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コンサルタントの薦める至高の1冊『自分の小さな「箱」から脱出する方法』

『自分の小さな「箱」から脱出する方法』は、人間関係に悩みを抱える方を中心に支持を集める本です。

今回は、本書の内容に触れつつ、ルールの役割について識学講師の視点から考えてみます。

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「君には問題がある」

主人公のトム・コーラムは、コネチカットにあるザグラムという会社に転職して一カ月が経ったある日、上級管理職を対象とする同社独自の研修を受けることになります。

その研修の内容は、専務副社長であるバド・ジェファーソンとの丸一日をかけた一対一のミーティングでした。

トムはこの一カ月間、誰よりも早く出社し、一番遅くまで残業。目標はちゃんと達成し、自らの仕事ぶりに満足していました。

満面の笑みを浮かべたバドが現れたとき、トムは新しい上司に早くよい印象を与えたいと思っていました。しかし、あいさつもそこそこにバドが告げた一言は、トムにとって予想もしなかった内容だったのです。

「君には問題がある。当社で成功したいのなら、その問題を解決しなくてはならない」

本書は、ここから、トムとバドの会話を中心にストーリーが進んでいきます。人間が持つ「自己欺瞞」を、「箱」という暗喩で表し、そこから抜け出す方法を探っていくのです。

本書は前半部で、この箱に入った状態とはどういうものかについて説明していきます。

これには、「自分への裏切り」という題が付けられ、まとめられていますので、その一部を下に掲げておきましょう。

自分への裏切り

  1. 自分が他の人のためにすべきだと感じたことに背く行動を、自分への裏切りと呼ぶ。
  2. いったん自分の感情に背くと、周りの世界を、自分への裏切りを正当化する視点から見るようになる。
  3. 周りの世界を自分を正当化する視点から見るようになると、現実を見る目がゆがめられる。
  4. したがって、人は自分の感情に背いたときに、箱に入る。

本書における、箱という概念で、人間関係における様々な不具合を説明することができます。

ここからは、本書をベースに、私が仕事上よく見る「箱の中の社員」や「箱の中の社長」について説明しながら、箱という概念を組織のなかでどのように活用していくかについてお伝えします。

箱の中にいる社員

まずは、本書における箱とは何か、私なりにご説明します。私は、組織コンサルタントとして企業の社員の方々に対し、研修を実施することがあります。

私自身も識学に入社する前、会社指定の研修を受講してきた経験があるので、研修を受ける社員の方が思っていることは大体、想像できます。

  • 「この忙しい時期に、研修なんかで時間を取られて、いい迷惑だ」
  • 「研修で時間を取られるなら、目標数字を下げて欲しいよ」
  • 「どうせ、また実務に役に立たない研修なんだろう。時間の無駄だな」

このような思いがある一方で、頭の片隅にこんな思いがあることも想像できます。

  • 「会社がわざわざお金をかけて、時間を割いて研修をやるということは、自分に何か課題があって、この課題を解決するための研修なんだろうな」
  • 「研修講師も、この研修のための準備に時間と労力をかけている。受講者が仕事で成果を出すことに貢献したい思いで研修をやるんだろうな」
  • 「会社でお金と時間を負担する研修を受けさせて貰えるということは、受講者である自分は、研修という投資に値する従業員として会社から評価されているんだな」

前者と後者の違いを分けるのは、自分以外の人、ここでは研修の受講を決めた社長や研修担当講師を一人の人間として捉えて、その思いに考えが及んでいるかどうかです。

冒頭で挙げた自分への裏切りとは、後者を心に抱きながら前者に頭が支配されてしまっている状態です。

そして、この状態に陥っていることを、本書では箱の中にいると表現しています。

「周りの世界を自分を正当化する視点から見るようになると、現実を見る目がゆがめられる」

自分への裏切りを抱えた社員は、上記の状態に陥ってしまうといいます。

「社長は現場の忙しい状況を全く理解していない。私にとっての敵だ」

「実務に関係ない研修で時間を奪う研修講師は、私とっての敵だ」

「忙しい最中、研修という実務以外のことに時間を奪われている自分は被害者だ」

社長や研修講師を敵対視する、なぜか被害者顔となっていて、誰と戦っているのか分からない社員の方をよく見ます。社長は社員の敵ではないですし、研修講師も社員の敵ではありません。受講者である社員は被害者でもありません。

本来であれば、皆が同じ目標に向かっている同志であるはずです。箱に入っていることで、現実を見る目がゆがめられている社員が、あなたの周りにもいませんか。

箱の中にいる社長

箱の中にいる社長についても、仕事柄よく目にします。

  • 「なんで、うちの社員は、こうも使えないんだ」
  • 「社員が、またミスをして、社長である自分の時間を奪っていく」
  • 「社長は、社員を食わせるために働いているわけではないんだぞ」

こんな風に思ってしまっている社長はいませんか。社員の多くは、採用面接の際、一緒に会社を成長させていこうという社長の言葉を聞いて、会社をよくしたいという思いを抱いて、入社してきたはずです。

その思いの下、会社の成長のために一生懸命仕事をする社員を愚か者とか怠け者と捉えて、社長である自分は社員のために働かされている哀れな被害者であると思い込んでいませんか。

他人との関係をどう捉えるか

本書は、端的に言えば、「他者を思いやって行動しましょう」ということが書かれている本です。ここだけ見れば、大したことを言っているようには見えません。

しかし、ここに視覚的に想像できる箱という暗喩を持ち込むことで、思いや解釈という他者に向けられた視点を、「自己と他者との関係性」として自己認識することに導いている点が卓絶しています。

自分にとって不都合なことや問題が生じたとき、私たちの視点はどうしても他者に目が向きがちです。

社員であれば、「社長が悪い」「上司が悪い」「お客様が悪い」

社長であれば、「管理者が悪い」「スタッフが悪い」「お客様が悪い」

このとき、自分が箱の外にいるのか、箱の中にいるのか、つまり「自分が他の人のためにすべきだと感じたことに背く行動を取っていないか」と自問する機会を持つことで、他者に問題があるという視点から、他の人との関係性をどうしていきたいかという自分と他者との関係の視点に切り替えていくことができるのです。

本書でトムの誤りを正そうとするコーチ役のバドも、最初からすべてが完璧だったわけではありません。彼自身が、ザグラムに入社したばかりの頃に犯した間違いについて話す場面があります。

入社して最初のミーティングで与えられた課題を期日までにこなそうとしていましたが、疲れ切ったバドは、「一つぐらい課題を残したところで、大したことではないような気がした」ために、最後の課題には手を付けずにいました。

それを次のミーティングで正直に報告するのです。バドの報告を聞いたザグラムの会長は、別の人間にその課題をこなしておくよう指示してから、バドにこう言います。

「君がこの会社に来てくれたことてほんとうにうれしく思っている。君には才能があるし、信用もおける。きっとチームに多大な貢献をしてくれるだろう。しかし、わたしたちの期待には、二度と背かないで欲しい」(本書 p.44)

そう言われたバドは、腹が立たなかったどころか、刺激を受け、励まされたのです。会長が箱から出て自分と接していることを感じ取ったバドが、自らも箱の外に出ることができた瞬間です。

箱を組織の中で活用する方法

個人であれば、一人ひとりの価値観に照らし合わせて行動すれば、常に箱の外にいることができるでしょうが、集団になると価値観のズレが問題を引き起こします。

どういうことかといえば、ある人にとってはお客様のための行動であっても、別の人にとってはそうなっていないという認識のずれが生じるのです。

このとき、箱の議論を社員がお互いにする場合、社員数が2人や3人程度であれば時間のロスはないですが、10人、20人と増えてくると、この価値観の擦り合わせにかかる時間は膨大になります。 

これを避けるため、会社ではミッション・ビジョン・バリューという会社の価値観、すなわち企業理念を言語化して社員に伝えながら、これらに基づくルールを作り、箱を明確にしていく必要があります。

例えば、「お客様のため」にという価値観があれば、「お客様がご来店された際は、大きな声でいらっしゃいませと挨拶する」というルールを設定しておくのです。

すると、社員とお客様との関係性のなかで、社員が箱の外に出ている状態かどうかが見える形になります。

社員は、お客様に挨拶するというルールを守ることができなかった場合、自分が小さな箱の中にいると捉え、例えば「この忙しいときに、挨拶なんてしている場合じゃないんだよ」とか、「挨拶なんて意味ないじゃないか」などの考えが自己欺瞞であることを認識し、改めることができます。

組織のなかで、小さな箱から脱出する方法は、理念に基づくルールを言語化し、これを守ることで、常に「自分が他の人のためにすべきだと感じたことに背く行動を取っていないか」を社員が明確に判断できる状況をつくっていくことにあります。

ルールの機能とは

ルールというのは、二つの機能があります。一つは、お互いの認識のずれをなくすことです。

例えば、道路に信号があり、交通法規があるのは、進むか止まるかに関するドライバーや歩行者の認識のずれをなくし、交通事故を防ぐためです。

そしてもう一つ、本書から私が捉えるルールの機能は、「自分の小さな箱から脱出し、会社という大きな箱の一員となること」、そして会社は、「会社という小さな箱から脱出し、社会という大きな箱の一員となること」です。

すなわち、「自分が他の人のためにすべきだと感じたこと」を会社として明確にして、守ることで、同じ箱の中に入る、つまり、この会社の一員であるという意識を作り出していくことに繋げることが「ルール」の機能です。

本書では、自分が他の人のためにすべきだと感じたこと、正しい価値観が、全ての人に等しく備わっている前提で話が進んでいきます。しかしながら、人は育ってきた環境、知識や経験によって、正しい価値観がずれるものです。

組織においては、不都合な事態や問題に直面したとき、組織のルールに照らし合わせて、どのように行動すべきか考え、実行することが望まれます。

この組織のルールがない場合、「社長が悪い」とか「社員が悪い」という他責に留まり、現実を見る目がゆがめられ、解決に向けた行動が取れなくなります。

箱という概念を組織の「ルール」との対比で捉えて、私は、本書をこのように会社の問題解決につなげていきます。

冒頭の抜粋の一部書き換えると、

【会社への裏切り】 

  • 「ルール」に背く行動を、会社への裏切りと呼ぶ。
  • いったん「ルール」に背くと、周りの世界を「ルール」の裏切りを正当化する視点から見るようになる。
  • 周りの世界を「ルール」の裏切りを正当化する視点から見るようになると、現実を見る目がゆがめられる。
  • したがって、人は「ルール」に背いた時、箱に入る。

そして本書において、これには続きがあります。

  • ときが経つにつれ、いくつかの箱を自分の性格と見なすようになり、それを持ち歩くようになる
  •   自分が箱の中にいることによって、他の人たちをも箱の中に入れてしまう。
  •   箱の中にいると、互いに相手を手ひどく扱い、互いに自分を正当化する。共謀して、互いに箱の中にいる口実を与えあう

ルールがないことで、指示に従わない社員が出てきたり、本来の目的とは関係ないところで派閥や集団ができて、社員同士がいがみ合ったりしていませんか。

まずは、会社の理念を明確にした上で会社のルールを作って頂ければ幸いです。

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