ビジネスを進めるとき、多かれ少なかれ「チーム」が一つの単位として動きます。
そして、人間関係や仕事の悩みも、まず、この「チーム」のなかで生まれることが多いと言えるでしょう。
Googleが、自社の世界180のチームを対象に「効果的な」チームにはどのような点が共通しているのかを調査したプロジェクトがあります。どのような結論が導き出されたのでしょうか。
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目次
プロジェクト・アリストテレス
Googleの調査は「プロジェクト・アリストテレス」というもので、「従業員は単独で働くよりもチームで働いた方が大きな成果を上げられる」というGoogleの研究者の考えを反映して実施されました[1]。
プロジェクトの語源は、「全体は部分の総和に勝る」というアリストテレスという言葉からきています。
この中で、「効果的なチーム」を測る4つの観点を、以下のように設定しています。
1)マネジャーによるチームの評価
2)チームリーダーによる評価
3)チームメンバーによる評価
4)四半期ごとの売上ノルマに対する成績
マネジメントは成果を求めますし、チームメンバーはやはり「良い職場」と感じる条件として、チーム内の文化と風土を重要視します。
ですから、「どの立場から見ても良いチーム」と言えるのは、上記の4ポイント全てである程度のスコアを出すチームでしょう。
そして、チームの効果性に影響する可能性がある要素として、
1)チームの力学:チーム内で異論を唱えることに不安を感じない。
2)スキル:自分は課題や障壁をクリアするのが得意である。
3)性格的な特性:自分は信頼の置ける社員である。
4)感情的知性:他人が抱える問題には関心がない。
を挙げ、被験者がこれらの設問に同意するかどうか聞き取る、という調査方法を取っています。
もちろんこれらの要素は、Googleが過去に実施してきた様々な研究の結果を元に絞り込まれたものです。
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「効果的な」チーム特有の要素とは
では、「プロジェクト・アリストテレス」が示したのは、どのような結果でしょうか。
まず、真に重要なのは「誰がチームのメンバーであるか」よりも、「チームがどのように協力しているか」であることを突き止めています。
そして、チームの効果性にプラスの要因を与えるものとして、以下の条件を導き出しています。
順に示すと以下です。
1)心理的安全性:対人関係においてリスクある行動を取った時の結果に対する個人の認知の仕方。
2)相互信頼:相互信頼の高いチームのメンバーは、クオリティの高い仕事を時間内に仕上げる
(これに対し、相互信頼の低いチームのメンバーは責任を転嫁する)。
3)構造と明確さ:効果的なチームを作るには、職務上で要求されていること、その要求を満たすためのプロセス、そしてメンバーの行動がもたらす成果について、個々のメンバーが理解していることが重要になる。
4)仕事の意味:チームの効果性を向上するには、仕事そのもの、またはその成果に対して目的意識を感じられる必要がある。
5)インパクト:自分の仕事には意義があるとメンバーが主観的に思えるかどうかは、チームにとって重要である。
そして、さほど影響がない要素として、以下を挙げています。
1)チームメンバーの働き場所(同じオフィスで近くに座り働くこと)
2)合意に基づく意思決定
3)チームメンバーが外交的であること
4)チームメンバー個人のパフォーマンス
5)仕事量
6)先任順位
7)チームの規模
8)在職期間
こちらについては、意外に思われる人も多いでしょう。特に1、2、4あたりは、違和感を覚える人もいるかもしれません。
ただ、チームの効果性を上げるためにもっとも重要な因子である「心理的安全性」については、Googleのこの調査結果をきっかけに、近年注目されるようになってきました。
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生産性の基盤「心理的安全性」
心理的安全性について、Googleはこのように説明しています。
「心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、『無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ』と信じられるかどうかを意味します。
心理的安全性の高いチームのメンバーは、他のメンバーに対してリスクを取ることに不安を感じていません。
自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを披露したりしても、誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる余地があります。」
単に仲が良いということではなく、例えば、このメンバーの中でならミスをしても許される、どのような意見を述べても嫌がられない状態、といったものをさします。
日本人にとっては、非常に難しいことかもしれませんが、一方で非常に重要なことです。
なぜなら、これは「自己肯定感」を引き出し、維持するために最も必要と考えられる要素だからです。
日本人の場合、なんとなく「場」「空気」が形成され、それを乱すような行動や発言をすると蚊帳の外に置かれがちという文化があります。
そこで「ミスをしないように」「逆らわないように」に神経が削がれています。また、異なる意見を巡って「喧嘩」に発展することもあります。
明らかに「非効率的」な状態ではないでしょうか。
「喧嘩」となると、まずは落ち着いて相手の話を聞き、「違いを認め合う」ことで、余計な怒りのエネルギーを使わずに済む場合も、実は多いのではないのでしょうか。
他人、ましてや「身内」に対する気疲れで消耗しているようでは、外に向かったパフォーマンスを発揮できないどころか、仕事の目的がわからなくなってしまうことだってあります。本末転倒です。
ミスをする、他人と違う意見を持つ、というのは「人間としてごく当たり前のこと」です。それを封じてしまうような場所が、良いチームではないことは明らかです。
信頼、やりがい、結果、といったものは、心理的安全性という前提なくして生まれない、と言っても過言ではありません。
そして、チームや社員の「持続性」を考えた時にも、無くてはならない基盤でしょう。
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心理的安全性と疲弊の関係
次に、こちらは「心理的安全性」について、リクルートマネジメントソリューションズが行なった調査[2]の結果です。
日本では「心理的安全性」という言葉について「内容の詳細までよく知っている」「大体の意味を知っている」を合わせると、過半数のリーダー層が「知っている」と回答、うち7割強が「必要」と考えている、ということです。
しかしこれは、意識としては低いのではないかと感じます。
心理的安全性が「必要」と答えた人が挙げた理由としては、
・業務上、情報共有が必要である
・早期にリスクを挙げてもらって大きなトラブルにつながるのを防ぐ
・意見を発言できないとストレスがたまる
・いろいろな意見が出されないと組織をまとめられない
・良い雰囲気づくり
・モチベーションの向上
といったものです。
ほとんどは、至極当たり前のことでもあるでしょう。
そして、チームの成果やメンバーの疲弊度と心理的安全性には相関関係があることもわかっています。
リクルートマネジメントソリューションズの分析結果は、
・「チーム成果・高群」は、「チーム成果・低群」に比べ、心理的安全性が高い特徴を示し、特に、「チームのメンバーは、問題点や困難な論点を提起することができる」「会議をするときは、各メンバーが同じくらい発言している」「チームのメンバーは、他のメンバーの反応に配慮しながら分かりやすく話をしている」という点に顕著な差が見られた
・メンバーの心身疲労と心理的安全性との関係としては、「疲弊・少群」は「疲弊・多群」に比べ、「チームのメンバーは、異質な人を拒絶することがある」「チームのメンバーが他のメンバーに助けを求めるのは難しい」という点が低かった
ということです。
また、「成果・高群」「疲弊・少群」では、実際にマネジメントによる「話しやすい環境づくり」の工夫もされています。
この工夫によって、近年の課題である「組織への帰属意識」も醸成されやすいのではないでしょうか。
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「心理的安全性」確保のもう一つの効果
そして実は、心理的安全性を構築することのメリットが、もう一つあります。
メンタルヘルス管理の一環にもなるというものですモチベーションを上げる環境づくりはもちろん大切ですが、同時にメンタルの管理もマネジメントの仕事です。
どれだけ元気なチームを作ったからと言っても、個人のメンタリティは様々です。
例えば、個人的に体調がいまいちだったり、他人からはわからないが個人として落ち込むような出来事があった時、「頑張れ」と言われるとなおさら辛くなることもあるでしょう。
一般論として、うつ状態にある人に対して、「頑張れ」という声かけは逆効果だと言われます。
「十分頑張った結果としてこんなに苦しんでいるのに、これ以上何を頑張れば良いのか?」
と絶望感を与えてしまうためです。
体調を崩したり、落ち込むような出来事があったりするのは確かに個人的な事情ではありますが、それを個人で解決せよ、と突き放さずに済むのも「心理的安全性」の高いチームを作るメリットです。
マネジメントが全てをフォローしなくても、メンバー同士でのサポートができるのが「心理的安全性」の高いチームだからです。
ネガティブなことであっても、ちゃんと打ち明けられるメリットはここにもあります。
「今自分は体調が悪い」「ちょっと落ち込むことがあって、仕事に集中できないかもしれない」とチーム内ではっきり言えて、周囲もそれを「気にしないで、困ったら助けるよ」と自然に声をかけられる、そんな環境があったらどれだけ救われることでしょうか。
もっと言えば、そのような状態にある社員が気兼ねなく早退できたり、少しぼーっとしているような時間があっても理解してもらえるとなると、自分が復調した時の周囲への感謝から、モチベーションは上がるでしょう。
「ものを言いづらい」「空気」のせいで黙り込んでしまい、すでに絞りきってしまった気力を「出せ」と言う職場ではますます心を閉ざしてしまい、自分を理解されていないと感じさせます。これではいけません。
「職場のストレス」の大半は人間関係でしょうから、根本的な改善は必要なのです。
また、心理的安全性の高いチームは、ダイバーシティへの順応も早いでしょう。
ダイバーシティがイノベーションを生むこともある時代です。「違い」は成長の機会なのです。
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土台のない組織に成長はない
先のリクルートの調査では、心理的安全性は「必要ない」と考える人が挙げる理由は、「ネガティブな感情が出される」「色々な意見が出されると組織がまとまらなくなる」というものでした。
確かにこれを実践しようとするとマネジメントの仕事は増えるでしょう。
また、業種を理由に「必要ない」と言う人もいますが、例えば単純作業の職場であったとしても、心理的安全性の存在がプラスに働くことは間違いありません。
自分の困りごとを伝えやすい、例えばシフトの交代などを気軽に頼める、交代してもらった分は、どこかで恩返しをしたいと考える、そんな職場であれば定着度も高いのではないでしょうか。
現実的には「心理的安全性」が先にありきで、その上にしかモチベーションや責任感、誠実さ、相互信頼は生まれないと言えます。
心理的安全性のない組織への帰属意識など、まず生まれないでしょう。この要素を無視することは、優秀な社員ほど辞めていく土壌を自ら作っているようなものなのです。
心理的安全性を考慮しない、これはひとえにマネジメントの怠慢ではないでしょうか。特に「色々な意見が出されると組織がまとまらなくなる」とは、それを統一するのが自分の仕事だという自覚を持つべきでもあります。
時には役者、ピエロ、そういった役割をマネジメントが果たさなければならないこともあるでしょう。「下の人間を統べる」という一方的な意識では、部下はついてきません。
世はダイバーシティの時代です。「色々な意見が出されるとまとまらなくなる」組織には、成長は見込めないでしょう。
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参照
[1] 「効果的なチームとは何か」を知る(Google “re:Work”サイトより)
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/
[2]「【調査発表】職場での「心理的安全性」に関する実態調査:チーム成果、メンバーの心身疲労との関係性とは」(リクルートマネジメントソリューションズ)
https://www.recruit-ms.co.jp/press/pressrelease/detail/0000000212/