人気SFアニメーション『ガンダム』シリーズの主人公の一人であり、ダントツの人気を誇るシャア・アズナブル。彼に理想のリーダー像を重ねる人は多いかもしれません。
では、果たして彼は本当に優れたリーダーなのでしょうか。
目次
シャア・アズナブルとは
ガンダムの世界で、宇宙という未知の環境で進化した人類は、時間や空間、果ては生死の境界を越えて物事を捉えられる認知能力を身に付けます。
その新人類は「ニュータイプ」と呼ばれています。
ガンダムシリーズでは、多くの登場人物がニュータイプとして覚醒するものの、非業の死を遂げ、人類の未来の可能性を見せつつも、結局その力で世界を変えることはできないまま。その壮大な歴史ドラマのシリーズは現在もなお続いています。
ストーリーの発端となる最初のニュータイプの一人がシャア・アズナブルです。
彼も例にもれず志半ばで命を落としますが、ニュータイプの定義によれば、その魂は生死の境界を越え、全てのニュータイプたちとつながっているということになります。したがって、肉体は滅んでも、彼らは会話が可能です。
今回は、シャアと同じくニュータイプであり、シャアのかつての部下そして恋人であったララア・スン(故人)が識学を学び、識学理論を元にシャアとリーダー論を語るという設定で、シャアのリーダー像を詳らかにしていきます。
天才には特別扱いが必要なのか
「ララアは最近フラナガン研究施設の識学研究所で識学についての訓練を受けたと聞いた。相変わらずララアは真面目だな」
「大佐、私は大佐のお役に立ちたいだけです。独りぼっちだった私を救ってくださった恩に少しでも報えればそれが一番の幸せです」
「ふふふ。ララアはいつか私の上に立つ存在になる。私は真面目にそう思っているのだ」
「大佐は私をかいかぶりすぎです。でも、まんざらそうでもない、いやむしろそうだった方がよかったかもしれませんわ」
「(おや、どういうことだ?)そうか。じゃあララアの意見を聞かせて欲しいな」
「分かりました。では大佐。組織においてルールとはどんな役割を果たすものでしょうか」
「何をいうかと思えば、そんなことか。ララアはまだまだだな。そうだな、我々軍人にとってはルール、つまり規則は非常に重要だ。規律があることで一糸乱れぬ行動が取れ、それができなければ戦いで勝てない。チームの一員であればルールは絶対のものだ。そうだろ」
「そうですよね。ではリーダーは、ルールに関してどういった責任と役割を持つでしょうか」
「それは、チームが勝利するために最適なルールを迅速に決定し、指示を出し、ルールを守らないものは厳しく罰しないといけな。ララア、私は軍人だぞ。そんな当たり前のことを――」
「では大佐。大佐はリーダーとしてルールを徹底されていらっしゃいましたか」
「……ララア、言いたいことが分からないのだが」
「ではお教えしましょうか。クエス・パラヤという女の子、いらしましたよね」
「なんのことだ……ああ、彼女は優秀なニュータイプとしての素質を持っていた。優秀な人間というのは、ともするとその特殊な能力故周囲と合わないことがある。私の特権で彼女には自由にやらせることで――」
「そこですよね。大佐はおぼっちゃまでいらっしゃって、特別扱いされるのに慣れていたせいもあるかもしれませんが、組織においてそれはNGです。なぜかは先ほどご自身でおっしゃいましたよね」
「ララア、君はやきもちを……」
「焼いていません。事実を申しております。それによって彼女はスタンドプレーをし、大切な最終兵器であるアルパ・アジールを十分な成果をあげる前に大破させてしまったのです。彼女を殺したのは、大佐、あなたです」
「うう……」
相手の感情を巧みに操る
「大佐、そのときギュネイ・ガスという若者がいたのも覚えていらっしゃいますか」
「もちろんだ。私が人工的に薬物などで強化した優れた兵士だ。そのせいもあり感情の起伏に極端なところがある。彼がクエスに気があるのを分かっていたので、クエスが私に好意をもっていることを利用して、けしかけることで、嫉妬心を闘争心に変え、力を発揮させるようにした。そのおかげで彼は連邦軍の核弾頭を大量に破壊するというエースクラスの戦功を残したのだ」
「大佐は昔からそうですよね。人の嫉妬心や功名心をくすぐり利用する。ガルマさまの件に至っては数年にわたり接近し学友としてライバルを演じるところから始め、自分に張り合わせることで自滅させるなんて、まあ執念深いお方」
「しかし、こうした駆け引きはリーダーにとっては重要なテクニックだ。私はそれに長けているに過ぎない」
「では、いいですか。ガルマさまは大佐の部下ではないので責任範囲外ですから、管理責任は発生しないのでよいでしょう。しかし、ジュネイはあなたの部下です。管理責任が発生します。嫉妬に狂ったジュネイは功を焦り、戦争中とはいえ、相手の兵士を戦闘中に人質にとり、無抵抗のまま敵前で虐殺しました。これは戦後法廷にかけられれば戦争犯罪に問われることでしょう。大佐はリーダーとしてのご自身の過失を理解されていますか。これが企業であれば、上司が部下を不必要に扇動し、部下がコンプライアンス違反したのと一緒です」
「うう……」
稀代のカリスマ ビジョナリーリーダー
「その通りだよ。シャア。お前はリーダーとして間違えている。ララアから識学を学びよく分かったよ」
「その声は、アムロ、アムロ・レイか!」
「シャア、相変わらずだな」
「アムロ、お前のように組織の一員としてしか生きられず、才能を愚民どもに浪費されたやつに言われたくはない。」
「そうかな。シャア、俺は組織の一員として自分の責任、役割を全うし、そのなかで最善を尽くしただけだ。俺がリーダーになれなかったことは、確かに才能を生かしきれなかったと言えるかもしれない。しかし、リーダーとしての素養がまだまだだったからその機会が与えられなかっただけだ。識学を学んだ今はそれが分かるんだ。あの当時は格好をつけてリーダーは柄じゃないなどと言っていたが、組織内で選ばれなかったに過ぎなかったんだよ。それでも、与えられた役割は全うしたさ」
「しかし、アムロ。組織組織と言うが、君だって一度は地球連邦(ティターンズ)を裏切りエウーゴに合流したじゃないか」
「あれは転職だよ。ライバル企業に移ったが、その代わり、ちゃんと一員としてチームの勝利に貢献した。あくまで組織の選択をしただけだが、選択の責任としてそこを必ず勝たせる。これがサラリーマンだ。しかしお前は違う。お前はいわば起業した社長じゃないか」
「サラリーマン? なんのことを言っているのだ。ちい。まあそうとも言える。それであれば、君は私をリーダーとして間違えていると指摘したが、私には多くの人間が付いてきた。だからネオジオンを興せた。それがリーダーとして優れ、人心掌握ができているということの証明にはならんかね」
「お言葉ですが、大佐。なぜ人々は大佐に付いてきたと思いますか」
「理念だよ。宇宙移民の自由、解放。未来への希望だ」
「違うな、シャア」
「なんだアムロ! ではなぜだ」
「お前がさんざん格好をつけて演説ぶったり芝居じみた自己演出をしたりするからだよ。格好いいから付いてきたんだ。自分でも言っていただろう。道化になることをも厭わないと。いつも真っ赤な服を着て、派出なモビルスーツに乗り最前線まで出しゃばってくる。挙句スパイ作戦の際にも、周囲が全員迷彩でも、一人だけ赤だ。お前はいいが周りは迷惑だぞ」
「では、私はただの中身のない道化だと。馬鹿も休み休みに言え。理念もその根拠も、それを語る資格もある。宇宙移民の自治独立を唱えたジオン・ダイクンの息子である私にしか言えない言葉があるのだ!」
「おいおい、本気でそう思っているのか。言ってしまえば、お前は創業社長の息子で、父親が会社を共同経営者に乗っ取られ、復讐のため身分を隠して会社に潜入した。持ち前の世渡り術で出世して幹部になり、邪魔者を蹴落として復讐を遂げたと思ったが、そのせいで会社は倒産。次に幹部として入った会社では社長になるが、人間関係をこじらせて疾走。その後自分で会社を創業するが、ワンマンのスタンドプレイヤー社長で、前線に出しゃばって飛び出している内にスキャンダルで離脱。残された社員たちでは立ちいかず会社は離散。どうだい、シャア。それでも君は優秀だと言えるかい」
「くう。それでも私にも意地はある。パイロットとしての私は最強だ。赤い彗星は伊達じゃない」
「だからだよ、シャア。お前の最大の失敗はそこだ。お前は誰よりも目立って、誰よりも強い。いつでも最適解は自分が持っていると信じている。ゆえに部下を信じて任せることができず、後継者を育成することを怠った。自己陶酔し、自己顕示をすることで人は付いてきたが、結局それを幸せにしてあげることができない人間だ」
「……うう、アムロ! それでもララアは私の!」
「大佐……残念ですがその通り、リーダーとしては失格です。こういうリーダーに憧れてついていってはいけない、そんな人間です」
「ララア!」
よいリーダーは人を育てる
優れたリーダーとはどんな人間かというと、組織に規律を保ち、ルールで公明正大に組織運営をし、嫉妬や怨恨で足を引っ張り合うような環境をつくらないことです。
世渡り上手の人気者はよいですが、トップになってもそれだけでは組織を率いることはできません。よいリーダーは人を育てられます。人を育てられることができてはじめてよいリーダーと言えるでしょう。
当社は、再現性の高い人材育成のメソッドを伝えることで支持を集め、現在は3000社以上の企業が識学を取り入れています。
リーダーとしての基礎を学ぶことで、シャアのような自己陶酔型のリーダーとして、巻き込んだ人を不幸にしていくようなことがないようにしたいものです。