近年会社でのハラスメントに対し、厳しく処分されることが増えてきました。しかしながらハラスメントをしていても処分が難しい「クラッシャー上司」を知っていますか?部下を執拗なまでに追い詰め、時にはうつ病にしてしまうクラッシャー上司。会社のマネジメント能力とコンプライアンスへの認識が大きくカギを握る、クラッシャー上司への対応についてご紹介します。
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目次
クラッシャー上司はどういう人か
クラッシャー上司という表現は元・東京慈恵会医科大学精神科の牛島定信教授と筑波大学社会医学系の松崎一葉教授によるものです。 会社への理不尽な要求や周りへの迷惑行為を行う社員を「モンスター社員」と呼んでいますが、クラッシャー上司はこのモンスター社員が昇進して権力を持つようになったようなものです。では具体的に、クラッシャー上司にはどのような特徴があるのでしょうか。
クラッシャー上司の特徴
クラッシャー上司の特徴は大きく分けて「共感力の低さ」「仕事ができる」「情緒不安定」「マネジメント力不足」の4点です。そして周りの社員も、その社員がクラッシャー上司であることを知っている場合が多いのです。 また、クラッシャー上司が社内に一人だけではなく複数人おり、互いほめたたえあって「部下を攻撃すること」を正当化し続けているケースもあります。
共感力の低さ
部下を持った人に要求される能力の一つとして「共感力」があります。それは業務の結果のみを見るのではなくその経緯や努力を認め、相手に対して理解を示すことでもあります。
人間関係の基礎は共感力です。共感力がなければ、役職の有無にかかわらず円満な人間関係を築くことはできません。様々な提案を試み努力したにもかかわらず契約が結べなかった営業部員に対し「契約が取れない営業なんてくずだ」「事務所にこもって反省でもしてろ」などと言い放つようでは、自分は共感力が乏しいですと公言しているに他なりません。 共感力がある人は「もっとこうしたらどうだっただろうか」「次に同じようなことがあったらその時に相談してくれ。協力できるかもしれない。」など、相手の努力を認めつつ、前向きな意見を言うものです。これが、共感力があるかどうかの差です。ましてや部下を導くべき上司ともなれば、その必要性は言わずもがなというところです。
仕事人としては一級の社員
クラッシャー上司の厄介なところは、仕事ができるところです。業務の1プレイヤーとしては非常に能力が高いのです。時にはそのような上司は自己啓発に非常に力を入れており、一級の仕事人ととらえられることが多いクラッシャー上司。部下にも自分と同じレベルを求めます。それゆえにそのレベルに到達していない部下に対して病気になるまで執拗に攻撃し、それが教育だと勘違いしているのです。
「よしなに計らっといて」などとあいまいな内容で提案資料の作成を依頼しておきながら「書類かゴミかわからない」「書類のフォーマットが気に入らない」と突き返す上司。 書類の内容が充実していないのは、上司自身が的確な指示を出していないだけということも多いのですが、書類が使えないレベルであったということは真実かもしれません。 このように指摘は正論(真実)であることが多いので、会社からみてもクラッシャー上司は仕事ができる社員です。そのため「必要悪」として黙認することもあるようです。
情緒不安定な小心者
自信に満ち溢れているように感じるクラッシャー上司、実は情緒不安定な小心者です。 会社からの評価に影響が出る不安に耐えられない小心者であり、同時に怒りを抑えられない情緒不安定さを兼ね備えています。赤ちゃんであれば「眠たい」という気持ちを激しく泣いて吐き出しますが、クラッシャー上司は満たされない欲求を怒りとして吐き出しています。
普段は冷静を装っていても、イライラし始めると「うるさい、黙れ!俺に逆らう気か」「目障りだ、あっちへ行け」などと止まりません。大人であれば兼ね備えているべき精神的安定が、クラッシャー上司には欠けていることが問題です。
役職があってもマネジメント力不足
1プレイヤーとしては優秀でも、管理職としては全く役に立たない人がいます。クラッシャー上司はその最たるもので、部下をうまく使うという能力が不足しています。 部下の仕事がうまく機能しないのを「自分のマネジメント不足」ではなく「部下の能力不足」と責任転換します。
周りから見ればモラハラですが、クラッシャー上司自身は「自分はできない部下を叱咤激励している上司」ととらえていることが多く、自己評価と他己評価が大きく異なっていることも特徴です。
クラッシャー上司の実際
ここまでクラッシャー上司の特徴を見てきました。ではクラッシャー上司はどのようにして部下を追い詰めていくのでしょうか。実例を見てみましょう。
暴言で部下を追い詰めるクラッシャー上司
営業8年目の社員Aは、クラッシャー上司に毎週仕事の成果を報告しています。しかし今回、社員Aが上司に取引先とのトラブルを報告する前に、そのトラブルが上司の耳に入りました。上司は社員Aに理由も聞かずに「このようなトラブルすぐに報告するのが当然だ」「報告せずに隠そうとした。お前はうそつきだ。」「給与に見合った働きをしていない。」「他部署に異動させてやる。」と強い言葉で叱責します。
その後も上司から個室にたびたび呼び出された社員Aは、新入社員時代の失敗や細かいミスを並びたて「だからお前はダメなんだ」と繰り返し叱責され続けました。見かねた他部署の社員が「強く言いすぎだ」と指摘しましたが、クラッシャー上司は「これは部下への教育」と言って譲りません。 その後、繰り返される強い叱責が収まることはなく、ことあるごとにクラッシャー上司は社員Aを個室に呼び出しました。次第に鬱状態になった社員Aからはいつしか笑顔がきえ、自主退職していったのです。
このクラッシャー上司の部下で、同様にパワハラを受けて鬱になった社員はここ10年で4人目ですが、会社は見てみぬふりです。
クラッシャー上司がいる部署の問題点
クラッシャー上司がいる部署には問題点があります。短期的には好成績を収めるかもしれませんが、長い目で見るとその好成績は続かないのです。それはなぜでしょうか。
精神疾患に陥る部下たち
いつも上司の顔色を見ながら仕事をしなければなりません。いつご機嫌が悪くなるか、戦々恐々しながら就業時間を過ごすのは、非常にストレスです。そしてご機嫌を損ねれば、激しい叱責が待っています。 ターゲットにならなくとも、その精神的負担により鬱や体調不良に陥る可能性もあるのです。
イエスマンのみで固まる部署
クラッシャー上司の叱責に耐えられなくなり反論しようものなら、更なる正論で完膚なきまでにたたきのめされてしまうでしょう。 「書類の方向性が間違っている」といわれて「ご指示があった通りに作りました」「上司が出張中に状況が変わったため内容を変更しました」などと反論しようものなら、「社会人になってもその程度の応用きかないわけ?」「状況が変わった報告を受けてないけど、職務怠慢じゃない?」など、中身は正論でありつつも「はい、すみませんでした」といっておけば受けなかった叱責を受けることになります。
そうなると反対論を唱える社員はいなくなり、クラッシャー上司に賛同するような社員しか残りません。 最初はイエスマンばかりなので、スムーズに物事が進むように思うかもしれません。しか、次第に創造的な仕事、新たな視点及びリスクマネジメントにおいて問題が生じます。そのような部署に未来はありませんね。
コンプライアンスが無視される企業体質づくり
ハラスメントを許しているのはコンプライアンス違反の状態です。そのような状態を黙認するのは、非常に危険です。
経営陣には言っても通じないと社員が感じた場合、重大なミスや過失も「どうせ聞いてくれないから」と報告されなくなり、最悪の場合「内部告発」という結果になりかねません。 クラッシャー上司を放置することは、「わが社はコンプライアンスを無視します」と公言しているのと同じなのです。
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会社のマネジメント力とクラッシャー上司対策
会社は社内でコンプライアンスが守られるよう、マネジメントをしなければなりません。クラッシャー上司は説明してわかるような社員ではありません。下手に言うと、逆に言いまかされてしまうことさえもあります。クラッシャー上司対策は、会社のマネジメント力を駆使して行います。
会社構造改革とコンプライアンス規定
会社の人事評価システムは、どのようになっていますか。そして、社内規定の一部であるコンプライアンス規定は抜けなくしっかりしているでしょうか。 コンプライアンス規定の範囲、順守規定(会社倫理、人権順守、職場環境など)とコンプライアンス委員会の立ち上げや違反した場合の懲罰規定があることを確認し、あいまいな表現を排除しましょう。 会社のコンプライアンス規定に自信がない場合は、専門家の力を借りるなどして改善するのが良いでしょう。
クラッシャー上司はパワハラをしている
クラッシャー上司がしていることは「パワーハラスメント」です。セクシャルハラスメントが犯罪になるのと同様、パワーハラスメントも犯罪です。 クラッシャー上司のいう「教育の一環」や「根性がない社員への指導」という言葉だけを信用してはいけません。
コンプライアンス規定が正しく運用されているか
コンプライアンス規定は、正しく運用されているでしょうか。コンプライアンス委員会によって毎年見直しをかけたコンプライアンス規定は、社外に対して公表されていますか? それと共にコンプライアンス規定に関する社員教育を徹底し、内部監査を行って会社全体に違反がないかどうか、規定が古くないかなど監視・コントロールしていきましょう。
正しく判断できる経営陣
実際にクラッシャー上司がトラブルを起こした場合、両者の意見と周囲からの聞き取り結果や証拠から正しい判断を下せるでしょうか。 パワハラの証拠が挙がっているにもかかわらず「もう少し様子を見よう」と放置していませんか?クラッシャー上司の部下が次々と鬱になってやめていくのに、「自己都合退職にしたから」と何の手立ても考えないのは、職務怠慢です経営陣の仕事は「従業員に気持ちよく働いてもらって会社の業績を伸ばすこと」のはずですから、その逆を行ってはいけません。
クラッシャー上司がつぶしている社員は、将来会社の中心的な存在となりうる「エース級」の社員であることが多いのです。そのような優秀な社員をつぶしてまでも、クラッシャー上司を今の地位にとどめ続けるのかを正しく判断できる経営陣が必要です。
メンタルヘルスケアに力を入れる
メンタルヘルスケアは継続的に費用が掛かるものであり、経営陣から「割に合わない」と不評のようです。しかしながら、積極的に意見を言わない社員でもメンタルヘルスの専門家には口を開くかもしれませんし、クラッシャー上司からのストレスで起こる体調不良をいち早く発見できるかもしれません。 また、メンタルヘルスケアの使い方によっては、情緒不安定なクラッシャー上司自体の出現を予防する効果もあります。クラッシャー上司自身にメンタルヘルスケアを受けさせ、自分の精神的な不安定さを認識させるとともに安定に向けてカウンセリングを続けるのです。
精神面が安定してくると、部下に対して切れることや攻撃的になることが少なくなります。 会社としても、クラッシャー上司を優秀な上司として生まれ変わらせ、優秀な部下の退職をも防ぐことができるのです。
経営者と社員をつなぐシステムづくり
縦社会の意識が強い日本の企業では、一社員の声は経営者に届きにくいのが現状です。上司に問題があるのに、その上司を通さなければ何もできないというのは部下にとって非常に酷な話です。 経営者と社員がつながっている風通しの良い企業では、クラッシャー上司が出現しにくいといわれています。経営者にも一社員の声が届くようになれば、おのずと企業マネジメントに力を入れるべき点が見えてくるはずですよ。
まとめ
クラッシャー上司によって優秀な社員が辞めていくのは会社経営にとって大きなマイナスです。しかしながら、パワハラで処分して有能なクラッシャー上司にへそを曲げられるのも損害です。
クラッシャー上司が出現しにくい、あるいは問題行動が起こりにくい企業をマネジメントによって作りだせるかどうかに、会社の未来がかかっています。
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