企業内でチームを引っ張っていく場合に、上司やチームリーダー、プロジェクトマネージャーなどの役職者には「リーダーシップを発揮する」ことが求められます。
また、同じようなシチュエーションで「イニシアチブ」という言葉が使われることもあるでしょう。リーダーシップとイニシアチブは同義にも思えますが、実は意味が異なります。
本記事ではイニシアチブの意味やリーダーシップの違い、リーダーに求められるスキルを解説します。
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目次
「イニシアチブ」と「リーダーシップ」との違い
大辞林 第三版では、イニシアチブは「率先して発言したり行動したりして、他を導くこと、主導権」[1]。一方、リーダーシップは「指導者としての能力・資質。統率力。指導力」とあります。
つまり「チームを統率し、指導する能力」がリーダーシップであるのに対して、イニシアチブの方は「率先して行動すること」です。
「率先する」ことと「統率する」ことは必ずしも同じではないので、別物として考えましょう。
リーダーシップを発揮するための方法として、ハーバード・ケネディスクールでリーダーシップ論を研究しているRonald A. HeifetzとMarty Linskyは「LEADERSHIP ON THE LINE WITH A NEW PREFACE[2]」のなかで、以下の4つの方法を推奨しています。
- 包み込む環境をつくる
- 温度を調整する
- ベースを調整する
- 未来図を見せる
最初の3つは、チームのコントロールを意味します。一方、4つ目だけは少し異なり、チームが目指すべき目標を提示しているのです。
つまり、リーダーシップの発揮に必要なのは、チームが目指すべき目的を指し示し、そのためにチームの環境を整えることです。これが統率力や指導力につながります。
一方、率先して動くことはあくまでもイニシアチブであり、リーダーシップではありません。
つまり、環境を整えるために自分から動かなければいけない場合もありますが、自分から動くことで、リーダーシップを発揮できるというわけではありません。
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組織における「リーダーシップ」の心理学的側面
リーダーシップの発揮に、求められる資質とはどのようなものでしょうか。
知性にあふれ仕事のできる人が、必ずしもリーダー・マネージャーとして成功するとは限りません。
一方、仕事の能力は平凡でも、マネージャーとして成功することもあります。その人物がリーダーシップをもった人物であるかどうかを見極めるには、どうしたら良いのでしょうか。
作家であり科学ジャーナリストでも心理学者でもあるDaniel Golemanは「PRIMAL LEADERSHIP[3]」にて、リーダーシップをもっている人は「EQ:こころの知能指数」が高いとしています。
このEQは同じくGolemanの「What Makes a Leader(HBR’s 10 MUST READS ON LEADERSHIP[4]に収録)」によれば、次の5つの項目から判断できます。
- 自己認識
- 自己統制
- モチベーション(動機付け)
- 共感
- ソーシャルスキル
「自己認識」
「自己認識」は自分の気分や感情、それらが他者に与える影響を認識し、理解する能力です。
自己認識の資質があれば、今の自身の状態が何によってもたらされているのか、それがチームをはじめ周囲にどのような影響を与えるのか認識できます。
また、自分の能力をしっかりと判断できるため、役目を途中で投げ出さず、他人に頼るべきところも心得ています。
「自己統制」
「自己統制」は破壊的な衝動や気分をコントロールし、方向転換する能力です。また行動する前によく考え、慎重に行動できます。
この能力が高ければ、周囲の人たちと良い人間関係を築き、良い方向に導けます。
さらに自己統制力に優れた人は世の中の変化に対応する力も高く、新しい道を切り開くこともできるでしょう。
「モチベーション」
「モチベーション」は金銭や地位以上の何かを目的に、仕事をしようとする情熱のことです。
リーダーシップに優れた人は、このような内発的な動機が強い傾向にあります。そのため、想像力を必要とするテーマを求め、精力的に粘り強く、決めた目標に到達しようとします。
また、自己統制メカニズムが働いているため、状況が芳しくない場合でも楽観的な態度を保てるでしょう。そして冷静に問題点を検討し、チームとしての業績を高める方法を検討し続けることに長けています。
ここまでの3つの能力は、自己管理能力です。
それに対して、これから紹介する2つは人間関係を管理する能力といえます。
「共感」
「共感」は他者の感情の構造を理解する能力です。他者の感情的な反応を受けて、相手の心情を理解する技能ともいえます。
チームを率いるうえで、すべてのメンバーの意見を一致させることは困難です。メンバー全員の顔は立てられないので、お互いに不満があれば、聞き出す必要があります。
ここで求められるのが共感能力です。特にグローバル化が進み、さまざまな国籍やバックグラウンドをもつメンバーがチームに増えると、必須の能力となります。
「ソーシャルスキル」
最後の「ソーシャルスキル」は、人間関係のマネジメントとネットワーク構築に長けていることを指します。合意点を見出し、調和を築く能力といっても良いでしょう。
ソーシャルスキルに長けた人は、説得の達人でもあります。これはチームを統率するのに必要な能力のひとつです。
また、交際範囲を広げ、人脈を作ることを重要視します。人脈がいずれ、自分やチームを助けてくれることを知っているからです。
リーダーシップは、これら5つの能力が高いほど発揮されるようになります。自分を管理し、人間関係もしっかりと管理できる人物が、チームを成功に導くことができるのです。
また、EQは学習によって身につけられます。EQを高めるためのコーチングもあるので、活用すると良いでしょう。
EQは年齢とともに高まることもわかっています。しかし、漫然と歳を取るだけでは、EQは伸びが小さいままに収まってしまうでしょう。そこで、上記の5つの能力を伸ばすことが重要となります。
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組織における「イニシアチブ」
目標を指し示し、環境さえ整えれば良いのかというと、そうではありません。
たとえチームメンバーに「環境は整えたから、あとは頑張ってくれ」と言っても、メンバーが動いてくれないことが考えられます。
ではどのようにすれば良いのでしょうか。「LEADERSHIP ON THE LINE WITH A NEW PREFACE[2]」で紹介されている事例を紹介します。
イスラエルのある化学工場で従業員が死亡する爆発事故が起きました。当時のCEOは事故原因を調査し、問題点を洗い出して、二度と事故が起こらないよう措置しました。
CEOとしては遜色のない仕事をしてのけたのですが、従業員はなかなか工場に戻りたがりませんでした。戻ったとしても恐る恐る作業をし、効率は上がりません。そこでCEOが自らラインで作業を行い始めたところ、従業員が工場に戻り始め、生産性も向上しました。
CEOと従業員は異なる目線で現状を見ていたために、自分には安全に見えても、従業員はそう思っていなかったことに気がつきました。そこで、自分から率先して行動することで、従業員の不安が根拠のないものであることを示したのです。
イニシアチブの発揮には、周囲の人を動かすための行動を率先して行い、組織を動かすことが不可欠です。
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「イニシアチブ」の使い方
イニシアチブは前項で解説したとおり、主に「先導・率先・主導権」の意味で使われます。
また「イニシアチブをとる」「イニシアチブを握る」と表現することもあれば「〇〇イニシアチブ」といった使い方をする場合もあります。
受け手に正しい意味合いで伝わるように、イニシアチブという言葉の適切な使い方を確認しましょう。
イニシアチブの使い方の例
先導・率先の意味として使う場合には、主体の行動や性格を表すことがほとんどです。
一方で、主導権の意味で使う際には「権力の行使」の意味合いが含まれるので注意が必要です。
先導・率先の意味で使う場合の例
- 彼のイニシアチブな行動は素晴らしい
- このプロジェクトは貴社のイニシアチブで進めてください
主導権の意味で使う場合の例
- リーダーとしてイニシアチブを握るべきだ
- 彼のイニシアチブの発揮により、プロジェクトは成功した
主導権の意味で使う際には、リーダーや上司・部下といった具体的な役職を用いて権利関係を示すと、意図が伝わりやすくなります。
イニシアチブを「とる」と「握る」の違い
イニシアチブという言葉を使う際「イニシアチブをとる」「イニシアチブを握る」と、主に2つの表現方法があります。
両方使い方としては正しいのですが、ニュアンスが少し変わるため、使う際には注意しましょう。
「イニシアチブを握る」と表現すると主導権の意味が強まり、少なからず圧力的な要素が加わります。
「イニシアチブをとる」という表現にも主導権の意味合いはありますが、先導や率先など他の意味も含み、少し柔らかい印象となります。
主導権の意味で使う場合には「イニシアチブを発揮する」といった表現もあるでしょう。この場合は「主導権を適切に活用する」というポジティブなニュアンスになります。
部下の主導権の活用を評価する場合や、状況の報告の際などには「イニシアチブを握る」よりも、こちらの表現が適しています。
その他の使い方
「〇〇のイニシアチブで〜」や「〇〇イニシアチブ」といった、使われ方をするケースもあるでしょう。その場合は、先導・率先の他に「計画」の意味ももちます。
たとえば取引先名をつけて「A社イニシアチブ」とするなら、A社に関する計画やプロジェクト、案件を指すということです。
ただし「戦略的イニシアチブ」という表現の場合は、例外的に経営戦略や成長目標などを意味することもあります。
(例文)
- 来週からはA社イニシアチブの推進に注力しましょう。
- 我々の戦略的イニシアチブは、雇用の創出による地域活性化です。
まとめ 「イニシアチブ」を発揮してチームを引っ張ろう
組織のなかでチームを前に進めるとき「イニシアチブ」と「リーダーシップ」をどのように使い分ければ良いのでしょうか。
先述のとおり「イニシアチブ」は率先して行動することです。逆に周囲の人が行動を起こさなくとも、イニシアチブは発揮できます。もちろんそれによって周囲が動き出せば良いですが、そうならない場合もあるでしょう。
一方、リーダーシップは目標を指し示し、そこに向かうための環境を整えます。環境を整えることで、周囲のメンバーの行動を促します。いくら本人が頑張っても、メンバーが行動を起こさなければリーダーシップとはいえません。
チームのメンバーが意見や立場の違いを乗り越えて、目標を実現するための環境をしっかり整えること。そして、整えたらしっかりと働いてもらうことが重要です。
自己と人間関係を管理したうえでリーダーシップを発揮して、はじめて良いリーダー・マネージャーといえるでしょう。
チームを率いるリーダー・マネージャーには、日々の小さな率先行動、自発的取り組みである「イニシアチブ」が求められます。そのうえで、今必要な「リーダーシップ」とは何かを考えます。
この2つを上手く使い分けることを、念頭に置いて行動しましょう。
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参照
[1]大辞林 第3版
[2]”LEADERSHIP ON THE LINE WITH A NEW PREFACE” Ronald A. Heifetz and Marty Linsky, 2017(「最前線のリーダーシップ」 野津智子訳 英治出版, 2018年)
[3] “PRIMAL LEADERSHIP” Daniel Goleman, Richard Boyatzis and Annie McKee, 2002(「EQリーダーシップ」 土屋京子訳 日本経済新聞社, 2002年)
[4] “HBR’s 10 MUST READS ON LEADERSHIP” by Harvard Business Review, 2011(「リーダーシップの教科書」 ダイヤモンド社, 2018年)