会社にとってはまさに宝である新卒社員に対し、やってはいけないことをよかれと思ってしている会社がいかに多いことでしょうか。本記事では、三つの観点から避けるべき新卒リテンションについて解説していきます。折角の宝を失う前に、一度自社の施策を見直してみませんか。
目次
チューター制度は不要
最初はチューター制度についてです。これは、会社の役員や部長などが、チューターとして新卒社員の面倒を見ることを指します。
はっきり言って、チューター制度は不要です。社長をはじめとした経営幹部による定期面談も同様です。
直属の上司でもない人物に一対一で「調子はどうだい。困ったことはないか」と聞かれたとき、上司に不満がある新人であれば、あなたの相槌に促されるうちに、どんどん愚痴が溢れてくるでしょう。「そうやってパワハラ防止をするのだ」と主張する人もいますが、新卒社員の言葉を真に受けて、その上司に対してあることないこと責め立てればそれこそパワハラです。
実は、私も部長として新卒社員のチューターになり、1on1ミーティングをしたり営業に同行したりしていた経験があります。あるとき私は、深刻な顔をした自分の部下である支店長たちからこう言われました。
「自分たちを無視して新卒社員とコミュニケーションを図らないでほしいです。我々の指示を聞かなくなって困っています」
ただ、そのときは私も好きでチューターをしていたのではなく、会社の方針で仕方なくやっていました。それゆえ、止めるわけにもいかなかったのです。
結局どうなったか。支店長たちは新卒社員を持て余し、仕事を任せることができなくなりました。そして、新卒社員の代わりに現場で奮起して疲弊していく者もいれば、会社のやり方に反発してへそを曲げてしまう者もいました。
それだけでなく、新卒社員たちが、直属の上司と反りが合わなくなるとすぐに経営幹部に告げ口するようになったのです。本来対峙すべきストレスに向かい合う前に、それを回避するすべを手に入れたと勘違いしたのでしょう。新卒社員の多くが、どの上司ともうまくいかずに配置転換を繰り返し、社を去っていきました。
彼らが辞めるときに、私を勘違いさせるような言葉を残していくのです。
「部長にはよくしてもらいました。ありがとうございました。でも、今の上司とはどうしても一緒にやっていけないので辞めます」
私は自分が諸悪の根源であるにもかかわらず、「自分は部下のためによいことをしたのだ」と思い込んでしまいました。
チューター制度を推奨する人は、経営層の自己満足に力を貸してしまっているだけなのです。直属の上司ではない人物によるチューター制度や、経営幹部との定期面談は効果的ではありません。部下を育成する責任は、先輩社員ではなく上司にあります。チューターを付けるとこの関係があやふやになってしまうため、お勧めできません。
部下の面倒を見るのは先輩ではなく上司
会社では、上司と部下ではない二人の間にも、入社年次によって先輩と後輩という意識上の上下関係が成立しがちです。二つ目の観点は、この先輩後輩に関してです。
相手が新卒社員であっても、先輩だからといって上司のように振舞うのは失礼に当たりますので止めましょう。先輩と後輩でも本来は同僚のはずです。
先輩は後輩の仕事の責任を取る存在ではありません。だからこそ、聞かれてもいないのに無責任なアドバイスをしたり、自身の見解を押し付けたりしてはならないのです。
新卒社員が困っていれば、事実情報を積極的に提供してあげることもよいことに見えますが、先輩が情報量の多さを誇示したところで意味はありません。むしろ放っておいて、本人が一生懸命情報を収集しようとする経験をさせてあげた方が、成長の機会を奪わないのでよほど親切でしょう。
つまり、先輩と後輩という意識上の関係は、組織の本来あるべき位置を崩す原因になるということです。上司は先に入社した先輩だから上司なのではありません。上司という機能を果たすからこそ上司なのです。上司の機能とは、部下に求める結果とルールを明確に設定すること、そして部下の結果を評価してフィードバックし、目標達成のために部下に知恵を絞らせることです。
慰めたり手伝ったりしない
三つ目は、新卒社員が失敗しても、慰めたり手伝ったりしてはいけないということです。
「新卒社員だから失敗やミスが多いのは仕方がない。そんなときには、モチベーションが下がらないように慰めたりフォローしたりすべきだ」
上記のように考えている管理職の方は多いのではないでしょうか。その考えは、今日限りで捨てた方がよいでしょう。
ピンチはチャンスです。新卒社員は小さな失敗でも、手探りで不安な状態なので深刻に捉えてしまうことがありますが、そういう時期にこそしっかりと失敗に向き合い、自分自身を修正することが成長につながります。
それなのに、例えば新卒社員が出来の悪い報告書を出してきたとき、落ち込ませないようにと考える上司は自分で修正してあげようとします。このように対応したとすれば、部下は次からも上司の修正が必要な状態の報告書を上げることでよしとしてしまいます。だんだん失敗を自分事として捉えられなくなり、自ら改善を図ろうとする努力を怠るばかりか、そのうち失敗を環境や上司のせいにするようにすらなります。
失敗に対する危機感がなければ、成長できるはずがないのです。先の例で考えれば、上司は「〇〇の内容が不足しているので記載すること」とできるだけ求める状態を明確にし、「ですます調にする」といったルールをはっきりさせつつ、「本日の15時までに私のOKが取れる内容にして提出しなさい」と期限まで明確にした指示をするべきです。不足があればそれを深刻に受け止めさせ、自己責任において修正しなければならないことを正しく認識させてあげてください。
よい会社は成長の機会を与える
以前こんな記事を読みました。新卒社員が「今の環境はぬるま湯であるため、このままだと将来の自分が不安だ」と言い残し、成長できる環境を求め会社を辞めていくという内容です。自分自身で糧を得る力がなければ生き残ってはいけないという事実が世の中に浸透し始めているのではないでしょうか。
よい会社とは、成長という有益性を得る機会を社員に与えられる会社です。それができなければ、この記事の社員のように、せっかくの人材が成長できる場を求めて退職していくでしょう。
会社にとっては有益ではない甘えや楽さを与える新卒リテンションは利益相反になるため、どこかでバランスが崩れます。希望に満ちて社会に飛び出してくる新卒社員に「この会社は緩くて最高です」などと言っている社員ばかりの会社で働きたいと思う人が、果たしてどのくらいいるのでしょうか。