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事業譲渡によるM&Aとは?手続きの方法やリスク・考え方の基本を弁護士が簡単解説

M&Aにはさまざまな手法がある中で、特定の資産や契約だけを切り離して売却する「事業譲渡」は有力な手法の一つです。

株式譲渡や合併など、会社全体が不可避的に譲渡の対象となるM&A手法と比較すると、事業譲渡は根本的に異なる仕組みを持っています。
そのため、M&Aの際にどの手法を採用するかについては、当事者のニーズに合わせて検討・選択することが大切です。

この記事では、事業譲渡によるM&Aの活用方法について、弁護士の視点で事例を交えながら解説します。

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「事業譲渡」の意義

 

「事業譲渡」とは、会社が営む事業の全部または一部を、他の会社に対して譲渡することをいいます。

事業譲渡が他のM&A手法と比べて特徴的なのは、譲渡の対象となる資産・契約などを、当事者の交渉によって特定・限定できるという点です。

たとえば「株式譲渡」の場合は、買主は株式の取得により、会社全体の支配権を取得します。

また「吸収合併」の場合は、買主企業が売主企業を完全に吸収してしまう形となるため、売主企業の資産・負債・契約関係をすべて承継することになります。

株式譲渡・吸収合併などのように「包括承継」的なM&A手法との比較で、事業譲渡は「特定承継」と呼ばれます。
包括承継を避けたい何らかの理由がある場合には、事業譲渡によるM&Aを検討する価値があるでしょう。

 

事業譲渡M&Aの活用例

 

事業譲渡M&Aの代表的な活用例を3つ紹介します。
それぞれ、事業譲渡の手法が当事者のニーズに沿ったケースであることを読み取っていただければと思います。

 

不採算事業を売却して経営をスリム化

 

<事例①>

A社は、設立当初はwebサイトの受託開発を基幹事業として規模を拡大しました。その後、自社で立ち上げたECサイト事業がヒットし、高い利益率を上げるようになりました。ECサイト事業が好調の一方で、当初の基幹事業であったwebサイトの受託開発事業は、依頼元の都合から単価が低く抑えられており、新規顧客の開拓も滞り気味でした。

B社は、消費者向けの加工食品業を営んでいましたが、広告戦略の転換により、自社運営のwebメディアを通じた訴求を拡大しようという意図を持っていました。そこで、A社のwebサイトの受託開発事業に注目し、同事業の買収(事業譲渡)をA社に対してオファーしました。

その結果、A社は不採算事業を売却してキャッシュを獲得し、ECサイト事業へとさらに注力できるようになりました。
一方B社は、webサイトの受託開発に関するノウハウとマンパワーを獲得し、自社のwebメディア開発を加速させることができました。

事例①では、A社が2つの事業を営む中で、B社はそのうちの1つに注目して買収をオファーしています。
そのため、A社の事業から買収対象の部分を切り分ける必要があり、「事業譲渡」が最適のM&A手法であったといえるでしょう。

 

買主の簿外債務リスクを軽減

 

<事例②>

C社は、自然言語処理に関するIT事業で国内有数の知名度を誇るベンチャー企業でした。
すでにある程度企業価値が高まっていたことから、経営陣としてはイグジットのタイミングを窺っていました。

D社は、web上の検索エンジンの開発事業を基幹事業とする準大手企業で、自然言語処理を検索エンジンの仕組みに組み込みたいと考えていました。そこでC社の事業に注目し、C社に対してM&Aのオファーを行いました。しかし、C社のデューデリジェンスを進める中で、C社には未払い残業代や潜在的な訴訟リスクが存在することが判明し、この点が買収交渉にあたってのネックとなりました。

そこで、当初予定していた「吸収合併」の方法をとりやめ、簿外債務をM&Aの対象からできる限り除外することができるように、「事業譲渡」の方式によってM&Aが実行されました。

事例②では、D社はC社の事業全部を買収したいという意向を持っていたものの、簿外債務のリスクが問題となったため、最終的に事業譲渡の手法が選択されました。
このように、買主にとって買収のネックとなる簿外債務などをM&Aの対象から除外できる点も、事業譲渡のメリットの一つといえます。

なお、法的には買主が簿外債務承継を回避できるとしても、ビジネス上の必要性から、結果的に買主が簿外債務を負担しなければならなくなる可能性には注意が必要です。

たとえば事例②のケースでは、D社は少なくとも一部のC社従業員について、C社から雇用関係を引き継ぐことになります。
この場合、対象の従業員に対してC社が未払い残業代を支払わない場合には、引き留めのためにD社が未払い残業代を肩代わりするなどのビジネスジャッジもあり得るところでしょう。

 

ジョイント・ベンチャー(合弁会社)に対する事業譲渡

<事例③>

E社とF社は、ともに家電製品の製造・開発を基幹事業とし、国内の高いシェアを占めていました。

近年、有機EL素材に関する市場規模が拡大し、最新技術をいち早く導入する必要性が高まっています。そこでE社とF社は、有機EL素材の開発等に特化した合弁会社を共同で設立し、開発・製造を加速させることに決めました。

合弁会社の設立に当たっては、E社・F社それぞれの有機EL素材の開発事業を、新会社に対して互いに事業譲渡する方法がとられました。

既存会社が共同でジョイント・ベンチャー(合弁会社)を設立する場合、当事者である既存会社は存続することが大前提となります。
そのため、既存会社の事業の一部のみを、合弁会社に対して事業譲渡するという方法が採用されることが多いです。

 

事業譲渡M&Aの手続き上の注意点

 

事業譲渡M&Aは、活用範囲が広い一方で、手続きの面でいくつか注意しなければならない点があります。

 

資産・契約の個別移転が必要

事業譲渡は、対象会社の資産・契約を個別に選択・特定して移転する取引なので、各移転の手続きも個別に行う必要があります。

特に、契約関係の承継については、相手方の承諾を個別に取得する必要がある点に注意が必要です。

事業譲渡を実行した後、契約の承継について相手方の承諾が得られなかった場合には、その契約だけ売主のところに残ってしまうという事態が生じてしまいます。
そのため、少なくとも事業譲渡のポイントとなる重要な契約については、前もって相手方の承諾を取得しておくなどの調整が必要です。

また、これは事業譲渡に限った話ではないですが、契約の承継に関しては「COC条項※」の対応にも留意しましょう。

※COC(Change of Control)条項
相手方に経営権の移転等があった場合には、契約を解除できる権利を定める条項。M&Aの対象企業が当事者となる契約にCOC条項が含まれている場合には、相手方との間でCOC条項に基づく解除権の不行使を前もって合意しておくなどの対応が必要となる。

 

許認可は譲渡先で取得し直す必要がある

 

事業譲渡の対象となる事業を営むために、行政上の許認可が必要なケースがあります。
しかし、行政上の許認可は、事業譲渡によって買主に移転することはないため、買主側で新たに取得する必要がある点に注意しましょう。

 

まとめ

 

事業譲渡は、株式譲渡や吸収合併などと並んで有力なM&A手法です。

不採算事業の売却・簿外債務リスクの軽減・合弁会社の設立など、事業譲渡には幅広い活用可能性があります。
M&Aを検討する際には、事業譲渡を含めた各M&A手法の特性を理解したうえで、それぞれのメリット・デメリットを比較して、当事者のニーズに沿った手法を選択しましょう。

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