新卒入社者の中で約3割の人が3年以内に離職しているデータは、人事担当者なら誰もが知る情報です。
では、具体的に、離職率の高い業界はどこなのでしょうか。
これを知る人事担当者は、もしかしたらそう多くないかもしれません。
本記事では、離職率の高い業界をランキング形式で紹介しています。
また、それに伴い、離職率の低い業界も取り上げました。
離職率を下げる取り組みを検討する際に、ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:離職率とは?計算方法や平均値、離職率の高い企業、低い企業の特徴を解説!
目次
離職率の高い業界ランキングTOP5
ここでは厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)」を元に、離職率の高い業界ランキングを紹介していきます。
なお、参考までに、大学新卒の3年以内の離職率は31.5%です。
この数字を参考にしながら、ランキングを読んでみると理解が深まるでしょう。
関連記事:日本企業の離職率の平均はどれくらい?【離職率を改善する方法も紹介】
第5位:不動産業・物品賃貸業
まず第5位は「不動産業・物品賃貸業」です。大学新卒の3年以内の離職率は36.1%です。
まず不動産業は、以下の4つの業種に大別できます。
- 設計・建設・施工
- 販売
- 賃貸
- 管理
これはあくまでも推測ですが、離職率が高いのは「販売」だと考えられます。
なぜなら不動産販売は事実上の接客業であることに加え、土日出勤が命じられるためです。
また、物品賃貸業は主に「リース業」と「レンタル業」のことを指します。
こちらも主に接客業なので、労働時間が長くなる傾向があると言えるでしょう。
第4位:医療・福祉
第4位は「医療・福祉」です。大学新卒の3年以内の離職率は38.6%となっています。
現代の少子高齢化の社会において、医療・福祉は非常に重要な職種です。
しかし人材不足が深刻化しており、需要と供給のバランスが崩れ、労働環境が改善されていない様子が見受けられます。
それに加え、医療・福祉は業務都合上、勤務体系が不規則になりがちです。
その影響で自分自身の健康を崩すことも珍しくないでしょう。
第3位:教育・学習支援業
第3位は「教育・学習支援業」です。
大学新卒の3年以内の離職率は45.5%となっており、約半分の人が3年以内に離職しているということになります。
「教育・学習支援業」は、主に学習塾や教材販売会社が挙げられるでしょう。
特に学習塾は、労働時間が長い傾向にあります。
実際に生徒に教えるだけでなく、その授業内容の構築にも時間を割かなければなりません。
かと言って、教師のように大きなやりがいを感じられる職種とは言えないでしょう。
それに加え、生徒の成績向上がノルマとなっているため、営業職のように、数字に追われる生活になりやすいのも離職要因の1つです。
第2位:生活関連サービス業・娯楽業
第2位は「生活関連サービス業・娯楽業」です。大学新卒の3年以内の離職率は47.4%となっています。
「生活関連サービス業・娯楽業」は、音楽・スポーツなどの娯楽イベント、家事代行、理容・美容などの職種が該当します。
どれも現場での仕事になるので、体力的に厳しい場合が多いと考えられます。
それに加え、キャリアアップが見込みづらく、将来的にもAI・ロボットに代替されやすい職種です。
そのため、可能性を見限って、早めに離職してしまう人が多いのでしょう。
第1位:宿泊業・飲食サービス業
第1位は「宿泊業・飲食サービス業」です。大学新卒の3年以内の離職率は49.7%となっています。
その名の通り、宿泊施設や飲食店の従業員が該当します。
常に接客する必要があることに加え、夜間・土日勤務も当たり前。
また、お客様のクレームが多いので、精神的に消耗しやすい職場だと言えます。
また、現場での仕事はキャリアアップが見込みづらいことに加え、労働量の割に給与が少ないのも問題点です。
離職率の高い業界の共通点
離職率の高い業界には、一定の共通点があるように見受けられます。
離職率の高い業界の共通点は以下の3つです。
- BtoC系の仕事が多い
- 不規則な勤務体系になりやすい
- 笑顔が求められる
それぞれ詳しく解説していきます。
BtoC系の仕事が多い
離職率の高い業界は、どれもBtoC系の仕事が多い印象があります。
先ほど紹介した5つの業界は、どれも消費者向けの業界です。
日本では「お客様は神様」の思想が根強く、従業員よりも顧客の方が、立場が上になります。
そのため、高圧的な顧客が多く、それに対して従業員も受け入れるしかない現状があるのです。
また、個人を相手にする以上、販売単価が小さく、給与が優遇されづらい現状もあります。
不規則な勤務体系になりやすい
消費者をターゲットにするBtoC業界であるため、必然的に土日出勤や夜間勤務が増えます。
なぜなら一般的な消費者は、平日の日中に企業で勤務しているためです。
そのため、BtoC業界で働く人々は、一般的な勤務体系とは真逆になるケースが多くなり、ストレスを感じてしまいます。
特に夜間勤務は、人間の生活リズムを崩しかねない不健康な勤務体系です。
かと言って、給与が高くなる兆しも、現状ではあまり見受けられません。
3年以内に離職する方の中には、不規則な勤務体系によって精神的な病を抱えてしまったケースも、少なからずいると推測されます。
笑顔が求められる
BtoC業界の中で結果を出すためには、常に笑顔でいることが求められます。
接客業である以上、無愛想な表情で接客していては、お客様からの印象が悪くなってしまうためです。
そして「常に笑顔でいることが求められる」というのは、たとえ自分自身がどんなに辛くても、笑顔でいなければならないことを指します。
これは、精神的なストレスが蓄積してしまっても、全くおかしくない状況です。
精神科医療において「微笑うつ」という心の病があります。
これは外見上では笑顔が作れても、内心では深刻な精神トラブルを抱えている状態のことです。
つまり「笑顔=健康」の図式は、必ずしも成り立つわけではありません。
無理して笑顔を作ることほどストレスが溜まることはないと、筆者は強く感じます。
離職率の低い業界ランキングTOP5
ここでは離職率の低い業界ランキングTOP5を紹介していきます。
先ほども述べましたが、大学新卒の3年以内の離職率は31.5%です。
この数字を参考にしながら読んでいただけると、理解が深まるでしょう。
第5位:運輸業・郵便業
第5位は「運輸業・郵便業」です。
大学新卒の3年以内の離職率は25.5%となっています。
「運輸業・郵便業」は配送ドライバーはもちろんのこと、鉄道・航空などの旅客業も含まれるようです。
離職率が低い理由として、自己裁量権がある点が挙げられるでしょう。
例えば配送ドライバーは、一度業務を覚えてしまえば、あとは1人で目的地までひたすら移動するだけです。
人間関係のトラブルに悩む可能性が少ないと言えるでしょう。
また、その業務上、一定の場所に留まることが少ないです。
各地を移動できるため、一定のリフレッシュ効果が見込めます。
第4位:金融業・保険業
第4位は「金融業・保険業」です。
大学新卒の3年以内の離職率は25.1%となっています。
「金融業・保険業」は業務が非常に多忙ではあるものの、成果に応じて非常に高い給与を獲得できます。
努力して改善を繰り返せば、確実に給与が上がっていく職種なので、やりがいも大きいです。
それに加え、キャリアアップや将来的な独立も見込みやすいため、早期に離職する必要がないと考えられます。
第3位:鉱業・採石業・砂利採取業
第3位は「鉱業・採石業・砂利採取業」です。
大学新卒の3年以内の離職率は20.1%となっています。
「鉱業・採石業・砂利採取業」は、一見すると非常に厳しそうな職種です。
しかし大学新卒となると、おそらく現場監督や計画策定の仕事になると考えられます。
また、安全第一に業務を進めるためにも、日中に活動するのが一般的です。
そのうえ「鉱業・採石業・砂利採取業」は、業界全体で年間数百人程度しか入社してこない実態もあります。
入社者が少ないことによる偏りがある点も考慮しましょう。
第2位:製造業
第2位は「製造業」です。
大学新卒の3年以内の離職率は18.5%となっています。
特に製造業の中でも、自動車・電化製品の離職率が低いです。
その一方で繊維・食料品などの離職率が大きいので、業種によって離職率が変動する点には留意しておきましょう。
とはいえ、やはり業界全体として需要が安定しているのが製造業の強みだと言えるでしょう。
第1位:電気・ガス・熱供給・水道業
第1位は「電気・ガス・熱供給・水道業」です。
大学新卒の3年以内の離職率は10.6%となっています。
これらはいわゆる「インフラ業界」と呼ばれるものです。
人々が生活する上で必要不可欠な業界となっています。
そのため、業界全体として安定しているのが特徴です。
また、インフラ業界は試用期間が長い傾向もあり、ゆっくりとしたキャリアプランとなっているため、早期の段階で企業を見限る可能性が低い点も挙げられます。
離職率の低い業界の共通点
離職率の低い業界の共通点は以下の3つです。
- 基本的にBtoB業界
- 物質的な商品を取り扱っている
- インフラ企業が多い
それぞれ詳しく解説していきます。
基本的にBtoB業界
先ほど紹介したランキングの内、TOP3に入る3つは全てBtoBの業界です。
それに加え、いずれも新規顧客を獲得する必要性の薄い業界だと言えます。
つまり、営業で厳しいノルマを課されている可能性が比較的低いということです。
また、BtoB業界は、クライアント側も企業なので、お互いにビジネス上のやり取りができます。
BtoC業界のように理不尽なクレームをぶつけられるケースは、そこまで多くないでしょう。
物質的な商品を取り扱っている
今回紹介したランキングの中では、物質的な商品を取り扱っている企業が多い印象です。
接客によるサービスを提供する必要性が薄いため、従業員の精神的負担が大きくないことが、離職率の低い要因として挙げられるでしょう。
また、物質的な商品を取り扱う以上、そこには原価が発生します。
いわゆる「おもてなし」を考慮しなくても、原価に応じて価格決定できるため、やはり接客の質を追求する必要性が低いです。
インフラ企業が多い
離職率の低い業界は、それぞれインフラ業界と呼んでも差し支えないものです。
どんなに景気が悪くなっても、必ず存在し続けるであろう業界だと言えます。
そのため、他の業界に比べて、キャリアが安定しています。
それに伴い、企業も長期的な雇用を前提したキャリアプランを提示しているようです。
おそらく入社する時点で、早期離職する気のない人材が多いのだと考えられます。
離職する人が少ない大企業ランキング
先ほどまでは、離職率の低い業界を紹介してきました。
しかし実際は、同じ業界の中でも離職率に大きな差が出るのが実態です。
そこで、東洋経済の『CSR企業総覧』のデータから参照した2021年版「離職者が少ない会社ランキング」を紹介していきます。
以下の通りです。
順位 | 社名 | 年間離職者数(21年度) | 離職率(%) |
1 | ゴールドウイン | 5 | 0.5 |
2 | 三井不動産 | 13 | 0.7 |
2 | 日清オイリオグループ | 13 | 1.1 |
2 | 長谷川香料 | 13 | 1.2 |
5 | アース製薬 | 15 | 1.2 |
5 | やまびこ | 15 | 1.3 |
7 | 関西ペイント | 17 | 1.1 |
8 | FDK | 18 | 1.1 |
8 | オルガノ | 18 | 1.7 |
10 | 日本新薬 | 20 | 1.1 |
10 | エイチワン | 20 | 1.6 |
10 | ダイヘン | 20 | 1.9 |
なお、第1位のゴールドウインは、アウトドアブランド『ザ・ノースフェイス』を手掛ける企業です。
以上を見て分かる通り、先ほど紹介した離職率の高い業界とは、あまり関係ない結果であることがわかります。
例えばゴールドウインは衣服販売店であり、アース製薬や日本新薬は医療業界という解釈ができるでしょう。
それはつまり、企業の努力次第で、離職率を落とすことができることを意味します。
ゴールドウインの取り組みを参考に
実際、ゴールドウインは従業員の満足度を高めるために、以下のような取り組みを実施しているようです。
- 技能検定取得のサポート
- 接客ロールプレイングコンテスト
- 20時から翌日7時までのアクセス制限
- ノー残業デーの設定
- 社内公募では職種レベル関係なしに希望者を広く募集
特に20時から翌日7時までのアクセス制限は、仕事とプライベートのメリハリをつけるのに役立ちます。
従業員の満足度を高めるためには、仕事とプライベートのメリハリを強制的に作り出すぐらいがちょうどいいのかもしれません。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- 離職率の高い業界は「宿泊業・飲食業」のような、ハードな接客が求められる業界
- ただし、企業努力次第で離職率を低下させることは十分に可能
- 離職率を下げる取り組みとして、仕事とプライベートの境目を強制的に作り出すことは、良い施策かもしれない
離職率ランキングは、あくまでも業界単位に過ぎません。
たしかに、離職率の高い傾向のある業界が存在するのは事実です。
しかし、企業努力次第で、離職率はいくらでも改善できると考えられます。
実際に離職率低下に取り組んでいる企業の事例を参考にしてみてはいかがでしょうか。