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皆さんは「生産性」の正しい定義をご存知でしょうか?
ビジネスでは「生産性を上げる」ことを課題としている企業もありますが、生産性の定義が明確になっておらず、漠然と何をすればよいのかわからない方も多いことでしょう。
本記事では、生産性の意味と定義、計算方法をわかりやすく解説します。
「生産性を向上させたい」方にもおすすめの記事となっていますので、ぜひご一読ください。
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生産性とは?
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- 生産性の意味、定義
- 物的生産性
- 付加価値生産性
上記の切り口から、生産性をわかりやすく解説します。
生産性の意味、定義
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ヨーロッパ生産性本部(EPA)によれば、生産性は「生産諸要素の有効利用の度合いである」と定義されており、式で表すと以下のようになります。
生産性=産出量(アウトプット)/投入量(インプット)
これを解説するとまず、ひとつの製品を製造するにはお金がかかっています。そこに関わる人件費や原材料費用は全て「インプット」です。そして生み出された商品には価値があり、これを「アウトプット」と定義しています。
したがって、少ないインプットで多くのアウトプットを生み出すことができれば生産性は高くなります。ただし、何をアウトプットとするかで生産性は以下の2つのパターンに分かれます。
- 物的生産性
- 付加価値生産性
この後詳しく解説をします。
物的生産性
物的生産性とは、アウトプットを個数や重量といった物理的、もしくは販売金額といった数値的な「生産量」とした際の生産性のことです。物的生産性はインプットを分類することで、以下の4種類に分けられます。
労働生産性(1人あたり) | 生産量 / 労働者数 |
労働生産性(時間あたり) | 生産量 / (労働者数×時間) |
資本生産性 | 生産量 / 資本ストック数 |
全要素生産性 | 生産量 / (労働+資本+原材料) |
付加価値生産性:労働生産性/資本生産性
労働生産性に対し、企業の生み出した付加価値に注目した生産性の計測方法は、付加価値生産性と呼ばれています。
付加価値とは、原料に対し、企業が加えた価値のことをいいます。
企業活動の意義には、既にあった商品にプラスαを提供する意味合いが含まれますので、生産量ではなく付加価値額に注目し、生産性を計測することもあります。
付加価値生産性(1人あたり) | 付加価値額 / 労働者数 |
付加価値生産性(1人あたり) | 付加価値額 / (労働者数×時間) |
付加価値生産性 | 付加価値額 / 資本ストック数 |
付加価値生産性 | 付加価値額 / (労働+資本+原材料) |
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付加価値とは?正しい計算方法と粗付加価値額や労働生産性との関係をわかりやすく解説!日本の生産性の現状:低い
日本生産性本部の2020年のレポートによると、日本の生産性は低いと言われています。
ここからは、日本の生産労働性が他国と比べてどうなっているかをわかりやすく解説します。
参考:日本企業の労働生産性 | 日本生産性本部
時間あたり労働生産性
日本の時間あたり生産性は47.9ドルとなっており、OECDの37か国のうち21位とかなり低い水準です。米国の時間あたり労働生産性は77.0ドルなので、米国と比較すると時間あたり労働性は低いと結論付けられそうです。
主要先進7か国で比較すると、1970年から日本の順位は最下位となっているため、労働生産性は低いと言えます。
1人あたりの労働生産性
1人あたりの労働生産性はより深刻です。日本の1人あたりの労働生産性は81,134ドルでOECD37か国のうち26位と低迷しています。
名目ベースでは前年水準より3.6%ほど改善されていますが、それでもOEDC中26位という数字自体が、日本の労働生産性の低さを物語っています。
参考:労働生産性の国際比較2020 | 公益社団法人 日本生産性本部
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日本人の生産性が低いのは何故なのでしょうか。
それには以下2つの理由が考えられます。
- 社員数が多いから
- 労働時間が長いから
それぞれわかりやすく解説します。
社員数が多いから
まずは社員数が多いのが理由です。
日本企業では、1万ドルを稼ぐためには29人の社員が7時間以上の労働をしなければなりません。一方のアメリカやドイツの労働生産性をまとめると以下の通りです。
♢1万ドルを獲得するために必要な人数と時間
アメリカ | ドイツ |
19人 | 25人 |
7時間 | 6時間 |
すなわち、この2か国と比較すると、日本は人数をかけているのにもかかわらず、仕事の時間すら長い現状です。
労働生産性が他国と比べて低いのは、日本の大手企業が必要な社員数以上の人数を獲得した背景があります。高度経済成長期には、商品を売れば売るほど企業は利益が出たため、雇用の拡大を続けました。
この際、効率よく生産するよりも、まずはヒューマンパワーで商品を増産し売り続けることが効率的だったのです。
しかし、バブル崩壊後は作れば作るほど商品が売れるといったことはなくなり、付加価値をつけて商品を販売することが重視されました。しかし日本では高付加価値業界(ITや医療分野)への移行に失敗し、変わってドイツやアメリカなどがこうした事業を牽引しました。
社員人数が十分に足りていた日本は、生産性を重視した経営をする必要がなくなり、結果として社員数は減らないのにアウトプットも停滞する失われた10年を過ごすことになります。
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参考:本気で考える、日本の労働生産性はなぜ万年ビリなのか? | NewsWeek
労働時間が長いから
労働時間が長いのも労働生産性が向上しない原因のひとつと言われています。労働時間がただ伸びるだけの長時間労働は、心身のバランスを不安定にし、労働生産性を大きく損なうのです。
ただ労働生産性が落ちるだけではなく、労働時間が長いことで社員が自己研鑽できないのも大きな問題です。
内閣府は、自己研鑽を行わない社員の理由が、長時間労働にあるという調査結果を発表しています。
参考:働き方改革が生産活動に及ぼす影響 | 内閣府
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戦時中の「スパイの罠」と「日本の生産性が低い理由」が一致しすぎて驚かされる話業種によって生産性は変わる
労働生産性は業種によっても変化します。労働は以下の3つの労働に分けられています。
- 資本集約型
- 労働集約型
- 知能集約型
それぞれわかりやすく解説します。
資本集約型
まず資本集約型は、製造業やガス、不動産などの業種です。資本集約型の労働では、資本設備の効率性が大きく労働生産性に関わります。
したがって、労働生産性を挙げるためには、設備投資を実施し、設備の効率化を図るのが最も効果的な業種です。
労働集約型
労働集約型とはサービス業や医療、福祉などのサービスのことです。労働集約型の場合には、業務量が労働力に大きく影響します。
労働集約型の場合、対面での仕事になるため付加価値の向上が難しいと言われています。
知能集約型
知能集約型とは、弁護士やコンサルティングなど人間の知的な労働に依存する産業のことです。知能集約型の場合は、大きな資本が必要なく、個人のスキルが上がれば労働生産性も向上する仕事です。
したがって、自社の労働生産性を他の会社と比較するためには、同様の業種をベンチマークにしないと、その施策やスコアが大きく現実と乖離する可能性があります。
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経営者
日本国内の労働生産性について詳しく確認してみましょう。
- 大企業の方が労働生産性は高い
- 生活関連サービス・宿泊業の付加価値は低い
それぞれ詳しく解説します。
大企業の方が労働生産性は高い
日本の労働生産性の低さの要因の一つとして「社員数が多い」と挙げましたが、実は中小企業と大企業の労働生産性を比較すると、大企業の方が労働生産性が高くなっています。こうした背景にあるのは、資本力による効率的なソフトやアプリの導入です。
大企業は、ITソフトを自社に取り入れることで労働時間の縮小に成功しています。中小企業はITソフトを導入するための費用がかさむため、なかなかソフトをダウンロードできない状況が続いているのです。
また、大企業であればコア業務以外をバックオフィスに集約することで、効率的な企業運営ができるのに対し、中小企業はその資本が足りないことがあります。
生活関連サービス・宿泊業の付加価値は低い
生活関連サービス、宿泊業の付加価値が低い現状があります。生活に必須な生活関連サービスは値上げをするのが難しい製品であり、宿泊業の場合も付加価値が低い傾向にあります。
生産性を向上させるためには
社員の生産性を向上させるために必要な施策は以下の6つです。
- 従業員のモチベーション増加
- 従業員のスキルアップ
- IT機器の導入
- ノンコア業務の外注化
- コア業務への注力
- 業務の見直し
それぞれ詳しく解説します。
従業員のモチベーション増加
生産性向上のためには、従業員が時間あたりに稼ぐアウトプットを増やさなければなりません。そのためには社員からモチベーションを引き出し実践をさせる必要があります。
従業員のスキルアップ
労働生産性の向上のためには、従業員のスキルアップも欠かせません。社員のスキルアップのためには、自社での研修や、外部講師を呼びスキルアップのための研修を実施するのが有用です。
また、従業員自身の外部で学ぶマインドを、1on1ミーティングなどを通じて教えることも大切です。
IT機器の導入
IT機器の導入も生産性向上のためには欠かせません。具体的には、ノンコア業務(自社の優位性に関わらない業務)を解消できるITサービスの利用が必要です。
IT機器の導入コストはかかりますが、一度登録するだけであとは直感的に扱えるものもあります。
ノンコア業務の外注化
ノンコア業務を外注することも生産性向上に有効とされています。自社でリソースを割いてまで進めている業務には、外部に依頼した方がコストが削減できるものもあります。
こうした業務を外注することで、残ったリソースをコア業務へと割き、業務を効率化できる可能性が高まります。
コア業務への注力
ノンコア業務を外注化した後に実施すべきなのが、コア業務への注力です。企業の競争優位性にはコアコンピタンスと呼ばれる自社の価値提供部分を明らかにすることが重要です。
こうしたコア業務へ注力すれば、他社との差別化戦略を図ることも可能になります。
業務の見直し
生産性の向上のためには、業務にかけている人数、費用を算定することも大切です。企業が費用をかけて取り組んでいる業務の中には、そこまで費用をかける必要のないものも存在します。
上記の業務を洗い出し、業務効率の改善に努めることで生産性は向上することでしょう。
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「仕事ができるふりをする人」が周りの生産性を下げる【対処法あり】生産性向上を実現した事例:日本米穀小売商業組合連合会
日本米穀小売商業組合連合会は米穀小売店の経営をサポートするために立ち上げられた団体です。
それ以前の精米業者は、精米後に米ぬかを捨てる他に選択肢がないという課題があり、米ぬかを捨てるのにもコストや時間がかかるという二重の問題がありました。
そんな中、日本米穀小売商業組合連合会は精米後の米ぬかの有効利用のために以下のツールを開発しました。
- 米ぬか有効利用のための小冊子
- 米ぬかのパッケージのブランディング
この他、米ぬかのレシピをネット上で公開するなどして、米ぬかの再利用に力を入れました。
結果としてこの試みは成功し、今まで廃棄していた米ぬかが売れるようになったことで精米店の売上向上にも貢献、従業員やパートの給与も上がり、生産性が向上したよい事例です。
まとめ
本記事では、生産性の定義と取組事例をわかりやすく解説しました。
生産性を向上させるためには、自社のコア業務とノンコア業務を分離し、ノンコア業務をうまく外注することが大切です。
自社の生産性向上のために本記事をぜひご活用ください。
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