今回は人事評価シートの基礎から導入までのステップ、それらを踏まえた上で事例をいくつか紹介していきたいと思います。
目次
人事評価シートとは?
そもそも、人事評価シートの目的は何でしょうか。このような問いに対して、下記のような回答を耳にすることが少なくありません。
- 「従業員の頑張りを平等に評価すること」
- 「今後のキャリアプランを明確にすること」
- 「従業員のモチベーションを上げるため」
実は、これらは全て間違いなのです。正確に言うと、前提条件が考慮されていない状態になっています。
もちろん評価は平等であるべきですし、明確な評価項目があり、これを満たすことで給与や自身のステージが上がっていくと、従業員はモチベーションを得ることができるでしょう。
しかし、大切な要素が抜けています。それは、会社の成長に貢献できているという要素です。
例えば、子どものお小遣いを増やすことを想像してください。
「テストでよい成績を取った」とか「何かの大会で優勝をした」などは、お小遣いを増やす条件にはなるかも知れません。
ただし、お小遣いを増やすことを実現するには、継続して支払える家計の余裕が満たされていなければ実現することはできないはずです。
これは会社も同じです。従業員の給与を上げたいのであれば会社の業績を伸ばさなければなりません。
この事実を無視すると労働分配率が上がってしまい、経営に支障を来たしてしまいます。
また、頑張りやモチベーションは個人の考え方に依存してしまうものです。
会社が考える働き方と個人が考える働き方が一致していない場合、得られるはずのものも得られなくなり、結果的に損な努力が生まれてしまいます。
努力しても得られるものがないわけですから、この状態では絶対に人の集中力は向上しません。
したがって、評価制度の目的は、「組織が目指す方向に従業員を向かせること」となります。
人事評価シートを導入するまでの3ステップ
人事評価シートを導入するまでには、3つのステップを踏む必要があります。
以下、それぞれのステップについて解説していきます。
ステップ1:組織図の整理
最初のステップは組織図の整理です。
特に、多くの組織において上司・部下の縦ラインが整備されていません。
どういうことかというと、下記のような組織図になっている状態です。
課長(1人)-主任(1人)―メンバー(4人)
これの何が問題でしょうか。この組織図では、課長の責任範囲と主任の責任範囲が結果的に同じになってしまっているのです。
課長:自分の課全体の数字責任
主任:自分を含めた自チームの数字責任(=課の数字責任)
この状態になっていると、課長と主任の責任は重複してしまい、組織は機能しません。
課長に主任よりも大きな数値目標を与えればよいとお考えになるかもしれませんが、そうすると課長はプレイヤーとしての個人成績を優先する可能性が高まってしまいます。
どちらにせよ組織がうまく機能しないリスクが高いのです。
人事評価シートを導入するには、組織図の整理をして役職と責任範囲の明確化を行いましょう。
関連記事:人事評価の書き方のポイント!評価の基準と記入例もあわせて解説
ステップ2:役割の設定
組織図を整備したら、次は役割を定量的に設定することが重要です。
例えば、
- 積極性
- 柔軟性
- 勤勉さ
このような評価項目を盛り込んでしまっている企業が多くありますが、これではいけません。もし盛り込まれているのなら、すぐに修正をしましょう。
なぜかというと、評価者と被評価者の間で認識のずれが発生してしまうからです。
人はこれまで培ってきた知識や経験によってマイルールを持っています。誰しもそうです。
そのマイルールによって積極性、柔軟性、勤勉さの理解に差が生まれてしまうのです。
すると、評価者と被評価者の間で不毛な認識合わせをする羽目になります。
ちなみに、この話し合いでは、非常に高確率で答えは出ません。
もしくは、一方が折れて表面的に「分かりました」と納得した振りをします。実際には納得はしていません。
結果的に仕事に対する集中力は下がり、パフォーマンスは低下します。
このような悲劇を生まないために、定量的(=〇×が付けられる)な評価項目の設定が必要となるのです。
関連記事:人事評価と自己評価のズレとは?なぜズレが生じるのか、その理由を解説
ステップ3:いざ実践!
ステップ1、ステップ2を通過したら、後は実践あるのみです。
人事評価シートを導入しようと決めたものの「給与に直結するものだから不備があってはいけない」と実践をためらう人が多くいます。
これ、ロスタイムです。
もちろん不備があってはいけませんが、あれもこれも考えていては不安が募るばかりで事実を把握することはできません。
こういったときには「まずは評価点数のみを出す」という形式でもよいので、人事評価シートの運用を開始するべきです。
百聞は一見に如かず、実際に運用してみなければ、本当の意味で不備は見つけられません。
意外と、点数が明確になるだけでも社員は意識をし、パフォーマンスが上がります。
もちろん給与連動をいつまでも保留にしてよいわけではありませんが、ある程度フレームが完成したのであれば、まずは実践が重要となります。
人事評価シート活用の事例
ここからは、人事評価シートにおける評価項目の事例を共有したいと思います。
- 飲食(商業施設内などのテナント型店舗)
- ⇒客数
商業施設内などのテナント型店舗は客数を評価項目の第一優先順位にします。
テナント型店舗ですと、ある程度客数が安定するため客単価を重要視することがありますが、私の経験上、客数を優先するべきです。
ある程度人気がある店舗を想像してください。必ずウェイティングが発生しています。
このウェイティングを減らそうと思うとオペレーションの改善が必ず必要となるのです。
結果、効率的な店舗となり、顧客を待たせることも減り、売り上げと顧客満足度がともに向上していきます。
- 整体/接骨/リラクゼーション
- ⇒次回予約率、既存顧客売り上げ
美容サロンなども似ているかも知れませんが、スタッフ単独で客数を増やすなどの策が難しい業態では、集客をした顧客を逃さないようにすることが大事です。
考えていくとさまざまな改善箇所が出てきます。
初回カルテの取り方、施術内容の標準化、休眠顧客へのアプローチなど、新規集客は難しくとも、ちょっとした工夫で売り上げをつくることが可能です。
また既存顧客はファン化していくと、そこからの紹介や口コミのスコア向上などにより、結果的に新規獲得への効果も期待ができます。
- バックオフィス
- ⇒ポイント制
作成は大変ですが、一度でき上がると非常に効果的です。
日々のルーティンワークを全て洗い出し、各業務にポイントを設定します。次は毎日平均してどれぐらいのポイントを獲得しているのかを計測します。
そうすると、後はポイントの目標値を設定するのみで完成です。作成するまでの作業量が多いだけで、作成自体の難易度は高くありません。
このポイントと残業時間などを評価項目に設定すると「いかに短時間で作業を完了させるか」という思考に切り替わっていきます。
今回は人事評価シートの導入ステップと事例に関して解説をしました。最後に一点注意をしてほしいことがあります。
それは、評価制度を整えても結果が出ないことがあるということです。むしろ高確率でそうなります。
先に述べた通り、人にはマイルールがあります。評価制度が素晴らしくても、「めんどくさい」などとネガティブに捉えてしまう人もいるのです。
このようなエラーが発生しないように、やはりマネジメントの見直しも必ず必要となります。ゆめゆめ、評価制度で全てが解決できると誤解しないようにしてください。