建築工事の総合プロデュースを行うヴァルテックス株式会社。「ハイクオリティ&ローコスト」をコンセプトに、数多くの注文住宅やアパートなどを手がけている。
同社は2010年の設立から目覚ましい成長を続けるも、2016年に業績が突然ダウン。代表取締役の金髙健一郎氏はその原因がわからず、解決法を模索していた。
その後、識学の理論を知り、2019年に識学を導入。多岐にわたる社内ルールを制定・運用した結果、社員の意識が変わり、業績も回復したという。識学を活用して、どのように組織を変えたのだろうか?
そこで今回は、金髙氏と識学講師の堀江貴寛に語り合ってもらった。
目次
原因不明の売上急減と2年間の苦闘
識学講師 堀江(以下、堀江) 識学を導入する前は、どのような経営課題を感じていましたか?
ヴァルテックス 金髙代表(以下、金髙) それが不明確でした。創業から6年間は飛ぶ鳥を落とす勢いでした。最盛期は売上50億円、社員数50名くらいまで成長。
しかし、2016年に売上が急減したのです。立て直しに奔走したものの、2年ほど低迷を続けました。ということは、何かが足りないんだと。IPOをめざしていましたが、「そんな状況じゃない」と、中小企業の殻を破れずに悩んでいました。
堀江 識学をご存知になった経緯をお聞かせください。
金髙 きっかけは監査法人が発行している小冊子です。2019年にIPOを果たした企業として、識学の記事が掲載されていました。
すると翌月、部下から勧められたんです。「識学って、知ってますか? 良さそうなので、社長も話を聞いてみませんか」と。記事を読んで興味を抱いたので、話を聞いてみることにしました。
堀江 私は社長にお会いする前に、その方から御社の状況をヒアリングしていました。どうやら組織の統制がとれていない。識学の理論でいえば、“位置”に問題があると感じました。だから、社長にお会いした際に解決法をご提案したのです。
金髙 堀江さんの話を聞いて、バチンとハマりました。「これが足りないんだ!」って。その理由は、うすうす気づいていたことを明快かつ論理的に説明されたからです。
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「自分が嫌だから、社員も嫌だろう」という誤解
堀江 詳しくお話を伺ったところ、社長の理想は明確でした。しかし、そこに現実が追いついていないこと、また、当時は親分肌のリーダーだったので、束ねられる社員数に限界があること。これらの殻を破ってもらうため、真剣に向き合いました。
金髙 当時は家族経営の町工場のような雰囲気だったんですよ。社員にのびのび仕事をしてもらうため、社内規定やルールはつくらない。私が大企業に勤めていた頃、細かいルールが嫌だったからです。「私が嫌だから、社員も嫌だろう」と。でも識学に照らすと、“位置ズレ”を引き起こすことになっていました。
たとえば、ある幹部から「人手が足りません」と求められたら、「わかった。あなたに任せる」と権限を与えていました。
すると、なんでも意見が通ると社員がカン違いしてしまいました。しかも、売上目標や個人ノルマもなく、「今期はよくやってくれた。儲かったから、海外旅行に行くぞ!」というような勢いまかせの経営でした。
つまり、会社が傾いたのは私のせいだったんです。組織に一本のスジを通していなかった。それを堀江さんの指摘で痛感したので、識学の導入を決めました。
堀江 決算を見極めた後でしたね。
金髙 当時は業績が苦しかったので、財務状況を確かめました。ITシステムや集客ツールなど、識学以外の投資も考えましたよ。でも人や組織に問題があるのに、ツールだけ入れても仕方ない。だから、識学の導入を優先させました。
1年間の逡巡を経て、ルールにもとづく組織改革を断行
堀江 識学の導入は2019年10月。社長とのマンツーマントレーニングから始まりました。
金髙 数ヵ月かけて全12回の講義を受けましたね。毎回堀江さんと1~2時間やりとりするのですが、感心する点が多かったです。これまで漠然と感じていたことを言語化してもらい、点と点が線につながりました。
とはいえ、方針転換には時間を要しました。それまではルールで縛らず、社員の良心に任せてきました。その方針を180度転換したら、社員が辞めるのではないかと危惧したからです。
堀江 そこは社長の優しさでしょう。ただ、決断してからのスピードは速かったですよね。
金髙 ええ。昨秋からです。「離職者が出てもやむなし」と覚悟を決めて、組織改革に着手しました。
堀江 改めて、具体的な取り組みをお聞かせください。
金髙 識学の考え方をもとに、どんどんルールをつくりました。まずは、あいさつや服装などの「姿勢のルール」。誰もができることを明文規定にして、定着させました。
次に定めたのが「業務のルール」。各社員の業務範囲や業務マニュアルなど、専門知識や技術を要する決まりごとですね。そして、目標設定。各部署の目標や個人ノルマを設定し、結果のみを評価しています。
経営者の人治国家 から、識学による法治国家へ
堀江 そういった施策によって、どのような効果がありましたか?
金髙 企業組織として成り立ってきました。「識学」という第三者的な考え方にもとづいて、企業統治の仕組みが整いつつあります。
たとえるなら、以前は私の人治国家。もしも王様が国民の行動を縛ったら、大きな反発を買うでしょう。でも、いまは法治国家に変わり、正当なプロセスを経てルールが制定されています。
トップも法に従うので、社員は納得する。個人的な意見や感情はルールに乗らず、組織の統制がとれるようになりました。
堀江 新たなルールに反発して、離職された方はいましたか?
金髙 ひとりもいません。私の独断じゃないので、幹部との軋轢も生じません。問題が起きたらルールをつくるので、いちいち怒る必要もない。「許せないことはルール化する」という堀江さんの助言を聞いて、気持ちが楽になりました。
いまは幹部会を毎月開き、ルールの制定や改定について協議しています。そこで新ルールが承認されたら、全社員に議事録を送る。だから、知らないとは言わせません。
社員の意識改革に時間がかかると予想していましたが、ルールを守る意識が1年で浸透しました。
目標設定とマニュアル整備で1,700万円の経費を削減
堀江 業績に対する影響を教えてください。
金髙 顕著な影響は損害額の減少です。当社は注文住宅を扱っているため、予定外の出費が生じる場合があります。たとえば「壁が傷ついている」「依頼した色と違う」といった顧客クレームへの対応。もし私たちに非があれば、取り換え費用は持ち出しになります。
以前は1棟あたり平均20万円もの損害が出ていました。ところが、目標額を設定して業務マニュアルなどを整備したら、1棟あたり損害額が約7分の1に激減したんです。
例年の水準と比べると、総額1,700万円相当の経費を削減できました。会社全体としても、今期の増益は確実でしょう。識学の費用対効果は非常に高いですね。
堀江 目標設定で意識が変わり、詳細なルールを通じてミスが減ったのでしょう。コロナ禍で売上アップが難しくても、できることはあります。
金髙 今期は損害額の目標を生産管理部が達成してくれました。私の説教なんていらなかったんです。来期は識学式の評価制度を導入し、一人ひとりの目標達成意欲を高めていきたいですね。
堀江 最後に、識学の導入を検討している方にアドバイスをお願いします。
金髙 私も含めて、社長になるような人は我が強い。その弊害を解消するために、識学は有効です。当社は必要なルールを定め、客観的な経営判断ができるようになりました。
そもそも、創業経営者と会社員のメンタリティーは異なるもの。「自分ならこうする」という押し付けはやめてルールを制定することをおすすめします。
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