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サッカー日本代表監督のマネジメントを、一般企業にあてはめてみる-社会変化という視点から-

かつて「監督にプロ待遇を」と主張したサッカー日本代表監督がいました。結局それは認められず、その日本人監督は辞任。名を森孝慈と言い、当時ワールドカップはおろかオリンピックにも出ることが叶わない日本の「切り札」と言われ、実際にワールドカップまであと一歩まで迫った監督でした。[1]

 

時はJリーグが開幕する10年近く前のこと。日本経済はバブル前夜、日本サッカーは暗黒時代という皮肉なコントラストを描いている時代の話です。

この記事ではサッカー日本代表監督と一般企業を合わせ鏡にし、「上層部、経営層に対する現場マネージャーのマネジメント術」に迫っていきたいと思います。

 

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この記事で考えるマネジメント

まずはこの記事で扱うマネジメントがどういったものかの整理し、なぜサッカー日本代表の監督と合わせて考えることができるのかをお伝えしていきましょう。

 

マネジメント≒成果を上げること

マネジメントは一般的に部下を指導、育成、管理していくことと受け取られがちです。しかしそれは大きな枠組みの中の一部で、マネジメントの本質はかのP.F.ドラッカーが定義するように「組織に成果をあげさせる」ためのものです。[2]

つまりマネジメントとは成果を上げることであり、その手段の一つが部下との関り方と言えるのです。

 

この記事を読むうえで、まず最初に「マネジメントとは成果を上げること」という論旨が前提にあることを理解して下さい。

 

上層部、経営層との関係も重要

この記事で取り扱う主体者は、現場のマネージャーです。現場マネージャーには部下がいますが、上司や経営層といった組織の上層部も存在しています。マネジメント、つまり成果をあげるためには、こうした上層部との関係性も大切と考えます。

なぜなら組織内での支援が受けられない、あるいはマネージャーの立場が不安定であれば現場の不安も増し、プロジェクトの進行もおぼつかないからです。

 

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サッカー日本代表監督と、時代を合わせて考えていく

この関係性は、「日本代表監督(現場のマネージャー)とサッカー協会(上層部)」にもあてはめることができます。

 

サッカーの歴史を紐解くと、「あの時の動きは一般企業でみるとこういうことか」と実感ができます。

それでは、サッカー日本代表監督とサッカー協会の関係性、そして監督自身の協会へのマネジメントを見ながら、日本社会で一般企業のマネジメントの変化と重要性を見ていきましょう。

 

昭和後期

まずは昭和後期、西暦でいえば1980年代半ば頃です。

 

代表監督のプロ化要求-人情と厳しさの狭間で

冒頭で紹介した森孝慈監督は、メキシコワールドカップをかけた東アジア最終予選で韓国に敗退、W杯初出場の道を閉ざされました。

韓国にはすでにサッカーのプロリーグがありましたが、日本はアマチュア。森監督は勝利という成果に対して厳しく評価される「監督のプロ化」をサッカー協会に要求しましたが、これは退けられました。[3]

 

理由として伝わる話には、「成績が出なかったからといって、クビにするなんてできない」と言われたそうです。

当時のサッカー協会は、日本サッカーの一番の栄光であったメキシコオリンピック銅メダルの関係者で構成、また日本代表監督もメキシコオリンピックチームの一員というのが暗黙の了解でした。つまり同じ釜の飯を食ったファミリーです。プロという「結果が出たか、出ないか」で切り捨てるという組織ではなかったのです。

 

日本型、家族的経営の時代

これは当時の日本の一般企業、つまり日本型家族的経営にピタリと符合します。なお当時の日本サッカーはアマチュア組織であり、日本代表監督もアマチュア。民間企業に籍を置く人間ばかりであり、そういった意味でも家族的経営の立ち振る舞いが自然と身に付いていたのかもしれません。

 

さて当時の日本企業ですが、成果の追求がそれほど厳しくなく、ともすればサッカー協会以上に人情が勝っている組織でした。日本経済は右肩上がりの成長を続けていましたので、成果をそこまで厳しく要求されるような雰囲気ではなかったのです。かといってのんびりした仕事ぶりというわけではなく、休日は日曜と祝日のみ、残業は当たり前というモーレツな働きぶりはありました。[4]

しかしこのベースには日本型家族的経営というものがあり、社長を「親父」と呼ぶような企業が多く見られていました。

 

つまりこの時代は、成果をあげることを目指すテクニカルなマネジメントは不要だったのです。リストラという言葉もまだなく、終身雇用、年功序列が当たり前でした。

現代におけるマネージャーという存在はこの時代では家族の一員であり、企業から追い出されることはありませんでした。またきちんとした成果も求められていなかったのです。

 

平成

次は平成について。約30年間の時代は、社会を昭和後期とはまったく違うものに変えました。

 

代表監督-成果の追求から至上主義へ

森孝慈監督が退任した後の日本代表は石井義信、横山謙三という二人の日本人監督を経て、ハンス・オフトという初の外国人監督を迎えました。

監督が変わっても日本サッカーは国際試合で芳しい成果をあげることができず、ともすれば悪くなっていくような流れさえあった時に、大きな決断がなされたのです。

 

オフトはプロの監督です。ですから「成果が出なければ終わり」です。実際にワールドカップ予選敗退後に辞任となりました。

その後に続く監督たちも、目標が達成されなければそこで終わり。クビを切れなかった日本サッカー協会という組織が、成果によりクビを切れる組織になったのです。

日本サッカー協会が外国人監督のクビを切ったのは1994年、ブラジル人のファルカンが就任から1年を待たず解任となりました。

そして記憶に新しいでしょう、平成の終わりにはボスニア・ヘルツェゴビナ出身のハリルホジッチ監督がロシアワールドカップ直前に解任となります。

 

ドライな企業風土の醸成

サッカーよりも少し早い時期から、日本の一般企業ではクビ切りが始まりました。それを緩和する言葉として広がった用語がリストラです。それまでクビというのは滅多に起こらない、企業もしたがらないものでした。しかしバブルが崩壊し、銀行さえも倒産するという状況になり、「成果が出なければリストラ」という文化はあっという間に定着しました。

 

また終身雇用をベースに会社にいれば上がっていくだけだったポジションも、成果が出せなければ降格があるという状態に転換していきました。

このように一般企業も、プロ監督を入れた日本代表のように厳しいものになっていったのです。日本型家族的経営から、ドライな企業風土へと転換していった平成の約30年間だったといえるでしょう。

そしてこうした時代だからこそ、「マネジメント」の必要性が出てきたのです。

 

上層部に対するマネジメントの必要性と方法

それではこの記事の主題である、サッカー代表監督のマネジメントを通して、一般企業の上層部にどう対応していけばいいかを考察してみましょう。

 

代表監督のマネジメント術

ファルカン、ハリルホジッチ両監督の解任の際には、「コミュニケーション不足」という理由も添えられていました。[5]

両監督ともに芳しい結果が出ていなかったのは事実ですが、ワールドカップの予選や本戦ではなかったので、“監督によって”は解任とはならなかったでしょう。

 

実際に2002年のトルシェ監督、ジーコ監督は結果が出ずに批判が沸き起こった際は、それを帳消しにするような一応の結果をそのたびごとに出し解任を免れていました。

またザッケローニという監督はまずまずの成績だったものの、肝心のW杯本戦では3連敗、けれども「次の代表監督もやってもらっては?」という話が出るほどの好印象を残した監督でした。

 

つまり「悪い結果のあとには、それをリカバーする結果をすぐに出す」「サッカー協会ともきちんとした関係性を築く」といったことに取組んでおけば、必ずしも解任とはならなかったのです。

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一般企業にあてはめてみる

一般企業にこの代表監督のマネジメントをあてはめてみましょう。

まず悪い結果のリカバーですが、たとえば目標に対する成果が出ない場合にも、すぐさま違う成果を見せることが肝心です。

 

通常はKPI(key performance indicator)が定められていますが、それはツリー状になりさまざまなKPIが合わさって最終ゴールになります。

ですから「メインの目標は達成できなかったが、この部分では大きな成果が出せていた」と示すことです。とはいえサブKPIの成果もそれほど良くないケースも多いでしょう。その場合は「まずまずの成果だったが、ここが悪くて最終の成果に結びつけられなかった」と説明することです。実際にサッカーのトルシェ監督もフランスに大敗した後にスペインに0-1の僅差で負けた際は解任を免れていました。

 

そしてもう一つ。成果ではなくコミュニケーションで上層部の信頼を勝ち取る手法があります。ザッケローニ監督はこのタイプにあたります。

成果至上主義とはいっても、日本企業はそこまでドライな割り切り方はしません。「この人に任せておきたい」と思わせる態度を普段から取っておけば、上層部へのマネジメントは成功しているといえます。

 

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まとめ

スポーツでは、監督が解任されても結果が良い時があります。しかしビジネスだとそれはほとんど期待できません。つまり現場のマネージャーが交代となれば成果が出ず、目標に向かうという意味のマネジメント全体としては失敗に終わる確率が高くなるのです。

現場のマネジメントをきちんとおこなうためにも、上層部へのマネジメントは不可欠といえるでしょう。

 

さてこの記事を書いているタイミングで平成から令和へと時代が移り変わりました。

これからの時代、上層部へのマネジメントはどう変化していくのでしょうか。

「高度プロフェッショナル制度」の導入もあります。それにより会社員がプロ待遇のようになっていく時代へとよりシフトするでしょう。つまり成果が出なければ今までよりも簡単に解雇される、という時代の到来です。[6]

これからの時代を生き抜くためにも、この記事で解説した上層部へのマネジメントがいっそう必要となってくるのではないでしょうか。

 

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参照

[1] 森孝慈(日本サッカーアーカイブ)
http://archive.footballjapan.jp/user/scripts/user/person.php?person_id=41
[2] マネジメントの意味とは?ドラッカー理論・役割・各種マネジメント法まで(BizHint)
https://bizhint.jp/keyword/92326
[3] 代表監督交代がもたらした波紋 協会との見解の相違に苦悩した森監督(サッカーマガジンアーカイブス)
http://www.vivasoccer.net/archives1966-2006/contents/1981.6-1987.3/198605.html
[4] 戦後日本の経済成長(内閣府)
https://www5.cao.go.jp/2000/e/1218e-keishin-houkoku/shihyou1.pdf
[5] 日本代表と外国人監督 「なんでも聞いてくれ」の先で起きた24年前の解任劇(THE ANSWER)
https://the-ans.jp/column/22089/
[6] 高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000497408.pdf

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