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ワークマンの快進撃を支える「脱・勘ピュータ」打倒Amazonでコロナ禍でも右肩上がり

近年、ワークマンの業績が伸び続けていることに注目が集まっています。
その名の通り作業服専門店だった「ワークマン」がいつしか「アウトドア用品店」として人気になり、メディアなどでも取り上げられることが多くなりました。
女性客が増えた現象には「ワークマン女子」という名前までつけられ、新しい顧客層の開拓に成功した好例として耳にした方も多いのではないでしょうか。

打倒Amazonを掲げてコスト管理、店舗管理などが徹底されたことから大変化を遂げた経緯がありますが、かつてのワークマンには「ゼロだった」あるものの導入が快進撃の最大の要因です。

それは何でしょうか。

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コロナ禍も、どこ吹く風

 

ワークマンの2021年3月期四半期の決算状況を見てみましょう(図1)。


図1 ワークマン 2021年3月期第1四半期売上高(出所:ワークマン「四半期報告書」)
https://www.workman.co.jp/ir_info/pdf/2021/40ki_4q_1_houkokusho.pdf p1

緊急事態宣言発令直後の四半期にもかかわらず、前年よりもむしろ売上高、営業収入、経常利益、純利益の全てにおいて前年を上回っています。

外出自粛、臨時休業、消費マインドの冷え込み、イベント中止によるユニフォーム需要減少といった厳しい環境下の中でも利益を伸ばす底力は一目瞭然です。

また、過去数年のチェーン全店での売上高は以下のように推移しています(図2)。


図2 ワークマン売上高の推移(ワークマン「主要財務グラフ」より作成)
https://www.workman.co.jp/ir_info/pdf/2020/R2_zaimgraf_200817.pdf

文句なしの右肩上がり、といったところです。

「ワークマン女子」という言葉が出始めたトレンドを逃すことなく、今年10月には「作業服を扱わない」女性メインの旗艦店を横浜にオープンさせました。

さらに店舗には「インスタ映え」「動画映え」スポットを設置し、ゆるキャラ「わくこちゃん」のぬいぐるみを設置するなど、女性客とSNS世代の徹底的な取り込みをはかっています。

しかし、こうしたプロモーションはあくまで「拡大の先に展開されているもの」です。
ワークマンに本格的な革命をもたらした根本要素は別のところにあります。

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「当時は○○がゼロ」から「今は全員が○○」へ

 

ワークマン大革命の立役者は、2012年に会長に就任した土屋哲雄氏です。

そこから現在に至るまでの経緯が、書籍「ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか」に詳しく綴られています。

その土屋氏が就任後最も衝撃を受けたのが、当時のこのような状況でした。

前職でコンサルティング事業をゼロから立ち上げた経験があるだけに、心底驚いたのが、ワークマンにはデータがないという事実だった。

「そもそもどれだけ在庫があるのかという数量データがなかった。決算も売価還元法という原始的な手法を使っていて、期末と期首の販売額の差を在庫にするという簡易的な在庫管理をやっていた。金額の総額だけを引き算すればいいから、数量は把握しなくてもいい。ワークマンというのは、とにかく余計なことをやらない会社だから」(土屋氏)。

<引用:「ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか」p61>

そこで土屋氏が導入したのが、全社員を対象にエクセルの使い方を学ぶ講習です。
「デジタルワークマン」の始まりです。

何も全員が使えなくても良いではないか、そう考えてしまうでしょうか。
しかしこの取り組みが、ワークマンの社員の意識を大きく変えました。

エクセルを導入した土屋氏の考えは、このようなものです。

「日々の販売データを見て異常値を発見したり、次にどんな手を打てばいいのか考えたりする力が身に付けばいい。だから、うちにはデータサイエンティストは必要ない」(土屋氏)。

<引用:「ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか」p61>

まずは売り方などについて「考える能力」を養うという目的です。

そして数字やデータに強い社員には、ここからさらに実力を伸ばすために、「分析サポート講習」を実施していきます。
社員は中級以上になると、自分でエクセルを使用した分析ツールを作れるようになるまでに成長していきます。

その中から精鋭を各部署に配置していくことで、現在では全社員がデータと向き合えるエクセルの達人に育っています。

例えば商品開発にあたっては「売り切る」ことができるものを作らねばなりませんが、数量やサイズ分布を決定するのは難しい作業だといいます。
自分で仮説を立て、正しいかどうかを日々データと向き合って検証していく過程が必要になりますが、データサイエンティストの力を借りずとも、商品部の部員が自らエクセルを使って実証することができるようにもなりました。

ある社員が趣味で、在庫管理に関する強力なツールを作り上げてしまったこともあります。

ワークマンはアパレルもアウトドアもスポーツウェアも知らない会社でした。
しかし「未知の領域」であるアウトドア、スポーツをメインとした「ワークマンプラス」を軌道に乗せることができたのは、データを元にした試行錯誤が現場レベルで可能だったからです。

作業服業界では2位以下を大きく引き離す独走状態。「勘ピュータ」でも、安定して増収増益を続けてきた。しかし、未知なる業態への進出となれば、丼勘定では通用しない。在庫の数量が分からなければ、店に何をどれだけ並べたらいいのかさえも分からないからだ。

何事もデータに基づいて検証しなければ、新しい売り場のフォーマットを作り上げることはできない。その思いは、栗山清治社長(当時)にも通じた。

<引用:「ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか」p62>

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「データドリブン」が生んだ日本初のサプライチェーン形式

 

ワークマンが導入したデータ経営のメリットは、在庫の数量把握による仕入れや店舗の最適化、需要予測、といったことだけにとどまりません。
サプライチェーンにも革命を起こしました。

日本初の「善意型SCM(サプライチェーンマネジメント)」を構築して見せたのです。
メーカーが生産した分を全て買い取るという仕組みです。
何をどれだけ出荷すれば売り切れるかはメーカーの方がよく知っているという事情を生かし、かつそこにデータの力を盛り込んでいます。

ワークマンは大胆にも全店舗の売上高・在庫情報、倉庫の在庫・出庫・入荷量、自前の需要予測システムを元に弾き出した推奨出荷量といった社内データをメーカーに全公開しています。あとの匙加減はメーカーにお任せで、自主納品という形を取っています。

ワークマンの善意型SCMは、このような流れになっています。

国内メーカー(自主納品) → ワークマン本部(全量買取して自主納品) → 加盟店(全量買取)

最終的には加盟店に全て買わせるのか、と感じるかもしれませんが、そうではありません。
情報の多いところから順に商品が流れているのが特徴です。
より多くの情報やデータを持つところが出荷量を決めていくという形を取ることで、欠品率を下げ、最適在庫を確保できるのです。

また、全量買取となると悪意のあるメーカーから余剰在庫を摑まされないかといった疑問も残るかもしれません。
しかし自主納品したその結果は、ワークマンの持つデータとしてメーカーも見ることができます。
というより、見ることが「できてしまう」ため、全量買取という制度と相まって良心的な取引に繋がっています。

このように、データに基づいて意思決定する経営方式は「データドリブン(データ駆動型)」と呼ばれます。

データを取り、データに基づいたマーケティングを現場に反映させ、その結果をまたデータとして蓄積し、再び現場に戻すことの繰り返しは、今後の経営に欠かせない手法です。

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消費者の多様性を味方につける

 

ワークマンの快進撃を支えている「データドリブン」経営は、現代では必要不可欠なものになっています。
というのは、消費者の多様性に追いつく必要性が高まっているからです。

ここでいう「多様性」は、「ライフスタイルの変化」などと一言でくくれるような生温いものではありません。

多様性の広さを反映する一例として、キャッシュレス決済サービスがあります。

政府が進める「マイナポイント」事業では、9月18日時点で以下の決済サービスがポイントバックの対象になっています(図3)。


図3 「マイナポイント」付与対象のキャッシュレスサービス一覧(出所:総務省マイナポイント特設サイト)
https://mynumbercard.point.soumu.go.jp/about/payment_service/#register-cashless

同じ商品を売っていても、自分の好きな決済方法が使える店で買うというのは常識になっていますが、マイナポイント事業だけでもこれだけの種類のサービスが対象になっているのです。

また、キャッシュレスサービスについては、このような統計もあります。

訪日外国人を対象にした調査ですが、
「日本で外貨両替やクレジットカード・キャッシュカードを利用できる場所が、もし今より多かったら」
という質問に対して、
「もっと多くお金を使った」
「おそらくもっと多くお金を使った」
と答えた人の合計は7割にのぼっています[1]。

どの決済方法を導入するかは、消費者を動かす大きな要素になっています。
自社の都合だけで、導入しやすいものをしている、というだけではライバルに差をつけられてしまいます。

とはいえ、ここまでの種類が登場すると、もはや「勘ピュータ」では太刀打ちできません。

しかし、データを取ることによって顧客満足度の高いサービスを展開することが可能になるのです。
筆者の知る小売店では、年齢層と決済方法の関係性を分析しています。
どの年齢の人がどの決済方法を好んで使っているかというデータを取り、自社のターゲットに明確なアプローチを仕掛けるといいます。

また、データドリブンで驚くべきサービスを展開した衣料品通販会社もあります。
この会社では、コロナウイルスのパンデミックでマスクが品薄になった時、衣料品を扱う流通ルートで仕入れたマスクを、一部の顧客に無料で送付しました。

長期にわたる顧客データの蓄積があるため、どの顧客がこれまでにいくら買い物をしてくれているかはすぐにわかります。
それを元に、常連で多くの買い物をしてくれている顧客のデータを抽出し、日頃のお礼としてマスクをプレゼントしたのです。

このようなサービスを瞬時に実施できるライバル店が隣にあったら、大きな脅威ではないでしょうか。

 

謎を謎で終わらせない手法

 

話をワークマンに戻しましょう。

10月にオープンした横浜の女性メイン旗艦店のオープンを知らせるホームページには、このような一節が掲載されています[2]。

ご参考) 映えスポットの制作時の担当者総入れ替え「事件」の経緯
 当初は営業企画部の男性社員のみで「インスタ映えスポット」の企画を練った。それを参考までに当社女性社員に見せたが、歴史的な「酷評」を受けた。「センス悪すぎ」、「そもそも縦長にしないとインスタ画面に入らない」など。結局、企画担当者は総入れ替え。インスタ達人の広報部女性社員を中心に、当社の女性アンバサダーのアドバイスを受けて作ったのが上記の企画。男性社員には「小顔効果」のための小物作りや「ゆるキャラ」作りという発想自体がない。

補足資料2  当社のアンバサダーマーケティング
もともと当社の「熱いファン」である人気YouTuber・Blogger・Instagrammerの30人に当社のアンバサダーに就任して貰っている。キャンプ、バイク、自転車、アウトドアグッズ、ジョギング、男性ファッション分野でのオピニオンリーダーばかりだ。アンバサダーは「身内」として製品開発、新製品情報の独占的な発信、QRコードによるお客様への製品説明まで「無償」で参画して頂いている。アンバサダーは当社の新製品やイベントを独占的に発信(他のテーマの2~10倍アクセスあり)することにより、フォロアーや閲覧者が増えて収入アップに繋がっている。アンバサダーは更にメジャーになるともっとプロ化して、「卒業」していく場合も想定されるが、その時は喜んで送り出したい。

社内で「センス悪すぎ」と言わせる社風も見習いたいところですが、ネットインフルエンサーを「身内」として取り込んでいるのも特徴です。
アンバサダーには社内行事を開放し、開発部の一員として1年先の商品情報まで知らせる、という徹底ぶりです。

これは、売っている側には想像もつかなかったユーザー層にワークマンの商品が売れ、ワークマンからすると「謎ヒット」が相次いだことがきっかけです。

なぜ、そうまでしてインフルエンサーを抱え込むのか。それは、謎としか言いようのないヒットが次々と生まれたからだ。作業用のレインスーツをバイカーが買い求め、綿かぶりヤッケがキャンプ用品の定番になる。原因を探ると、いずれもブログやSNSの書き込みに行き着いた。社内には作業服の専門家は大勢いたが、バイク用品、キャンプ用品に精通している者は皆無だった。「我々が予想もしなかったお客さんが来ると分かったのだから、そういった方々を集めて教えを請うことにした」(土屋氏)。

<引用:「ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか」p141-142>

「謎ヒット」を謎のまま終わらせずに原因を突き止めて最大限活用したことも、「アウトドア用品店」ワークマン躍進の一因になりました。
しかしこれも言ってみれば、「データを収集し現場に反映する行為」に他ならないのです。

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「ものをつくって売る」ことの本質

 

いま、「これまでのものの売り方ではよくない」ことに多くの経営者が気付きながら、なかなか変革に踏み出せないというのが現状ではないでしょうか。
その大きな理由は「どの方向に舵を切れば良いかわからない」というものでしょう。

特に多様性の時代では、データが多くを語るようになります。
DXの必要性が強調されるのはこのためです。

何をどう売れば良いのか、漠然と考えても答えは出ません。
また、自分たちなりに「改善」するといっても、方向性を誤れば市場から追い出されるだです。

「何が買われているのか」「誰に買われているのか」「なぜ買われているのか」、つまり、「何が必要とされているのか」を知ってニーズに応えることは、ものを売ることの本質でもあります。

また、SNSに目を付ける以前のワークマンのように、良い商品を提供してはいるものの、適切な用途を提案できずに多くの潜在客を取りこぼしているということもあり得ます。

まずは「勘ピュータ」の外から多くの情報を得なければ、多様性の時代では取り残されてしまいます。

 

 

 

参照書籍:「ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか」日経BP
[1]「キャッシュレスの現状及び意義」経済産業省資料
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/image_pdf_movie/about_cashless.pdf p4
[2]「新業態店 「#ワークマン女子」 1号店を10月16日(金)横浜桜木町駅前にオープン」https://www.workman.co.jp/news/%e6%96%b0%e6%a5%ad%e6%85%8b%e5%ba%97-%e3%80%8c%ef%bc%83%e3%83%af%e3%83%bc%e3%82%af%e3%83%9e%e3%83%b3%e5%a5%b3%e5%ad%90%e3%80%8d-1%e5%8f%b7%e5%ba%97%e3%82%9210%e6%9c%8816%e6%97%a5%ef%bc%88%e9%87%91

 

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