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バイアスが人事評価に与える影響とは?米陸軍をすら悩ませた「面接官のバイアス」 

経営陣や、上層部の一端の「お気に入り」「思い入れ」だけでマネージャーを選ぶと、組織は次第に歪んでいきます。
一方で、客観的な人事評価制度の作り方は永遠の課題とも言えます。

その理由のひとつは、人間が人間を評価している以上、どこかで色眼鏡やバイアスがかかってしまうからです。

実は同じ事情に悩んでいたのは、アメリカ陸軍です。リーダー選抜方法が、先般大幅に変更されました。
一般企業に人事評価にあたっても参考になるので、紹介します。

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人事評価制度の大改革、その背景

陸軍が大隊長の選抜方法を抜本改革した背景には、2018年の法改正があります。
陸軍の人事制度は古い法律に縛られていましたが、官僚的な組織体質を打破するために、新しい法律では人事対応を柔軟に行うことが可能になりました。
実際、古い選抜方法は問題視されていたという実情があります。

この段階での大隊長選抜は中央で集中して実施していたこともあり、形式化されていて、審査対象の資料に上官が点数をつけていくものでした。書類にはろくに目を通さずに決められていたといいます。

すると、2009年から10年にかけて、2万2000人の兵士を対象に実施した調査では、回答者の20%が上司について「有害なリーダー」だと答えたというのです[1]。
別の調査では、軍が最も優れたメンバーを昇進させていると答えたのは、少佐のうち半数にも満たなかったという結果が得られました[2]。
兵士と家族の命や安全を守る軍隊として、人事評価制度の抜本的な改革の必要性があったのです。

新しい人事評価制度で重視されたのは、まず「能力」の定義変更です。
知識とスキルだけでなく、行動、本人の好みが交差する点「KSB-P」を20以上設定し評価の対象としました。
「好み」を要素に加えたのは、海外派遣先での振る舞いや、ミレニアル・Z世代といった新しい価値観・異文化に好んで接することができるかどうか、柔軟性があるかどうかを見るためです。

次に大きく意識されたのが、面接官の「バイアス」を取り除くことでした。

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評価者が知らぬ間に陥っている多くの「バイアス」

どれだけ「自分は客観的に相手を見ている」という自信を持っていても、人間が人間を評価するという中でどうしても避けられないのが「認知のバイアス」です。
いくつかの種類があります。

①ハロー効果

目立ちやすいひとつの良い特性によって、全体的な評価が歪められ実際以上に高くなってしまう現象です。学歴や資格はその良い例でしょう。
本来関係のない部分までを無意識に結びつけ、採用したくなってしまう心理状態です。

②ホーン効果

ハロー効果とは逆に、何かひとつの好ましくない特徴によって全体の評価が歪められてしまうことです。

③ステレオタイプ化バイアス

相手を自分の考える枠組みの中にすぐに当てはめてしまうバイアスのことです。
女性はこうあるべき、A型は几帳面、などといった先入概念の中で相手を無意識のうちにカテゴライズし、それ以上考察することを止めてしまいます。

④バイアス盲点

「他の人にはバイアスがかかっているかもしれないが、自分は大丈夫だ」と思い込んでしまうことです。他人のバイアスには気づくのに、自分のバイアスに気づいていないという認知のクセです。

他にも、「第一印象バイアス」「対比バイアス(対象を一定の基準と比べるのではなく、対象どうしで比べて優劣をつけてしまう)」「自分と似ているバイアス」などがあります。陸軍の面接官はこれらについて徹底的に勉強し、かつ毎朝の打ち合わせを欠かしませんでした。

さらに、バイアスを除外するために、新しい面接手段が導入されました。
そのうちのひとつが「ダブルブラインド面接」です。
面接官と候補者の間を黒いカーテンで仕切り、人種や外見、制服の記章などではなく、候補者本人の答に集中できるほか、デリケートな問題についても話せるという特徴があります。

それでも言葉のなまりなどは表れてしまいますが、これは減点、加点の対象にしないというルールを作っています。

質問形式の統一もあります。
行動特性について尋ねる際、「どんな行動を取ったか」という形に質問を統一し、「このような場合あなたらなどんな行動を取るか」という仮定の質問を排除しました。

また、候補者は質問後30秒たってから答えるように指示されました。
声に出しながら考える人と、考えをまとめてから話す人がいるためです。
その他多くのバイアス除去が留意され、プロセス終了後のアンケートでは、候補者全体の96%、女性では98%、マイノリティでは96%が、以前の選抜方法より優れていると回答しています[3]。

マネージャーの「解散総選挙」をする企業も

米陸軍と言えども頭を抱えた「リーダー選考」ですが、実は日本国内の企業では、一風変わった取り組みを進めているところもあります。

メガネ販売チェーンで国内外に店舗を展開するオンデーズは、以前からエリアマネージャーを全社選挙で決定しています。
任期は1年、年俸は720万円でスタート、と収入も公表されているほか、投票得点は「一般スタッフ票50%:管理職票50%」となっており[4]、単なる「人気」だけではエリアマネージャーの座を獲得することはできません。

この制度が生まれたきっかけは、店舗の従業員に「社長、現場がわかってない」と指摘されたことだといいます[5]。
先に挙げた米陸軍が「人事を中央で管理するようになった結果、リーダーの能力が下がった」状況に似ているかもしれません。

また、マネージャーに任命されて、のちに「やりたくなかったのに」というしがらみが生まれないように、やりたくない人はやらなくていい、という意味合いもあります。
オンデーズはその後順調に業績を伸ばし、10年間で売上高を10倍にしたという結果を出しています[6]。

そしてストレッチ専門店「Dr.stretch」を運営するフュービックは、人事をスタッフ全員による選挙で決定する「マネージャー総選挙2019」を、内定者に公開するという試みに出ています。


図1 フュービックのエリアマネージャー総選挙
(出所:「内定者辞退防止に公開型イベント『みんなで上司を決める総選挙』」フュービック)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000012643.html

選挙の中で公約を実行する店長なども現れ、内定者に社風や上司の姿を直接見せることで、内定辞退率は下がってきているといいます[7]。

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リーダーの資質とは何なのか

これらの事例は、リーダーの資質について疑問を投げかけています。

エン・ジャパンが会社員1万人を対象に実施したアンケートでは、「尊敬する上司に出会ったことがある」回答者が指摘する「その上司の尊敬できる点」として知識やスキルだけでなく「いざという時に部下を守る」「人によって態度を変えない」というものも上位に挙がっています(図2)。


図2 尊敬できる上司のポイント
(出所「1万人が回答!『上司と部下』意識調査―『エン転職』ユーザーアンケート―」エン・ジャパン」)
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2019/17710.html 

「上司から評価され、部下も守る」。
これは、上から気に入られることや出世しか目的のない人間の場合両立はできません。真に現場から支持を得られるリーダーを選ばなければ部下のパフォーマンスは下がります。
マネージャー選挙導入前のオンデーズのように「現場がわかってない」となってしまい、すれ違ってしまうのです。

また、総選挙の導入は、日頃から上の目を気にせず仕事に集中できる、といった効果も期待されています。
自ら堂々と立候補し、自分の言葉で全社員の前で自分を語れる。
そのようなスキルも、リーダーとしての資質ではないでしょうか。

これまでとは違う価値観を持つ新しい世代の若者を迎え入れるにあたっても、慣例で形式化してしまった人事評価制度で生まれる閉塞感は打破する必要があります。

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参照
[1][2][3]「米国陸軍に学ぶリーダー選抜プロセスの改革」ハーバード・ビジネス・レビュー2021年2月号 p103、p112
[4]「ユニークな社内制度〜AM解散総選挙」OWNDAYS RECRUIT
https://www.odsaiyou.com/system/
[5]「『自分の上司は自分で決める』選挙で決めるユニークな制度を作る人事たち」HR NOTE
https://hrnote.jp/contents/contents-1972/
[6]「10年で売上高10倍 眼鏡・オンデーズの原動力は社員の闘争心」WWD
https://news.yahoo.co.jp/articles/08e7473f0147e230e0c3f224a604960afca7886b
[7]「内定者辞退防止に公開型イベント「みんなで上司を決める社内総選挙」2019.10.16(水)最終決定戦 in 豊洲PIT《東京会場》」フュービック プレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000012643.html

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