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近年、銀行や証券、保険といった金融領域にテクノロジーの波が押し寄せ、新たな価値やビジネスが生まれるようになっています。
人工知能やブロックチェーンなどの先進テクノロジーによってこれまでの金融サービスを刷新し、イノベーションを起こすベンチャー企業のことを「フィンテック企業」と言います。
本記事では、現在活況を呈する「フィンテック」の概要や今後の展望について解説していきます。
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目次
フィンテックとは
フィンテックとは、金融を意味する「Finance」と技術を意味する「Technology」を組み合わせた造語です。
フィンテックの領域は、金融サービスと情報技術の両方に跨がり、多くの場合金融機関とIT企業が連携をしながら金融サービスを提供します。
スマートフォンが普及したことで、このフィンテック利用者は格段に増加しました。また、アメリカを中心とするベンチャーキャピタル市場でも、フィンテック関連のスタートアップ企業への投資が注目されています。
フィンテックの概要
フィンテックは金融機関が持つサービスのうち、顧客が必要とする一部の機能のみに特化したことで、低コストかつ高速でサービスを提供できるようになりました。
フィンテックの例としては、銀行口座と連動したスマホアプリや株取引といったサービスが挙げられます。
こうしたアプリはクラウドサービスとして提供されるため、個人や中小事業者といった利用者も多く、高い支持を得ています。
フィンテックの歴史
1860年代の海底ケーブルでの電子資金振替が、FinTechの始まりです。
その後、金融機関でのデジタル化へと転用され、1950年代にはATM、1980年代にはオンラインバンキングが始まりました。そしてフィンテックの勃興となった2008年、アメリカの大手証券会社リーマン・ブラザーズの経営破綻(リーマン・ショック)によって、銀行の既存システムへの不信感が高まり、金融業界の人材がIT業界へ流入します。
こうした背景から、金融業界に関する様々な課題を解決するため、AI(人工知能)やブロックチェーンといったテクノロジーを活用した多くの金融サービスが誕生しました。
フィンテック拡大の背景
フィンテック拡大の背景には、情報通信技術(ICT)の発展があります。
2001年登場した「3G」によって、スマートフォンが大きく普及し、多くの利用者が金融サービスにアクセスできるようになりました。
そして、2008年のリーマン・ショックから金融機関に対するサービス体制に人々が疑問を抱きはじめ、金融サービスの分権化が起こります。その台頭となったのが、2009年に誕生した「ビットコイン」です。
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フィンテックの現状
現状、日本ではフィンテック領域に転職するITエンジニアが増えてきています。その理由として以下2点が挙げられます。
- 経済や国民の生活を変革させるほどの金融サービスを提供できる可能性がある
- 先端IT技術を扱える技術力を得る機会がある
多くの大企業がフィンテック領域に投資を行っているため、資本の獲得や大手との業務提携がしやすく、ビジネスを立ち上げやすいという現状があります。
また、フィンテック分野のエンジニアになれば、代表例ともいえるビックデータやAI、ブロックチェーンなどといった先端IT技術にも触れることができるのもメリットでしょう。
世界では、フィンテックに関連した企業への投資やキャッシュレスを推進する動きが活発化しており、金融庁もフィンテックに関連した新たな取組の動きを見せています。
参考:フィンテックに関する現状と金融庁における取組み | 金融庁
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フィンテックを活用した7つの分野
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では、実際フィンテックを活用している分野に目を向けてみます。フィンテックサービスにはおよそ11分野ありますが、ここでは、身近で代表的な7つの分野の解説を行います。
- 仮想通貨
- 金融資産の運用
- クラウドファンディング
- 融資・ローン
- キャッシュレス決済・送金
- 保険
- 金融情報
それぞれ詳しく解説します。
仮想通貨
仮想通貨とは、ある特定の国家が価値を保証していない、一部の商品やサービス決済ができるデジタル通貨のことです。
インターネット上で通貨のように取引され、専門取引所で円やドル、ユーロ、人民元などに換金することができます。
こうした非中央管理的な技術を可能にしたブロックチェーンは、まさにFintechを代表するサービスです。ブロックチェーンを利用した仮想通貨では、改ざん不可能、さらに取引データを残すことでその後の捜査などにも役立てることができます。
金融資産の運用
金融資産の運用では、AI技術の活用が非常に活発になっています。WealthNavi、THEO、folioなどのAIを実装したロボットアドバイザーが、運用の自動化や目的に沿ったポートフォリオを作成してくれるのです。
この技術のおかげで初心者でも資産運用を始めやすくなりました。
老後2000万円問題が最近話題となりましたが、今後、個人でも資産運用をしなければならない時代がやってきます。そのため、AIを搭載した金融資産運用サービスのさらなる普及が予測されています。
クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、何か事業を興したいときに、オンライン上からその資金を調達する仕組みのことです。
これまでは、銀行から融資してもらい、その資金を使って事業を興すことが一般的な流れでしたが、クラウドファンディングが登場したことで、個人から資金を調達することが可能となりました。
国内最大級のクラウドファンディング「CAMPFIRE」の累計流通額は2019年に150億円を突破し、今後もまだまだ成長の余地が残されているサービスと言えるでしょう。
参考:CAMPFIRE|㈱CAMPFIRE
融資・ローン
融資やローンは金融機関の代表的な銀行員の業務でしたが、現在はフィンテックが活用されています。
例えば住宅ローンの比較や検討、住宅ローンの借り換えサービスなどは、ビックデータを利用してローン審査や限度額の決定がされるようになりました。個人の信用度の数値化が可能になったことで、職種や地位の優劣に関係なく融資やローンが受けられる可能性が広がっています。
キャッシュレス決済・送金
家族や友人間で同じ決済アプリを通じてキャッシュレス決済・送金を行うことができるサービスも、フィンテックのひとつです。
例えば、身近な決済アプリであるPayPayもフィンテックにあたります。こうした決済アプリで決済・送金できるメリットは、手数料無料、かつ1円単位で簡便に行えることです。
ICT総研が行った国内スマホ決済市場の調査では、2019年に1.8兆円だった市場が、2020年度には2.9兆円へと急拡大すると予測しています。
参考:2019年度モバイルキャッシュレス決済の市場動向調査 | ICT総研
保険
保険に関するフィンテックを活用したサービスは、Insurance(保険)とTechnology(テクノロジー)を掛け合わせてInsurTech(インシュアテック)と呼ばれます。
他の分野と同じくAIやビックデータを活用して業務の効率化を可能としました。また、これまでブラックボックスになっていた保険金の用途、内訳を公開するなどし、保険契約者同士のリスクを分散してシェアする、新しい保険スタイルも誕生しています。
金融情報
金融や経済に関する膨大なデータを処理するサービスもフィンテックの一つです。
投資家の投資先や企業戦略を練る際には、金融情報に関する膨大なデータを効率よく収集する必要があります。
こうしたデータを分析し、高品質な情報を提供するサービスも誕生しています。
例えば、金融機関のフィンテック化支援等を行っているZUUや、市場分析や競合調査などの経営意思決定を支える経済情報プラットフォームを提供しているSPEEDAなどは、金融情報に関連したフィンテック企業です。
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フィンテックに活用されているテクノロジーの具体例
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技術(テクノロジー)は脈々と続く時代の発展とともに高度化し、不可逆という性質を持ちます。金融と技術を掛け合わせたフィンテックには、以下のような最新技術が活用されています。
- ブロックチェーン
- AI(人工知能)
- API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)
ここではフィンテックに活用されている技術の具体例について解説していきます。
ブロックチェーン
ブロックチェーンとは、経時的な取引履歴を一次元的に暗号化し、正確な取引履歴を維持する技術です。データの破壊や改ざんが困難で、障害によってシステムが停止するリスクが低いという特徴が挙げられます。
また、中央管理システムではなく分散的に管理するシステムのため、ネットワークに接続している端末同士でデータの共有が可能です。したがって中央サーバーが不要になるため、従来のデータベース型のシステムと比べて大幅なコスト削減ができます。
AI(人工知能)
AIとは、認識、推論といった人間の知的行為の一部をソフトウェアにより人工的に再現する技術です。ビッグデータからパターンを自動認識させ、学ばせることによりコンピューターをトレーニングします。
AIの研究分野は多岐にわたり、理論や手法、機械学習、ディープランニングなどがあります。現在はAIによって生活やビジネスにおける単純的な業務や、経済市場の動向予測といった難しい業務まで自動化されるようになりました。
API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)
APIとは「Application Programming Interface」の略で、内部と外部のアプリケーションを連携させるシステムのことです。
例えば、フェイスブックやGoogleなどアカウントを利用して、それ以外のアプリにログインできる機能もAPIの一種です。アプリとアプリを繋げることで、機能性の拡張や高い利便性を実現し、双方のアプリの相乗効果をもたらします。
また、APIで組み込むことができるプログラムがある場合、ソフトウェアを1から開発する必要がないため、業務の効率化や経費の削減が可能となります。
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日本のフィンテック関連銘柄
経営者
これまで解説してきたとおり、フィンテックの市場規模は今後も拡大が予測されており、実際に国内でもスマホを媒体とした資産運用や決済サービスなどの利用が急速に進んでいるのが現状です。ここからは、以下の国内フィンテック関連企業を5社説明します。
- CAICA
- ラクーンホールディングス
- フィスコ
- マクアケ
- ブイキューブ
それぞれ詳しく解説をします。
CAICA
CAICA(カイカ)は、数多くの金融システムの構築で培ってきた知見と最先端テクノロジーを掛け合わせ、革新的な金融サービスを提供する企業です。
AI、クラウド、IoTなどの最先端テクノロジーの中でも、特にブロックチェーンへの知見が豊富にあり、仮想通貨に関連するシステム運用や開発、仮想通貨投資などの事業を展開しています。また、最近ではNFT(Non Fungible Token)の拡販についてのアライアンスを締結したと発表しています。
ラクーンホールディングス
ラクーンホールディングスは、事業者向けの電子商取引(EC)サイトの運営や決済サービスなどの事業を行う上場企業です。
日本全国のアパレルメーカー、雑貨、インテリアメーカーから直接仕入れができる卸サイトのスーパーデリバリーや、企業間取引における与信管理、代金回収等の請求代行サービスPaid、すべての業種における企業間での発注をWEB上で一元管理できるクラウド発注ツールCOREC等のサービス運営を行っています。
フィスコ
フィスコは仮想通貨や株などの金融情報提供サービスに注力している企業です。各投資市場に対する分析と、豊富な知見によって投資家達を支援しています。
マーケットリサーチによって1日平均500本の情報記事をリアルタイム発信し、国内外の機関投資家やアナリスト、ストラテジストといったマーケット関係者への取材やアンケートを実施し、調査等を行っています。
他にもIRコンサルティングや広告、クリエイティブ事業も手掛けています。
マクアケ
マクアケはクラウドファンディング大手の企業です。
同社が運営する「Makuake」は日本でも有数の人気を誇っており、全国で90以上の金融機関と提携または連携しています。
「Makuake」クラウドファンディングでのこれまでの実績例としては、歴史ある祇園祭や映画「この世界の片隅に」などの大きなプロジェクトなどが挙げられます。最近では、地域企業や団体が実施するプロジェクトを支援するケースも増えてきています。
ブイキューブ
ブイキューブはWEB会議配信システムなどを提供している企業です。
また、フィンテックの活用を勧めている金融機関、そしてフィンテック事業者向けに、オンライン対面でのコミュニケーションをフィンテックサービスに埋め込むことができる「フィンテックアダプター」の提供を行っています。
ブイキューブが提供しているビジュアルコミュニケーションサービス「V-CUBE」とフィンテックサービスの併用により、金融商品、金融サービスの紹介や対面での商談などがオンラインで実現可能となりました。
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フィンテックの今後の展望
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フィンテックを活用した最新技術は今後ますます発展を遂げることが予想されます。既に、現在の生活もフィンテックなくしては不便なものとなりました。今後、フィンテックはさらに以下のような社会変化をもたらす可能性があります。
- 銀行などの金融機関での大規模リストラ
- 急速なグローバル化
- バーチャルによる利便性の向上
銀行などの金融機関での大規模リストラ
メガバンクなどで大規模なリストラがあったように、今後、金融機関で人員削減が行われていくことが予想されます。
フィンテックによるオンラインバンクを実装する金融機関が増え、窓口業務は減少していくでしょう。
更に地方での人口減少も相まり、地方銀行の経営が立ち行かなくなることが予想されます。こういった金融機関は、フィンテックの影響によって大規模なリストラを余儀なくされる可能性があります。
参考:メガバンクに業務自動化の波、リストラ疲れの銀行員にカンフル剤|ブルームバーグ・エル・ピー
急速なグローバル化
これまでの金融機関は、金融インフラの構築を競っていました。
しかし、フィンテックによりインターネットを媒体とした決済や送金が簡便に行われるようになるため、金融インフラの構築が不要になりつつあります。
そして、金融業への参入障壁が低くなったことにより、金融インフラが整っていない新興国や途上国でも金融業を行うことが可能となってきました。そのため、今後はフィンテックによって金融のグローバル化が進むと考えられます。
バーチャルによる利便性の向上
これまでの金融システムでは、窓口で取引や融資等を行うことがデフォルトでした。
しかし、窓口業務が自動化され、オンラインバンクが普及していくとリアル店舗を持たないバーチャル銀行が実現できます。
このバーチャル銀行ではコストを抑えた営業スタイルや最小限の人材で行うことが可能となり、今後完全バーチャルな金融機関が登場する可能性は高いです。ここまでICTが普及した現代なので、利用者にとっても不便なく利用できると考えられます。
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まとめ フィンテックを活用しよう
これまでは、日本が構築してきた金融システムがあまりに強固であったことに加え、ネットリテラシーが低いこともあって、現金払いや銀行窓口に行って送金するといった行為が当たり前の時代でした。
しかし、今後はテクノロジーが発展し益々フィンテックを導入する企業が増えてくることは間違いありません。
例えば「決済アプリ」や「仮想通貨」は既に耳にしたことがあるでしょう。このように、私達が知らない間に日常化しているのがフィンテックです。利用者にとっても企業にとってもさまざまなメリットがあるものなので、どういったものなのか調べ、積極的に利用してみるのも良いでしょう。
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