離職率を抑えることは、企業にとって重要かつ常に意識すべき課題です。
離職率低減のためのアプローチは多々ありますが、そのなかでも注目したいのが、従業員の仕事へのモチベーションに関してです。
仕事へのモチベーションと離職率は密接な関係にあり、離職率を低く抑えるためには、「従業員が不満を持つ要因」を改善するアプローチと「従業員が積極的なモチベーションを感じる要因」を強化するアプローチの両方が必要です。
この二つは混同されがちですが、どちらか一方のアプローチだけでは離職率を十分に下げきることはできません。
この記事では、「従業員が不満を持つ要因(衛生要因)」と「従業員が積極的なモチベーションを感じる要因(動機付け要因)」の両者について解説したうえで、離職率を下げるための具体的なアプローチを紹介していきます。
目次
離職率を左右する「モチベーション理論」について
離職率を下げるための具体的な対策について解説する前に、まずは従業員の離職率を左右する「衛生要因」と「動機付け要因」についてそれぞれ解説します。
この「衛生要因」と「動機付け要因」は、アメリカの臨床心理学者・ハーズバーグが労働者を相手に行った研究の中で明らかにされた理論であり、「ハーズバーグの二要因理論」と呼ばれています。
ハーズバーグは、職場における従業員のモチベーションに影響を与える要因を、以下のように「衛生要因(職場環境や待遇に関連する要因)」と「動機付け要因(成長や達成感に関連する要因)」の二つに分けています。
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1.衛生要因(不満足要因)
衛生要因は、別名「不満足要因」とも呼ばれます。
いわば、「ここがしっかりしていないと従業員の不満につながってしまう」要因です。
衛生要因には、「給与」「職場環境(パワハラ・セクハラの有無を含む)」「上司との関係の良好さ」「企業文化」などが含まれます。
これらの要因が不十分な場合、従業員は不満やストレスを感じるようになり、結果として離職率が上昇します。
ここで注意したいのが、衛生要因を改善するだけでは、従業員の仕事に対するモチベーションが大幅に向上するわけではない、ということです。
例えば、従業員の給与を2倍に増やしたとしても、従業員のやる気が2倍になるわけではありません。
とはいえ、「この会社は給料が低いから他の会社へ転職しよう」という離職要因や「たったこれだけの給料でこんな大量の仕事をやってられるか」とやる気を失わせることの防止にはつなげられます。
このように、衛生要因の面でのアプローチは、従業員が職場に不満を持つことを防ぎ、離職率を抑えるために必要です。
2.動機付け要因
動機付け要因は、いわゆる「やりがい」に直結する要因です。
ここには「仕事で得られる達成感」「成長の機会」「ステータス」「職場内での賞賛・評価」などが含まれます。
動機付け要因の面でのアプローチは、従業員に自己実現の喜びや達成感、承認欲求の充実などを感じさせることが当てはまり、これによって、モチベーションの向上に直結します。
モチベーションが高い従業員は、職場でのパフォーマンスが向上し、離職率も低くなる傾向があります。
3.衛生要因と動機付け要因の関係
ハーズバーグの二要因理論に基づくと、離職率を低く抑えるためには、まず衛生要因を改善させて従業員の不満を解消し、次に動機付け要因を強化して従業員のモチベーション向上につなげることが重要です。
これにより、従業員の仕事への取り組みや組織へのロイヤリティ(忠誠心)が向上し、結果として離職率が低下すると考えられます。
離職率を下げるための12のモチベーション対策
ハーズバーグの二要因理論に基づき、従業員の離職を防ぐためのモチベーション対策について、「衛生要因」と「動機付け要因」それぞれの改善点を解説します。
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衛生要因の改善
衛生要因の改善にフォーカスした対策は以下の5つです。
- 給与・報酬の適正化
- 職場環境の改善
- 管理体制の見直し・柔軟な働き方の導入
- 福利厚生の充実
- 上司のマネジメントの改善
以下、順番にご説明していきます。
1.給与・報酬の適正化
従業員の給与は、業界標準や同業種・同経験年数の労働者と比較して適正な水準であることが重要です。
また、従業員の成果や貢献に応じて報酬を見直すことで、公平性を高め、不満を軽減します。
2.職場環境の改善
快適な職場環境は、従業員のストレスを軽減し、集中力や業務の効率を向上させます。
適切な空調、温度調整、清潔さ、騒音レベルの低さなど、職場環境の整備に力を入れることが重要です。
3.管理体制の見直し・柔軟な働き方の導入
パワハラやセクハラ、サービス残業の強要など、従業員にとって害になるような行為が横行しているようではいけません。
それらの行為が職場内に存在しないかどうか管理する体制が確立されていることで、社員は安心感を得ることができます。
また、フレックスタイム制度などの柔軟な働き方を導入し、従業員のワークライフバランスを支援します。
4.福利厚生の充実
従業員が長期的に働き続けられるよう、福利厚生の充実を図ります。
従業員の心身の健康に配慮したサービスや退職金制度、休暇制度、育児・介護支援などの福利厚生が整備されていることが重要です。
5.上司のマネジメントの改善
上司が部下をサポートし、適切なフィードバックやコミュニケーションを大切にすることで、従業員の不安や不満を軽減し、職場の雰囲気を向上させます。
また、従業員の意見や提案を尊重し、オープンなコミュニケーションを推奨することが重要です。
動機付け要因の改善
動機付け要因にフォーカスした対策は以下の7つです。
- 仕事の達成感を高める
- 責任感の醸成
- 成長・キャリアパスの支援
- 業績の承認・評価
- 仕事のやりがい・意義の共有
- 従業員間の交流促進
- 社内での才能・スキルの活用
順にご説明していきます。
1.仕事の達成感を高める
達成感を高めるためには、従業員に具体的で達成可能な目標を設定し、適切なサポートやリソースを提供することが重要です。
目標設定にはSMART(Specific=具体性、Measurable=測定可能性)、 Achievable=実現可能性、Relevant=目標との関連性、 Time-bound=期限の定め)の原則を当てはめながら実施するとよいでしょう。
あいまいな目標のもとで仕事をこなすのはしばしば苦痛になってしまいますが、具体的かつ達成可能な目標を設定することで、ステップを踏んでこなしていくような形で仕事に取り組むことができるようになります。
これにより、多くの従業員が達成感を感じられるはずです。
さらに、従業員が目標を達成した際には、その成果を明確に評価し、承認することで達成感をより強化することができます。
2.責任感の醸成
責任感を醸成するためには、従業員に十分な権限と自主性を与えることが重要です。
これにより、従業員は「やらされ感」を持つことなく、自分の仕事に対するコミットメントを高め、モチベーションを向上させることができます。
また、従業員が業務上の決定や計画に積極的に関与できるよう、オープンで風通しのよい組織風土を築くことも有効です。
従業員から出された意見を「ヒラ社員の癖に口出しするな」と拒絶するようでは、従業員がやる気を感じる機会を奪ってしまいます。
従業員が出してくる意見の質がどうであれ、従業員一人ひとりが意見を言えて、自分の頭で考えたアイデアを実行できる組織であることが、従業員の責任感の醸成につながります。
従業員が自主性を持って行動した結果失敗してしまったとしても、それを許容し、学びの機会とさせることで、従業員はチャレンジを恐れず、成長することができます。
3.成長・キャリア形成の支援
従業員の成長とキャリア形成を支援する姿勢を見せることで、「会社の利益だけでなく、自分達の未来を考えてくれている会社だ」と感じさせることができます。
また、従業員自身が実際にスキルや人間性の成長を感じることができれば、仕事へのやりがいは高まります。
従業員の成長とキャリア形成を支援するためには、継続的なスキル向上や知識習得の機会を提供することが重要です。
例えば、社内研修や外部セミナーへの参加、オンラインコースの活用、書籍の購入支援などが考えられます。
また、キャリアカウンセリングや定期的な面談を通じて、従業員の将来の目標や興味を把握し、適切なアドバイスやサポートを提供するのも良いでしょう。
これにより、従業員は自分のキャリアに対するビジョンを明確にし、モチベーションを維持できます。
4.業績の承認・評価
従業員の業績を適切に評価し、承認することは、モチベーション向上に不可欠です。
定期的な評価制度を導入し、従業員の業績や成長を客観的に把握することが重要になります。
また、評価基準を明確にし、自分の業績がどのように評価されるかを、従業員自身が理解できるような仕組みを作りましょう。
業績に応じたインセンティブや昇給、昇進などの報酬制度を設けることで、従業員のモチベーションをさらに高めます。
さらに、社内表彰や社内報での業績紹介など、「皆の前で褒められる」制度を取り入れることも効果的です。
褒められる従業員の承認欲求を満たせる上に、それを見ている他の従業員も奮起させることができるでしょう。
5.仕事のやりがい・意義の共有
仕事のやりがいや意義を共有することで、従業員のモチベーションが向上します。
企業のビジョンや目標を明確に伝え、従業員が「自分の仕事がどのように会社や社会に貢献しているか」を理解できるように努めます。
また、企業の社会貢献活動やCSR活動に従業員を積極的に関与させることで、従業員は自分が勤めている企業と社会とのつながりをより強く実感できるようになります。
これにより、従業員の士気やモチベーションを高めることが可能です。
6.従業員間の交流促進
従業員間の交流を促進することで、従業員同士の一体感や連携が向上し、従業員のモチベーションが高まります。
例えば、定期的な交流イベントやレクリエーション活動を通じて、チームの結束力を強化することができます。
また、部門間のコラボレーションを促すためには、部門横断的なプロジェクトやタスクフォースを設けることが有効です。
異なるスキルや知識を持つ仲間と共同で働くことで、従業員は新たな視点やアイデアを学び、成長を感じることができます。
7.社内での才能・スキルの活用
従業員が持っている特技やスキルを活かす機会を提供することで、モチベーションを高めることができます。
例えば、社内プロジェクトやイベントにおいて、自分の才能を発揮できる役割を割り当てることが効果的です。
これにより、従業員は自分の能力を発揮できる環境が社内にあると感じ、自己肯定感を向上させることができます。
また、社内でのスキルシェアリングやワークショップを定期的に開催するのも良いでしょう。
従業員同士が互いのスキルや知識を共有し、お互いに刺激を受け合いながら成長できる環境を作ることができます。
まとめ
従業員の離職率を下げるためには、離職率と密接な関係がある「モチベーション」への対策が必要です。
その際は、「不満を取り除くアプローチ(衛生要因)」と「やりがいを引き出すアプローチ(動機付け要因)」のどちらも欠かさず、組み合わせて実施する必要があります。
これらの対策を実施することで、従業員のモチベーションが向上し、結果的に離職率が低下が期待できるでしょう。
企業は従業員のニーズや期待に応えるために、継続的な改善と評価を行い、働く環境を最適化することが求められます。