「何度言ってもルールを守らない」。そんな部下に悩んでいる上司はいませんか。
こういう部下は周囲の集中力を落とす原因になり、組織の生産性に与える悪影響が非常に大きいです。ただ、その損失を数値化することもできないため、当人に修正しようとする意識を持たせることは簡単ではありません。
今回はこうした困った部下とどう向き合うべきなのかについてお伝えしていきます。
目次
ルールの効果効能
本題に入る前に、ルールがなぜ大切かについて述べておきます。
ルールは組織の内と外を分ける境界線になります。ルールを意識し、行動していると、社員は、「自分はその組織の一員である」という帰属意識を持つようになるのです。
帰属意識を持った社員は、会社が窮地に陥れば、社長と共にそれを乗り越えようと力を貸してくれます。
会社が今よりよくなるには何が必要かを考えてくれるでしょう。当
然、そういう社員がたくさんいる会社は強いです。ルールがあってしっかり守られている組織ではそのようなメリットを享受できます。
そして、ルールがあり、それがしっかり守られている組織には規律があります。
企業では日々新たな施策や、商品が生み出されていきますが、それが本当に必要なのか、うまくいくのかはやってみないと分からないですよね。
うまくいかなければすぐに止めたいですし、時間をかければうまくいくのであれば結果が出るまで待ちたいところですが、規律がある組織では、この判断が早く正確にできる確率が上がります。
仮にうまくいかなかった場合、その理由は二つ考えられるわけです。一つはその施策自体がまずい場合、もう一つは実行者がしっかり実行しなかった場合のいずれかです。
このとき、規律のある組織では、後者の可能性を消すことができます。つまり正解にたどり着くまでのスピードが速くなるのです。しっかりとルールが設定され、それが順守されている組織にはこのような強みがあるのです。
ですから、もし現状ルールがない、もしくは整備されていない、あっても形骸化しているという組織では、これを整備し、周知し直し、順守状況を良くしていくところから試してみましょう。
「ルールの仕分け」に取りかかろう
ここまでの前提を踏まえ、ルールを守らない社員がいるときに行いたいことは、「ルールの仕分け」です。
ルールには「守ろうと思えば誰でも守れるルール」とそうではないルールがあります。
前者は例えば挨拶や、整理整頓、または時間厳守や身だしなみなどに関するルールです。後者は「売り上げ」などのルールですね。
それをしっかり仕分けて設定してください。
つまり最初の対応は、設定者側がルールを見直し、守れていないように思われる部下が「本当にルールを守れない部下であるかどうか」を再度確認する、ということになります。
期限と状態が明確なルールにする
その仕分けが終了したら、次に「ルールの形の整備」をしましょう。設定されているルールを漏れなく「守れているかいないかの認識のずれが発生しない形」にするのです。
例えば、「整理整頓をする」というルールについて考えてみます。
整理整頓ができている状態というのは、人によって基準が違いますよね。また、都度整頓しないと気が済まない人もいれば、最後に一度すれば十分と思っている人もいます。
ここで、「整理整頓なんかこうするのが当たり前だろ」とか「なんで分かんないんだ」と感情的になってしまう人がいますが、残念ながらこれを分からせるのは無理です。その代わり、ルールの形を整えましょう。
社員同士で認識がずれないルールにするには、「期限」と「状態」を明確にします。
例えば「退勤時には机の上に一切の物がないようにすること」のようにです。会議室などを使用後に整頓させたいときは、整頓された状態の写真を張っておいて、退出時には「この状態に」とするのもよいでしょう。そうすれば「ルールを守っているかどうか」の認識は、社員の間でずれません。
このように、守ろうと思えば守れる環境にしていくことを心がけてください。
それでもルール違反をする社員がいるときは
これらを整えた上でそれでもルールを守れない社員がいるとき、どうすればよいでしょうか。
そういう社員がいるという相談を受けた際、私はいつも「その人に守らせようと思うことはいったん諦めましょう」とお伝えしています。
怒鳴りつけたり、ましてや首根っこをつかまえたりするようなことは絶対に許されません。守れていない状態を強制的に修正することはできないのです。
私は「守らない人がいることを逆に組織の成熟化のために活用する方向で考えましょう」とも言います。
ルールがあることや、その遵守状況をよくしていくことがなぜ重要なのか、は何も伝えずにいると忘れられてしまいがちです。また、日々メンバーが増えたり入れ替わったりしていく企業において、風化させずに常に全員に共通の認識を持たせ続けることは多大な根気と努力が要ります。
ですから、ここで先のような社員を活用します。継続的に違反を犯して「くれる」社員を、「違反をするたびに全社に対しアラートを鳴らすきっかけをくれる人」と見るのです。そのような社員が違反をしてくれた日に、例えば全社に対して、
本日○〇のようなルール違反が発生しました。ルールとは▲▲のためにあり、これを皆さんが日々正しく守っている状態を継続していくことは組織を日々強くしていくことにつながります。
のような、何故ルールが必要で、全員で守ることにどのような意味があるかを周知する連絡をしましょう。
こうすれば、違反が発生するたび、全員にそのことを改めて伝えることができます。違反者を糾弾することが目的の連絡ではありませんので、誰が違反を犯したかを文書に入れる必要はありません。
これを続けていくと、組織内でルールに対する認識の基準が上がっていきます。どんどん組織が成熟していくのです。
そのとき、違反をしていた社員はどうなっているでしょうか。組織のなかでルールを守ることに対する意識が高くなると、違反者に対する視線も厳しいものになってきます。会社が主導しなくても組織に自浄作用が生まれてくるのです。
そうなってくると違反をしていた人は選択を迫られます。「組織に合わせる」か「去る」かです。合わせにきたという状況はルールを守るようになるということですので、それが最善です。
ただ、去るという選択をしてしまったとしても、その人が去った後の組織は前述したように皆が帰属意識を持った組織に生まれ変わっていますので、次のそのような人は生まれにくくなっています。
今日、明日で解決できる方法ではなく申し訳ないのですが、そのように解決をはかっていきましょう。
一番しようとしてはいけないことは、この対象者にルールの大切さを伝え考え方を変えさせようとするアプローチです。人の考え方そのものをいきなり変えることは容易にできません。
ところが、そういう影響を部下に与えることができない管理者に対して、「部下にルールを守らせることもできないあいつは、管理者として失格だ」と考えてしまいがちです。
しかし、そうではありません。ルール違反者がいることに悩んでいる状況は、ルールの順守を求めているという点で、正しい組織運営に向かっていると言えます。