下するという報告もあります[2]

つまり、繁忙期など多忙な生活下ではつい睡眠時間が削られがちですが、その睡眠不足は返って労働効率を下げて業務を遅滞させている可能性があるのです。企業として労働者の睡眠事情改善に取り組む事は、労働者の健康を維持するだけでなく、業務の生産性を向上させる上でも重要な事と言えるでしょう。

労働者の睡眠を向上するには?

睡眠事情の改善には、「時間」と「質」の2つの要素があります。適正な睡眠時間には個人差がありますが、一般的には毎日7時間の睡眠が推奨されます。しかし、労働世代にとって毎日規則正しく寝る事は難しく、平日の睡眠不足を休日に取り返す方も少なくはないでしょう。

人間の睡眠の仕組みとして、寝不足に対して長時間睡眠で補う事は可能ですが、寝溜めは出来ません。また、寝過ぎるのも脳の疲労や血行悪化に繋がるため、やはり毎日規則正しい睡眠をとることがベストということになります。

このような睡眠時間の問題を解決するには、その発端となっている長時間労働問題へのアプローチが必要です。これには労働時間の把握と管理、新しい勤務制度や評価制度の導入、業務内容の見直しなどが含まれます。中には残業の事前申請やノー残業デーの導入など、制度として残業を減らす取り組みをする企業もあります。

睡眠の「質」に関しては、正しい知識を周知させる事が重要です。睡眠時間は日々規則正しく、また入眠前は身体を覚醒させる生活動作を避けるようにしましょう。

具体的には、入浴は1、2時間前まで、食事は3時間前まで、運動は3時間前までに済ませるとスムーズな入眠に繋がります。デジタル機器が発するブルーライトはメラトニンの分泌を減らすので、入眠前の使用は控えましょう。また、嗜好品も大切な要素で、喫煙は1、2時間、カフェインは4時間も覚醒効果が持続するので、寝る前似は控えるべきでしょう。飲酒をすると早く寝付く事ができるという話がありますが、一方で睡眠の質を下げてしまうため、結果として身体を休める事ができません。

治療が必要な、不眠症と睡眠障害

睡眠の時間と質の改善策を行っても良くならない場合、治療が必要な可能性もあります。それが「不眠症」と「睡眠障害」です。

「不眠症」とは、入眠が困難(入眠障害)、途中で目が覚めて寝付けない(中途覚醒)、予定より早くに起きてしまう(早朝覚醒)の問題が週2夜、1ヶ月以上続き、日中も眠気や疲労感などの不調をきたしている状態を示します。不眠症は身近な問題であり、日本人を対象とした研究では実に5人に1人が不眠症であったと報告されています[3]。また、厚生労働省の2019年度の調査では7割の人が睡眠に問題があると回答しています[4]。不眠症で体調不良をきたす場合は治療が必要で、その内容は生活習慣の改善と薬物治療の2つが中心となります。

一方で「睡眠障害」とは、より睡眠問題をより広く解釈したもので、前述の不眠症に加え、睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシー、夜間尿や歯軋りなど様々なものが含まれます。これらは原因も様々で、病態に応じた適切な治療が必要となります。

ここでは、睡眠障害の中でも重要なものとして、睡眠時無呼吸症候群をご紹介します。この病気は、睡眠中に呼吸が何度も止まったり、大きないびきをかいたりするのが特徴です。低酸素の状態が続くことで脳や心臓に負荷がかかり、中〜重症例では9年間の生存率が6割まで下がる危険な病気です[5]。また、日中も疲労感や強い眠気があり、突然の居眠りで事故を起こす事例が問題視されています。

睡眠時無呼吸症候群の治療は、生活指導から夜間の呼吸マスク(CPAP)やマウスピース、時に手術で原因を取り除きます。

以上のように、睡眠問題と一括りにしてもその中身は様々で、場合によっては治療介入が必要となります。自身の睡眠や体調を気にかけるのは勿論、職場内でお互いの様子に異変を感じた時は、速やかに受診を勧めるようにしましょう。

まとめ

本記事では、睡眠の意味と睡眠にまつわる問題、睡眠の質を良くする方法について解説していきました。大事な事だと分かってはいても、労働世代ではつい疎かになりがちな睡眠について、少しでも理解を深める事ができましたでしょうか。睡眠の効果を最大限に引き出し、時に必要な治療を行い、より健康的に効率良く働ける環境を整えていきましょう。

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