テーマ:組織マネジメント
理論(コンセプト)名称:組織行動論
提唱者:明確ではない
時期:明確ではない
理論の紹介:
「組織行動論」とは、企業の業績や生産性に影響を与える行動を3つに分類(個人行動、集団行動、組織行動)して研究する、経営学の分野のひとつである。3つそれぞれの領域にはテーマがあり、さまざまな理論から成り立っている。
「個人行動」のテーマは、パーソナリティと感情、動機づけ(モチベーション)、意思決定である。動機づけの理論は、マズローの「欲求5段階論」、ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」、マクレガーの「X理論・Y理論」、マクレランドの「欲求理論」などがある。
「集団行動」のテーマは、コミュニケーション、リーダーシップ、コンフリクトである。「コンフリクト」とは、相反する意見や要求などによる対立や軋轢であり、コンフリクトにどう対処するかを扱う。リーダーシップの理論には、「特性理論」「パス・ゴール理論」「フィードラー理論」「リーダーメンバー交換(LMX)理論」などがある。
「組織行動」のテーマは、組織文化、組織変革と組織開発がある。「組織文化」は、組織や組織に所属するメンバーの意思決定や行動に影響を与える信念や価値観であり、組織文化が企業にどのような影響を及ぼすかを理解する。「組織開発」とは、組織が正しく機能するように「組織変革」することである。
経営について学ぼうとしたり、新しい情報を仕入れようとしたりする中で組織行動論という言葉を目にしたことはありませんか。
組織行動論とは、組織内で人々が示す行動や態度についての体系的な学問と定義される、応用行動科学の一分野です。英語ではOrganizational Behaviorで、場合によって組織行動学とも訳されます。
組織行動論はリーダーシップやモチベーション、効率性といった産業において重要なトピックが多く含まれており、経営学とは密接な関係にあるものです。実際に組織行動論とWebで検索をかけてみると大学の経営学科内の講義科目として多数のシラバスがヒットし、中には必修科目として設定している大学もあるようです。
ここでは、組織行動論が一体どんなもので、どういう形でマネジメントに役立つのかについて解説いたします。
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目次
組織行動論とは何か
まずは、組織行動論とは何かについてもう少し深く見ていきましょう。組織の行動について研究する学問の一分野であることは冒頭で述べた通りです。少し目線を変えて、経営学の観点から見てみると、組織行動論は経営にまつわる要素の中で「人間」に焦点を当てた学問だと捉えることができます。
組織行動論の学問としての目的は、人間の行動について説明し、予測し、統制するのを助けることだとされています。
説明とは、組織の成果や問題がどのようにして生じたのかという原因を科学的に明らかにすることです。
予測とは、組織に対して介入した時に、その介入によってどのような結果がもたらされるかを明らかにするということです。
統制とは、組織行動論の知識を元にして個人や組織の行動のうち、望ましくないものを減らし、望ましいものを増やすといった制御をおこなうことです。
つまり、組織行動論は人やその集団である組織の行動原理を理解し、企業という組織をより良い方向に導くための科学的な理論体系と考えることができるのです。
従って、組織行動論に基づくマネジメントはこれまで積み上げられてきた科学的な理論体系に基づいたマネジメントと捉えることが可能です。
このように考えてみると、何故組織行動論に基づくマネジメントが必要なのかという問いの答えも見えてくるのではないでしょうか。
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組織行動論を取り入れないとどうなる?
マネジメントにおける組織行動論の必要性について考えるために、まずは組織行動論を取り入れないマネジメントについて考えてみましょう。
結論から言ってしまえば、業務改革や従業員の労働意欲改善など、マネジメントの課題において、必ずしも組織行動論を取り入れなければ成功しない、ということはありません。また、組織行動論を取り入れたからといって必ずマネジメントが上手くいくという保証があるわけでもありません。
一人一人の人間がそれぞれ全く別の能力、考え方を持っているのと同じように、その集合体である組織、企業もまた全く同一のものは存在しません。つまり、組織行動論は「〇〇をすれば必ず上手くいく」といった夢のような方程式にはなり得ないわけですね。
――では、何故組織行動論を取り入れる必要があるのでしょうか。
そのヒントは、先ほど触れた組織行動論の学問としての目的である「説明」「予測」「統制」にあります。
例えば、こんな状況を想像してみましょう。
Aさんは今、初めてマネージャーに抜擢され、新しい部署を任された所です。Aさんは現場のたたき上げ出身でマネジメントについて学んだ経験はないものの、豊富な知識と経験を元に前の部署で大幅な業務改革に成功し、業績を向上させた経験があります。その経験から、Aさんはこの部署でも同じことをすれば成功するに違いないと考えていました。
Aさんがまず初めに行ったことは、リーダー達に「自分が思う理想の在り方」を伝え、可能な限りそれと同じ状態に近づけていくよう指示を出すということでした。
とはいえいきなり今までのやり方を全て変えようというのは現実的ではありません。部署全体の作業効率は、慣れないやり方に手間取ることによって下がっていってしまいました。
しかしAさんは、それも新しいやり方が浸透するまでの辛抱で、完全に自分のやり方に切り替わりさえすれば業績は上がる一方だとあまり深刻に捉えていません。自分の思うやり方さえ浸透すればと、今までのやり方で働くメンバーを見つける度にやり方を変えるように指示を出し続けました。
――さて、ここで問題です。
あなたは、この先この部署の業績はどうなると思いますか?
また、Aさんはこの先また新しい部署のマネジメントを任された時に、これまでと同じように成功を納め続けることが可能でしょうか?
――正解は「わからない」、そして「成功する保証がない」です。
Aさんが抱えるリスクは3つあります。
一つ目は、過去に行ったマネジメントの「何が」「どのように働いて」効果的だったのか、Aさん自身が理解できていない可能性があるということです。
二つ目は、これまでのやり方の何がどのように機能していたのか、言い換えれば「変えた方が良いこと」と「変えなくても良いこと」、そして「変えてはいけないこと」の区別がついていない可能性があるということです。
三つ目は、Aさんが取り入れようとしているやり方が、新しい部署のメンバーにとって本当に効率的で、業績の上がる方法である保証がないということです。
実際の所、Aさんはこのまま自分のやり方を浸透させることで部署の業績を上げることに成功するかも知れません。
そして、その成功によってAさんはますます自分のやり方に自信を持ち、次の部署でも同じようにこれまで培ってきた「必勝法」を浸透させることに専念するようになっていくことでしょう。
取り入れている方法の一つ一つの意味や効果が不透明なマネジメント手法に絶対の自信を持ったマネージャーの誕生です。
これこそが、組織行動論を取り入れないマネジメントが抱える潜在的なリスクなのです。
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組織行動論の実践例
それでは、組織行動論を取り入れたマネジメントとは一体どのようなものなのでしょうか。
30年以上前に実際に行われた例を紹介しましょう。
実践されたのは組織行動論の中の行動修正法という方法です。エメリー空港(現在はフェデックス・コーポレーションに吸収済み)ではこの行動修正法を、梱包係を対象に実施しました。
当時、エメリー空港では梱包係が荷物をばらばらに処理しており、コスト削減の観点から貨物用コンテナの使用率を上げていきたいと考えていました。梱包係に尋ねたコンテナの使用率は90%という回答が多かったにも関わらず、実際の使用率は45%と著しく低いということが分析によって明らかになりました。
そこでマネージャーは、梱包係に対して毎日の梱包量を、コンテナを使用したものも使用しなかったものも全て記録させるようにし、一日の終わりにコンテナの使用率を出させることにしました。
その結果、このシンプルな手続きを導入した当日からコンテナの使用率は激増し、3年間で200万ドルのコスト削減に成功したのです。
このマネジメントにおいて重要なポイントは、「チェックリストを導入する」という方法が科学的な分析に基づく仮説によって導き出されているということです。
その具体的な方法について、組織行動論の実践法として次の項で詳しく見ていきましょう。
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組織行動論の実践法
この行動修正法(OM Mob)は、5段階のステップによって構成されています。
- 業績に影響を及ぼしている行動を特定する
- 特定した行動の現時点での頻度を調べる
- 特定した行動がどのようなロジックによって生じているのかを解明する
- 介入プランを策定し、実行する
- 業績がどれだけ改善されたか評価する
先ほどの空港の例を元に考えてみると、
- 荷物をコンテナに入れること
- 45%
- コンテナに荷物を積める煩雑さと、それなら個別に運んでしまえば良いというルーズな慣習
- チェックリストの導入
- コンテナの使用率は90%以上になり、200万ドルのコスト削減に成功した
と見ていくことができます。
つまり、コンテナの使用率が低いのは荷物を詰めるのが面倒であれば個別に運んでしまえば良いというルーズな空気が蔓延してしまっていたからで、その対策としてチェックリストを導入すれば良いという結論が導き出されたから実践に至ったというわけです。
当然、介入した後業績の変化が具体的にどのように変わったかを確認する為、問題行動としてターゲットに取り上げることとなったコンテナの使用率は介入前と後で比較できるよう、データを収集しておく必要があります。
このような手続きを踏むことによって、仮に結果が変わらなかったとしてもどこに間違いがあるのか、次の手立てを考える手掛かりが増えていくわけです。
例えば、チェックリストを導入してもコンテナの使用率が変わらなかったのであれば、その原因を分析し、チェックリストの中身を変えてみたり、扱いやすいコンテナの開発を検討したりとまた新たな方法を試すことが可能になります。また、コンテナの使用率が上がったにも関わらず業績に変化が無かったということになれば、そもそもの前提が間違っていたことがわかるはずです。
今回の例は行動修正法という組織行動論の手法の一つでしかありませんが、他の手法であったとしても基本となる介入方法のパッケージがあり、それを目の前のマネジメントにどう適用するのかと考えていく流れは同じです。
繰り返しになりますが、Aさんの例も、必ずしも経験則に基づいたマネジメントを行うことが間違いとは言い切れません。しかし、もしAさんが組織行動論を知っていれば、自身の培ってきた経験をこのような理論だったマネジメント手法の文脈の中に当てはめて考えられるようになるのです。
それはつまり、自分のやり方がどのような時に、どのような効果をもたらすのかを明確に説明できるということは、その使い所を間違えにくくなるということを意味しています。
新しく担当することになった部署の良い所と悪い所を見抜き、悪い所がどうしてそうなってしまっているのか仮説を立て、その仮説に基づいたマネジメントを実践できるようになる。
そういった体系だった思考のとっかかりや、具体的な介入方法のヒントになり得るのが組織行動論なのです。
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参照
・http://www.diamond.co.jp/book/9784478004593.html
・http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4478004595/diamondinc-22/
・https://www.diamond.co.jp/book/9784478004593.html
・https://umass-mba.com/news/mba_organizationa_behavior_3.html
・https://www.weblio.jp/content/%E7%B5%84%E7%B9%94%E8%A1%8C%E5%8B%95%E8%AB%96
・https://diamond.jp/articles/-/16274
・https://syllabus.hosei.ac.jp/web/preview.php?no_id=1621321&nendo=2016&gakubu_id=%E7%B5%8C%E5%96%B6%E5%AD%A6%E9%83%A8&gakubueng=AF&radd=68
・https://www.nebuta.ac.jp/profile/pdf/syllabus/keiei_07.pdf
・https://www.seigakuin.jp/faculty/psed/seminar/011-2-2/
・http://www.sanno.ac.jp/gs/syllabus/2018/tm03.html
・https://diamond.jp/articles/-/3315