突然ですが、下記のような疑問を感じてはいませんか?
- 「今話題になっている裁量労働制ってなに?」
- 「裁量労働制を導入しようか検討しているが、あまりよくわからない」
昨今の働き方改革や新型コロナウイルスの流行もあり、私たちの働き方は大きく変化しつつあります。そのなかで注目されているのが「裁量労働制」です。
しかし、「聞いたことはあるが具体的によくわからない」「フレックスとどう違うの?」といった声も多く聞かれます。
そこで本記事では、裁量労働制に関する基本的な知識から、その仕組みやメリット・デメリットなどを解説していきます。
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裁量労働制とは?
裁量労働制とは、実際に仕事をした時間とは関係なく、会社と従業員の間で契約した労働時間分だけ仕事をしたとみなし、その分だけ賃金を支払う制度のことで「みなし労働時間制」のひとつでもあります。
つまり、どれだけ働く時間が長くても、もしくは短かったとしても、働いた時間ではなく「契約した労働時間分だけ仕事をした」ということになる制度です。
そのため、従業員はいつ働くか、実際にどれだけ働くかといったことについて、会社から決められることがなく、従業員自身で計画して仕事を進めることができます。
働く時間を自由に決められる
一般的な働き方では「何時までに出勤し、何時までは働かければならない」といった決まりがあり、従業員はそれに従って働く必要があります。
しかし、裁量労働制の場合はそのようなルールに縛られずに自由に働くことが可能です。
したがって、裁量労働制においては事前に「一ヶ月に◯時間働く」ということを決める「みなし労働時間制」が取り入れられます。
例えば、みなし時間が1日7時間の場合は、実際に仕事をした時間が4時間でも9時間でも、処理上は「7時間勤務」ということになり、それが給料に反映されるのです。
また一般的に、みなし労働時間制には時間外労働という考え方も存在しないため、労働者を保護するためにも労働時間についてルールがあったり、適用される職種が限定的といった部分があるので、しっかり確認し、気をつけましょう。
自分自身の働き方を自分でデザインする必要がある
裁量労働制においては、従業員が自分自身でどのように働くのかや働く時間などを計画し、働き方を自身でデザインする必要があります。したがって、従業員は出勤や退勤の時間も自由に決められますし、長時間働いても短時間で仕事を終わらせても構いません。
このように裁量労働制は、かなり自由度の高い働き方が可能となります。
また、裁量労働制を採用すると、部下がいつ出勤や退勤をするのかといったことや、仕事の進め方、働き方について上司が指示・命令することはできません。
裁量労働制における休日手当について
裁量労働制においては、いつ、どのように、どれほど働いても自由です。
しかし、当然ですが裁量労働制においても休日は必要になるので、休日に働いた際には休日手当を支払わなければなりません。
このとき、実際の労働時間で休日手当を算出するべきか、みなし労働時間で算出するべきかは明確になってはいません。しかし、裁量労働制はあくまでも労働契約や就業規則によって定められている労働日数に対しての規律であるため、休日労働は該当しないことになります。
したがって、固定残業代の決まりがないのであれば、労働基準法によって定められている方法で算出することになります。そのため、休日に働いた時間を集計しなければなりません。
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裁量労働制と混同されがちな制度も複数存在するため、それぞれどのように異なるのか見ていきましょう。
- 高度プロフェッショナル制度
- 事業場外のみなし労働時間制
- みなし残業制度(固定残業代制度)
- フレックスタイム制度
それでは1つずつ解説していきます。
高度プロフェッショナル制度
まず裁量労働制と混同されがちな制度として挙げられるのが、高度プロフェッショナル制度です。
高度プロフェッショナル制度とは、コンサルタントや証券アナリストなどのように、高度の専門的知識を持つ、職務の範囲が明確で一定以上の年収のある労働者を対象とした制度です。
年間104日以上の休日確保措置や状況に応じた健康・福祉確保措置を実施することによって、労働基準法で定められた労働時間や休日などの制限を撤廃したものとなっています。
この制度は裁量労働制と同様に、労働者によって労働時間が決まります。その一方で、裁量労働制は休日手当や深夜手当などの割増賃金を支払わなければなりませんが、高度プロフェッショナル制度の場合は、そのどちらも支払う必要がありません。
事業場外のみなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制とは、労働者が使用者の指揮監督が及ばない事業場外で仕事をしたために、その労働時間の算定が難しい際に、使用者が労働者の労働時間を算定する義務を免除し、その事業場外労働は「特定の時間」を労働したとみなせる制度です。
例えば、記事の取材や外交セールスなど、事業場外で仕事をする必要がある場合において、どれだけ働いたかがわからない業務が対象となります。
事業場外のみなし労働時間制では、基本的に会社が決めた所定労働時間を労働したものとします。また、裁量労働制のように業務や職種による制限はなく、労働者に時間などを決める裁量もありません。
この制度は労働時間の算定が難しい部分についてのみ、みなし労働時間を採用する制度です。
みなし残業制度(固定残業代制度)
法的に定められた制度ではありませんが「みなし残業制度」という制度も存在します。
みなし残業制度とは、残業をしてもしていなかったとしても、企業が一定時間の残業を想定して、あらかじめ固定給に残業代を含めて固定分の残業代を支払う制度です。「固定残業代制度」と呼ばれることもあります。
みなし残業制度の場合、想定された残業時間よりも実際の残業時間が短かったとしても、固定された残業代が支払われますが、実際の残業時間が想定の残業時間よりも長くなった場合は、超過した分の残業代が支払われることとなっています。
しかし、この制度を悪用して、実際の残業時間が固定残業以上になったとしても残業代を支払わない企業が増えており、問題となっているため注意が必要です。
フレックスタイム制度
「自由度の高い働き方」と聞いて「フレックスタイム制度」をイメージする方もいるのではないでしょうか?
フレックスタイム制度とは、労働者が始業時間や就業時間、労働時間を自分で決めることで、生活と仕事のバランスをとりながら効率的に働ける制度です。
このように聞くと裁量労働制と同じように感じるかもしれませんが、この2つの最も大きな違いは「コアタイム」の有無にあります。
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コアタイムとは、1日のなかで必ず働かなければならない時間のことで、このコアタイムに働いてさえいれば、いつ出社しても、いつ退社しても構いません。また、所定労働時間が定められていることも裁量労働制との違いです。
例えば、フレックスタイム制度においてコアタイムが13時から17時であれば、13時までならいつ始業してもよく、17時以降であればいつ終業しても問題ありません。しかし所定労働時間は働く必要があります。
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裁量労働制は下記の2種類に分けられており、それぞれ対象となる業務や事業場が異なります。
- 専門業務型裁量労働制:業務の性質上、その遂行の方法を労働者の裁量に任せる必要がある職種
- 企画業務型裁量労働制:企画、立案、調査、分析を行う職種
それでは1つずつ解説していきます。
専門業務型裁量労働制とは
「専門業務型裁量労働制」は、研究開発など業務の性質上、仕事の進め方を労働者の裁量に任せる必要があるため、その仕事の進め方や時間配分について指示することが難しい業務を行う職種が対象です。
具体的には下記のような業務のほか、合計で19の業務が対象となっています。
- ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
- 公認会計士の業務
- 弁護士の業務
- 建築士の業務
- 税理士の業務
- 中小企業診断士の業務
- インテリアコーディネーターの業務
- デザイナーの業務
- コピーライターの業務
このほかの業務については下記のサイトで確認できるため、参考にしてみてください。
企画業務型裁量労働制とは
「企画業務型裁量労働制」とは、企業において事業運営上の重要な決定がなされる事業場で、企画立案や調査、分析などを行うホワイトカラー労働者に対して、みなし時間制を認める制度です。
専門業務型裁量労働制のように対象業務が細かく限定されているわけではありませんが、厚生労働省によれば下記の4つの要件を満たしている業務を行う労働者が対象となっています。
- 事業の運営に関する事項についての業務であること
- 企画、立案、調査および分析の業務であること
- 当該業務の性質上、これを適切に遂行するには、その方法を労働者の裁量に任せる必要がある業務であること
- 当該業務の遂行の手段および時間配分の決定について、使用者が指示をしない業務であること
(参考:企画業務型裁量労働制丨厚生労働省)
(参考:企画業務型裁量労働制の適正な導入のために丨東京労働局・労働基準監督署)
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裁量労働制の導入は、企業と労働者に大きな影響を与えます。ここではまず、裁量労働制を導入するメリットを企業側と労働者側に分けて見ていきましょう。
企業側のメリット
企業において裁量労働制を導入するメリットは下記の2点が挙げられます。
- 人件費の管理がしやすい
- 労働管理費を抑えられる
それでは1つずつ解説していきます。
人件費の管理がしやすい
裁量労働制は、みなし労働時間によって給与を算定するシステムです。
もちろん、休日手当や深夜手当といった割増賃金を支払う必要はありますが、基本的に時間外労働による残業代は生じないという前提のもと、みなし労働時間を設定します。
つまり原則的に残業代がない、みなし労働時間から人件費の総額を前もって算定できることにより、人件費を予測しやすくなるのです。
労働管理費を抑えられる
そして、もう一つの企業側のメリットは、労務管理が容易になることです。
毎月、従業員の残業代を1人ずつ計算して時間外労働の残業代を支払うのは、時間と労力を要する業務といえるでしょう。
しかし先述したように、裁量労働制においては、深夜や休日などの割増賃金となる時間以外では、基本的に時間外労働の割増賃金が生じることはありません。みなし労働時間を固定給として計算することが可能になるため、労務管理にかかる費用や労力を抑えられます。
労働者側のメリット
続いて、労働者側のメリットを見ていきましょう。
- 柔軟な働き方ができる
- 労働時間を短くできる
それでは1つずつ解説していきます。
柔軟な働き方ができる
例えば、コピーライターの場合、働く時間でお金を貰っているというより、出したアイデアのクオリティによってお金を貰っていると言えます。したがって、良いアイデアがすぐに出てくれば、勤務時間が定められている場合は時間が余ってしまいます。
一方で、良いアイデアがでなければ残業することになり、その分だけ残業代が発生してしまいます。これは時間の使い方としては、労働者としても企業としても不都合です。
ここで裁量労働制を導入すると、柔軟な働き方が可能になります。良いアイデアをすぐに思いつけばその日はすぐに終業とでき、一方で良いアイデアがなかなか出てこない場合には気が済むまで働くことができるのです。
労働時間を短くできる
労働者にとって、裁量労働制の最も大きなメリットは労働時間を短くできることではないでしょうか。
必要な仕事さえ終わればその時点で終業となるため、短い時間での勤務が可能となり、余った時間は自分の好きなことに使えます。そして、これまで決められた勤務時間で終わらせていた仕事を早く終わらせるためには、生産性を上げなければなりません。
これにより、企業にとっても生産性の向上が期待できます。
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このように、労働裁量には企業にとっても労働者にとっても嬉しいメリットがいくつもありますが、その一方で下記のようなデメリットもあることに注意しなければなりません。
導入するための手続きが煩雑
新しい制度を取り入れるのには様々な手続きが必要であり、裁量労働制に関しては給与計算などの方法も大きく変わってくるでしょう。
それに加えて、裁量労働制を導入するには、適切な手続きを踏む必要があります。しかし、その手続きが煩雑であるため負担がかかる、というデメリットにもなるのです。
例えば、労働者を代表する委員と使用者を代表とする委員で構成された労使委員会を設置しなければならなかったり、労使委員会の運営ルールを定める必要があり、かなり細かく労使協定で取り決めをしなければなりません。
メリハリがなくなる
労働者側のデメリットとしては、自由に働く時間を決められることによって、生活と仕事のメリハリがなくなってしまうことです。
一般的な働き方であれば、決められた始業時間があるため「よし、始めるぞ」と仕事を始め、就業時間となれば「今日はここで終わり」と区切りをつけることができます。
しかし裁量労働制においては始業時間も就業時間も存在しないため、いつまでも仕事を続けられてしまうのです。これによって、オンオフが効かなくなり心身の不調の原因となることもあります。
まとめ
ここまで、裁量労働制についてその概要から間違えられやすい他の労働制度との違い、メリット・デメリットなどを解説しました。
昨今の変化の多い時代と新型コロナウイルスの流行なども相まって、働き方の多様化が進んでいます。働き方で仕事を選ぶ人も増えている時代なので、自社の業務にあった働き方、従業員にあった働き方を検討することは、今後の人員確保や生産性向上にも役立つでしょう。
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