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分厚い本との出会い


「ヒトは認知し、イメージする生き物です」

私が学生だった頃に聞いた、ある教授の一言です。何となく心理学を勉強していた私が、なぜかはもう思い出せませんが、この言葉で本気で心理学を研究しようとスイッチが入ったのです。

その後、心理学に携わる仕事を選択し、紆余曲折を経て識学講師となった今でも、時々この言葉の意味について考えることがあります。

そんな私がおすすめしたい本が、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの大著『サピエンス全史』です。

あるとき、お客様から「これ、読んでみてください」と紹介されました。ドサッという音とともに机に置かれたその本は分厚く、手にすると非常に重たいものでした。

いかにも読む気が失せるような見た目の本ではありますが、私は帰りの電車のなかで、早速読み始めました。私に薦めてくれた方の「いまの人類が生き残れたのは架空の話を語れるからだってことが書いてありますよ」という言葉が気になったからです。

パラパラと読んでみると、「ホモ・サピエンス」とか「虚構」とか「文化」という私の興味をそそる単語が目に入りました。そして、本書には、私が知りたかったことが載っていたのです。

すなわち、ホモ・サピエンスである我々は、イメージするからこそ生き残ったのだと。

ホモ・サピエンスだけが生き残った


本書は、人間の歴史における三つの革命をメインテーマとして取り上げ、解説しています。三つの革命とは、「認知革命」、「農業革命」、「科学革命」です。それらを詳しく知りたい方は、ぜひ手に取ってお読みください。

伝わりやすい文章でつづられる内容は非常に重厚で、歴史の流れのなかで過去や現在を捉えるための原理のようなものを読んだ人に与えてくれる一冊です。歴史について解説しているにもかかわらず、物語として非常に面白いものです。

人類の物語は250万年前から始まり、10万年前には、6種類のヒトの種が存在していましたが、現代まで生き延びた人類種はホモ・サピエンスだけです。長い地球の歴史のなかで、つい最近まで負け組だった人類が、なぜ他の生態系を破壊するほどの影響力を持つようになったのか。本書は、先の三つの革命を通して展開していく物語です。

ホモ・サピエンスが勝利した理由


本書には、虚構について語るという、他のどんな動物も持っていない能力を獲得したことがホモ・サピエンスを特別な存在に押し上げたと書かれています。虚構、すなわち架空の事物ついて語れることで、ホモ・サピエンスである我々は天地創造の物語や近代国家における民主主義のような共通の神話を紡ぎだす力を手に入れました。

この能力が、無数の赤の他人と柔軟に協力することを可能にさせたというのです。まさに、イメージする生き物になれたことが、ホモ・サピエンスの勝利の要因なのです。

それだけでなく、この虚構の発明によって、個人の虚構を他者と共有することができるようになったことから、組織で行動することができるようになりました。大きなマンモスを狩れるのは、強いネアンデルタールではなく組織をつくったホモ・サピエンスだったということです。

リーダーの力と責任


私たちホモ・サピエンスは、虚構の発明によって組織で行動する力を獲得し、他のどんな動物にも勝利できる存在となりました。その能力は、文化や宗教、貨幣など、次々と共通の虚構をつくり出しましたが、勝ち残っていくなかで膨大な数になってしまったホモ・サピエンスの同種内で、異なる虚構を共有する組織が発生していくことになります。そして、それが戦争や生態系の破壊を招き、今ではホモ・サピエンス自体の存続も危ぶまれるような状況を生み出しています。

こうした事態を防ぐために必要な存在がリーダーです。リーダーは、目的実現のために新たな虚構をつくり出し、もともと異なる虚構を持っていた大勢に新たな虚構を共有して率いていくのです。リーダーには、大勢に共通の虚構を共有させる力と、未来への責任があるのです。

虚構のずれを解消して成長する


我々識学講師は、個々人が持つ思考のクセや、それによる認識のずれ、発生する錯覚について解説し、組織運営の原理原則を日々お伝えしています。まさに、本書がいう虚構を、単なる虚構と事実とに分類し、事実の部分を積み重ねることで、「ずれのない虚構」をつくることが我々の仕事だということです。

その仕事は、虚構の発明によって獲得した「組織として動く力」が、虚構のずれによって機能していない状態を修正していく作業となります。戦争や生態系の破壊は別々につくられた虚構同士の争いや、本来目指していた虚構について構成員の認識がずれていったことに起因します。

これは、部署間でいがみ合っている会社や、よかれと思ってやったことが結果的に自分たちを苦しめている会社とよく似ています。そういった会社でも、ルールで虚構を統一したうえで、向かうべき虚構である目標を設定し、全員が勝利できる環境をつくることができれば、信じられない速度で問題が解決し、組織が成長していくはずです。実際、そんな企業を目の当たりにすることはよくあります。

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