年々深刻化している「人手不足」。
新型コロナウイルスによる行動制限が緩和され、消費者の経済活動が広まった今、さらに多くの経営者の頭を悩ませています。
本記事では、人手不足の原因や、影響を受けている業界・企業ができる取り組みについて解説します。
関連記事:日本の人手不足問題は解決する?原因や国の対応を解説!
目次
日本における人手不足の現状
中小企業庁が毎年発表している「中小企業白書」によると、中小企業における売上高は、新型コロナウイルス流行前の水準に戻りつつあるとされています。
しかし、業態によって状況は異なり、宿泊や交通業などは引き続き厳しい状況です。
株式会社 帝国データバンクが発表したデータでは、2023年1月時点「人手不足を感じている」と答えた企業の割合は正社員で51.7%、非正社員で31.0%となっており、それぞれ5ヶ月連続で高水準となっています。
その中でコロナ関連融資の返済期限を迎える企業も多く、収益力改善や事業再生のための施策が必要な状態です。
参考:2023年版中小企業白書・小規模企業白書概要|中小企業庁
参考:人手不足に対する企業の動向調査(2023年1月)|株式会社帝国データバンク
人手不足と人材不足の違い
人手不足と似ている言葉に「人材不足」がありますが、意味は違うため、注意が必要です。
- 人手不足:必要とする人数に対して、労働者が不足していること
- 人材不足:必要なレベルのスキルや技術を持つ労働者がいないこと
2つの言葉の違いを明確にした上で、これからの解説を行います。
日本が人手不足である原因
日本が人手不足である主な原因として下記5つが考えられます。
- 少子高齢化
- 企業と求職者のミスマッチ
- 都市部への人口集中
- 労働生産性が低い
- 顧客ニーズの多様化
それぞれ詳しく解説します。
少子高齢化
日本の総人口は2008年の1億2,806万人をピークに減少を続けており、2055年には9,744万人になると予想されています。
さらに生産活動の中心にいる15〜64歳までの「生産年齢人口」も1995年をピークに減少し続けており、危険な状態です。
また、65歳以上の人口は3,621万人と言われており、日本の総人口に占める割合は28.9%と高い水準となっています。
こうした人口減少、特に働き手の減少は人手不足に大きな影響を与えています。
企業と求職者のミスマッチ
人手不足には「人材の定着率の向上」も大きな課題の1つです。
厚生労働省が発表したデータによると、中小企業・小規模事業者の採用後3年間の離職率は、中途採用で約3割、新卒採用4割を超えており、短期間での離職が目立ちます。
理由は人それぞれですが、企業と求職者のミスマッチが起こっていることも原因の1つです。
また、下記は職業別の有効求人倍率の表です。
有効求人倍率とは「求職者に対する求人数の割合」で、求職者数より求人数が少ない場合は1を下回り、多い場合は1を上回ります。
職業 | 有効求人倍率 |
土木関係 | 5.99倍 |
介護関係 | 3.82倍 |
一般事務 | 0.43倍 |
運搬・清掃・包装業 | 0.83倍 |
こうして見ると、土木関係や介護関係で著しい人手不足が起こる中、一般事務や運搬業などは過剰に人が集まっています。
求職者が業界によって偏っていることも、人手不足の原因の1つです。
参考:第2部 中小企業・小規模事業者のさらなる飛躍|中小企業庁
参考:一般職業紹介状況(令和5年1月分)について|厚生労働省
関連記事:採用ミスマッチの対策方法5選【従業員を定着させる方法も紹介!】
都市部への人口集中
戦後、大阪と名古屋、東京においてほとんどの期間で転入超過となっています。
名古屋、大阪に関しては、1970年代以降鈍化しているものの、東京圏は依然転入超過が続いています。
さらに、現状で人が居住している地域の2割が、2050年までに無居住化するといわれており、その影響を強く受けるのが都市部以外の地域です。
人が住んでいない地域では仕事が生まれにくく、仕事を求める人はさらに都市部へ移動します。
それに伴い、地方企業であっても都市部への進出が増加する可能性があります。
労働生産性が低い
日本の労働生産性が低いことも要因の1つであるといえます。
労働生産性とは、労働者一人当たり、あるいは1時間当たりでどれだけの成果を生み出せるかを示したものです。
下記の画像は、公益財団法人 日本生産性本部が、労働者一人あたりの労働生産性を日本と海外諸国で比較し、順位づけした表です。
引用:労働生産性の国際比較 2021|公益財団法人 日本生産性本部
上位10カ国の中でも大きく順位を上げている国もある中で、日本の順位は1970年から大きく変化することなく推移しており、むしろ2020年には順位を下げています。
労働時間の割に成果を上げられていないことが問題視されており、限られた時間の中で効率よく成果をあげられるよう、無駄な会議や現代社会の状況にそぐわないルールの廃止などを行う必要があります。
関連記事:労働生産性とは?種類や計算方法、メリット、業界による差異を解説
顧客ニーズの多様化
高度経済成長期では、大量生産・大量消費の時代であり、顧客のニーズはある程度一定でしたが、日本経済の成長と共に「人と被ることを嫌がる」顧客が増加しています。
また、IT技術の発展に伴い、消費者は家から出ることなく、商品やサービスを受け取ることが可能になりました。
そのため企業は、実店舗以外にホームページやアプリなど消費者へのアプローチ方法を検討しなければならなくなっています。
多様な消費者に合わせるために、業務が増加していることも人手不足の要因なのです。
人手不足が企業にもたらす影響
人手不足は企業に下記のような影響を与えます。
- 労働基準法へ抵触するリスク
- 新規事業への着手が困難
不足している労働力を少ない人員でカバーするため、1人あたりの労働量は大きく増加します。
効率よく仕事をこなせる社員ばかりではないため、それぞれが同じ仕事量でも勤務時間に終わらず、残業や休日出勤をして対応するかもしれません。
「労使協定」という協定で、残業や休日出勤を承認する契約を事前に結んでいない場合は、労働基準法へ抵触する可能性があります。
また、業績を安定させるために既存事業の対応ばかりしていると、新規事業へ着手できず、事業拡大も難しくなります。
人手不足を解消する方法
人手不足を解消のために実践したい方法は下記の4つです。
- 職場環境の改善
- 高齢者や外国人の採用
- AIやIT技術の導入
- 人材育成
自社に適している方法はあるか、確認しておきましょう。
職場環境の改善
職場環境の見直しは必須です。
現在いる従業員の流出を防ぐ意味もありますが、職場環境のせいで入社したばかりの新入社員がすぐに離職しては意味がありません。
業務の割り振りや労働時間、賃金などはもちろん、福利厚生やオフィス環境、リモート勤務といった働き方など、働く上で気になる点はできるだけ改善しておきましょう。
採用体制の見直し
人材採用のターゲットを見直すことも重要な対策の1つです。
例えば、これまでターゲットとしてこなかった、シニア層や外国人、パート勤務でしか働けない主婦などの採用も検討することで、優秀な人材を獲得できる可能性が広がります。
また、現代はダイバーシティの推進が重視される時代です。
多様な背景を持つ人材を採用することは時流に応じた人事となり、社会からの評価も高まるかもしれません。
AIやIT技術の導入
ChatGPTの登場によって、一般にも広く知られるようになったAI。
現在AIが行える機能は「音声認識」や「画像生成」「数値予測」などがメインですが、今後の発展によっては、人間が行う作業を大幅に削減できる可能性もあります。
AIを含めたIT技術は日々進歩しているため、さらに成長すれば業務の手助けとなることが予想されます。
ルーティン作業や単調な仕事など、人間の判断をあまり必要としない業務に関して、AIの導入を検討してみてもよいでしょう。
人材育成
人手不足は企業や社会の責任だけではない場合もあります。
一人ひとりの意識やスキルを向上させられれば、人数が不足していても生産性を改善できる可能性があるからです。
スキルを向上させるためには自社研修が有効と言えるでしょう。
また、知識を持つ社員が日々の業務の中で、ほかの社員それぞれに合わせた方法で知識を共有することも、社員を大きく成長させることにつながります。
人手不足を解消した事例
人手不足が嘆かれている中でも、さまざまな工夫で乗り越えてきた下記のような企業も存在します。
- 【建設業】有限会社スタンプランニング
- 【ITコンサルティング】株式会社ナユタ
実例でわかりやすいため、自社に活かせる部分がないか確認しておきましょう。
【建設業】有限会社スタンプランニング
有限会社スタンプランニングは、土地や物件探し、設計、施工など、建物を建築する際に必要な工程をサポートする企業です。
繁忙期は月の残業時間が180時間を超える社員もおり、ピーク時は社員数30人に対して10人近くが一気に退職するほど高い離職率となっていました。
そのため、下記のような対策を行うことで成果を出しています。
- 受注基準の見直し
- 残業や休日出勤の届け出
- 有給休暇取得奨励日の設定
月180時間を超えることがあった残業は、現在では月4時間程度になり、それに伴って退職する従業員が減少し、人材が定着するようになっています。
【ITコンサルティング】株式会社ナユタ
株式会社ナユタはITシステムや情報通信に関するコンサルティングなどを行う企業です。
業態柄、システムエンジニアが必要ですが、同社が求めるレベルの人材が採用できず、人手不足を感じていました。
そこで、求職者の前職にとらわれない採用面接を行ったり、座談会を開催しざっくばらんに自社で何がしたいのかを訪ねたりといった、人物重視の採用方針へ変更。
その結果、自社とマッチする優秀な人材の採用に繋がり、現在では教育と並行して業務を行っています。
参考:受注基準の見直しや、短時間で働きたい人材の活用等で、利益を維持しながら働きやすい職場を実現|中小企業庁
参考:人柄を重視の採用で就職氷河期世代のシステムエンジニアの採用に成功|中小企業庁
まとめ
人手不足は自社内外問わず、多くの原因が絡み合って起こります。
そのため、自社での工夫だけでは人手不足を解消できないかもしれません。
しかし、職場環境の改善や採用体制の見直しなどは現在働いている従業員の離職を防止する効果もあります。
また、新しい人材ばかりに目を向けるのではなく、これまで働いている従業員のために努力を行うことで生産性、業績を向上させられるでしょう。