聞くところによると、日本を含むアジア北東部の人々は世界の中でも比較的IQが高いと言われているそうです。
しかしこれとは別に、ひとつショッキングな情報があります。
みなさんは、「EQ」という言葉をご存知でしょうか。「感情指数」「心の知能指数」とも呼ばれる指標なのですが、この数値が日本人は世界的に最も低いレベルなのです。[1]
今回はこの件については一旦置いておき、まずはIQとEQの違いについて、またリーダーシップとの関係について述べてみたいと思います。
\ \ 上司が部下のモチベーションを上げようとする行為は誰も得をしません! / /
>>【マンガで学ぶ】本当は誰も得をしないモチベーションマネジメント 無料プレゼント中
<<あわせて読みたい>>
『リーダーシップ』タイプ別6つの種類とそれぞれの特徴を徹底解説!
目次
心の知能指数「EQ」とは?
EQ(Educational Quotient =感情指数)は、「心の知能指数」とも言われるように、「頭のよさ」を表すIQ(Intelligence Quotient =知能指数)に対比して考え出された概念です。
IQが「知能」の発達を表すのに対して、EQは仕事への取り組み姿勢や人間関係への関心の度合いなどを「感情」という視点から評価するものです。
近年では、環境に適応する能力や、仕事に対するモチベーションをコントロールする力などを判断できる基準として、企業の採用や人材育成などの判断材料にもなっています。
<<あわせて読みたい>>
スティーブ・ジョブズのリーダーシップとティム・クックのマネジメント『理想のリーダーシップとは?』
IQを活かすにはEQを高めることが必要
アメリカのビジネス界では、以前は個人の能力の高さが成功への鍵を握っていると考えられていました。そして、その能力を測る指標のひとつとして「修士」や「学士」といった学歴が重要視されていました。
つまり、学歴が高い、すなわちIQが高い人材はビジネスでも成功すると一般的に考えられてきたのです。
しかし、IQが高い人がすべてビジネスで成功しているかというと、実際にはそうではありません。では、成功する人としない人の違いはどこにあるのでしょう。
イェール大学のピーター・サロベイ博士とニューハンプシャー大学のジョン・メイヤー博士は、この疑問に対し、ビジネスパーソンを対象に広範な調査を行ないました。
その結果、「ビジネスで成功した人は、対人関係能力に優れている」ということがわかりました。
自分の感情をコントロールしたり、他者の感情を読み取ることに秀でた人は、社外との関係を良好に維持することができ、社内でも多くの協力者を得られるからです。
これらの研究結果から、サロベイ、メイヤー両博士は「感情をうまく管理し、利用できることは、ひとつの能力である」という結論に至り、EQ理論として提唱したのです。
また、EQとIQは一見対立する概念と思われがちですが、実はそうではなく、むしろ互いに補い合う関係にあります。
たとえば、企画会議などでは楽しい気持ちのほうが多くのアイデアが出るし、細かい数値チェックなどの場合は静かな気持ちの方が生産性向上に繋がることが分かっています。
つまり、置かれた状況とその時々の感情によって、発揮されるIQの度合いには差が出るのです。
IQを十分に発揮するためには、EQによる感情のコントロールが必要であり、もしその状況に合った感情を作り出すことができれば、より良い成果を上げられるでしょう。
<<あわせて読みたい>>
「権限なきリーダーシップ」とは?上司やリーダーも「リーダーシップは仕事である」その意味を知ろう!
ダニエル・ゴールマンのEQリーダーシップ
ビジネスで成功するには、IQだけでなくEQを高めることが必要だということはわかりましたが、EQをリーダーシップに活かすにはどうすればよいのでしょう。
アメリカの心理学者であるダニエル・ゴールマンは、著書の中でEQとリーダーシップの関連性を次のように表しています。
<<あわせて読みたい>>
メタバースとは?メタバースの語源や意味、具体例をわかりやすく解説!
DXとは?デジタルトランスフォーメーションの意味や定義をわかりやすく解説
「雰囲気づくり」はリーダーの一番大切な仕事
ゴールマンは、優れたリーダーシップとは、「人の心を動かし、最高の力を引き出すこと」であると述べています。
そのためには感情のレベルで働きかけ、チーム全員の感情を正しく方向づけることが必要です。
良くも悪くもリーダーというものは、メンバーの感情を左右する最大の力を持っています。
チームの感情を熱意の方向へ導くことができれば業績は上がり、反対に憎悪や不安の方向へ向かわせてしまえば足並みは乱れます。
また、職場の雰囲気は、感情ほど強烈なインパクトはありませんが、継続時間が長く、仕事への影響は看過できないものがあります。
職場の雰囲気に最も影響を与えるのは、リーダーの感情です。
リーダーがある事象に対して示した反応に、メンバーの行動は影響を受け易く、それがチーム全体の雰囲気を作り出していきます。つまり、リーダーの感情はチームに伝染するのです。
明るい雰囲気のもとでは、人は高い能力を発揮します。気分がいいと頭の回転が速くなり、情報の理解力が上がり、考え方も柔軟になります。
ただし、楽しくて楽観的な雰囲気ばかりが良いとは限りません。
リーダーが軽い懸念を表せば、それは何かもっと注意を払うべき事柄があるという信号を送ることになり、真剣な雰囲気を作り出すこともできます。事実、楽観的過ぎる雰囲気は危険の見落としにつながる可能性もあります。
そして、慢性的な怒り、不安、無力感といった負の感情は、チームの雰囲気を大いに混乱させてしまいます。
不安や心配が適度なレベルを超えると、「考える知性」だけでなく「感じる知性」も阻害されるのです。このような悪い雰囲気をまき散らすリーダーは、職場のためになりません。
リーダーがいかに自分自身の雰囲気をコントロールし、周囲の雰囲気を方向付けるかは、単にリーダーの個人的な問題ではなく、チーム全体の業績に関わる重要な要素なのです。
<<あわせて読みたい>>
「胆識」とは?これからのリーダーにとって大切な実行力について徹底解説!
EQリーダーになるには?
それでは、どのようにすれば自分自身と周囲の感情をコントロールし、チームを良い状況に導いていけるのでしょう。
ゴールマンの研究では、 EQは持って生まれた能力ではなく、学習によって習得することが可能であるとしています。その上で、EQの領域を「自己認識」「自己管理」「社会認識」「人間関係の管理」の4つに分類し、その行動の特性をまとめています。
まずは自分自身の感情をよく知り、管理できるようになること。その上で、組織全体の感情を把握し、人間関係へと段階を進めていくのです。
このような行動を心がけ、リーダーとしてのEQを向上させることにより、チーム全体の雰囲気に良い影響を与え、メンバー全員の力を最大限に引き出すことができるでしょう。
それでは、ゴールマンのまとめた4つの領域と18項目の行動特性を紹介します。
自己認識
・感情の自己認識
感情の自己認識に優れたリーダーは、自分の内なる信号を受け止める感度が良く、自分の気持ちが仕事上のパフォーマンスにどう影響するかを認識できます。
・正確な自己評価
自己認識に優れたリーダーは、自分の強さと限界をわきまえています。改善すべきところは潔く学び、助けを求める場面や集中すべき対象を知っています。
・自信
自分の能力を正確に知るリーダーは、長所を活かすことができます。自信があって堂々としており、難しい課題に進んで取り組むことができます。
自己管理
・感情のコントロール
感情のコントロールができるリーダーは、不穏な感情や衝動を管理でき、さらには有益な方向へ向けなおすことができます。また、困難な状況に置かれても動じません。
・透明性
透明性の高いリーダーは、自分の価値観に対して正直です。自分の心情を隠さず、過失があれば認め、他人の非倫理的行動に対しては看過することなく立ち向かいます。
・順応性
順応性の高いリーダーは、多数の要求を集中力を失わずにさばくことができ、組織が必然的に持つ曖昧さを気にしません。新しい課題に柔軟に対応し、変化に素早く対応します。
・達成意欲
達成意欲の高いリーダーは、自分の中に高い基準を持っており、自らについても部下についても向上することを求めます。常に向上を目指して学習および指導を続けていきます。
・イニシアチブ
イニシアチブが高いリーダーは、チャンスが来るのを待つのではなく、自分からチャンスを作り出すことができます。将来の可能性を広げるためには、慣例を打破する力も備えています。
・楽観
楽観的なリーダーは、逆境を柔軟にかわし、挫折の経験にもチャンスを見出します。他者を肯定的に見て、最良の結果を期待し、将来の変化についても良い結果を信じることができます。
社会認識
・共感
共感能力の高いリーダーは、メンバーが口に出さない感情を感じ取ることができます。相手の話を真剣に聞き、理解することができます。多様な背景を持つ人々とも良好な関係を築くことができます。
・組織感覚力
社会認識の鋭いリーダーは、重要な社会的ネットワークを感知し、力関係を読むことができます。組織の政治力学を把握し、その中の価値観や暗黙のルールを読み取ることができます。
・奉仕
奉仕の能力に優れたリーダーは、顧客との関係を良好に保てるような風土を醸成します。顧客が満足しているか常に注意を払い、必要があれば快く対応します。
人間関係の管理
・鼓舞激励
人心を奮い立たせる能力に優れたリーダーは、ビジョンや共通のミッションを掲げて共鳴と感動を引き起こすことができます。人々に連帯感を与え、職場に活気をもたらします。
・影響力
影響力に優れたリーダーは、様々なレベルの影響力を行使し、聴衆の関心をそらさずに説得力をもって集団に語りかけることができます。
・育成力
他者の才能を啓発する能力に優れたリーダーは、自分が援助する相手に関心を示し、その目標や強み弱みを理解することができます。タイミングよく建設的なフィードバックを与えることができます。
・変革促進
変革促進に優れたリーダーは、変革の必要性を認識し、現状に疑問を呈し、新しい秩序を擁護する能力を持っています。変化を妨げる要素を克服するための現実的な方法を見つける力も持っています。
・紛争処理
紛争処理に優れたリーダーは、当事者全員の主張を引き出し、視点の相違を理解し、共通の理想を見出すことができます。
・チームワークと協調
チームプレーに優れたリーダーは、友好的な協調関係を作り上げ、自分自身も尊重と援助と協調の模範を示します。親密な人間関係を育成するために時間をかけます。
<<あわせて読みたい>>
まとめ EQについて
今回は、IQとEQの特性の違いや、EQの重要性について学んできました。
特にゴールマンの研究から、リーダーシップにおけるEQの役割と、そのための行動についてお分かり頂けたのではないでしょうか。
ポイントは、まず自分を知る事。そして自分の感情をコントロールして効果的な雰囲気作りをすることで、チーム全体のEQを高めていくことができるのですね。
しかし、EQだけを高めていけば、それですべてOKというわけではありません。
仕事のできるリーダーは、IQとEQの両方をうまく活用しています。
EQの高いメンバーは、チームの雰囲気やモチベーションを上げるのは得意ですが、創造力や革新性が低い場合もあります。反対にIQの高いメンバーは、卓越した知見や革新的な解決策を出せる反面、周囲の理解がないと、職場に溶け込み協力し合う関係を構築することが苦手なこともあります。
ふたつのタイプの知性の違いをよく理解して効果的なリーダーシップを発揮することによって、チームとして望む成果を達成できるようになるのです。
ちなみに、冒頭で紹介したショッキングな情報についてですが、どうやら私たち日本人は他の国の人々に比べて、「自己認識」の領域の評価が低いようです。
つまり、世界基準に比べて「感情に対する自己認識力が弱い」と自己評価をしているという事だそうです。
最初から他人の軸に自分を当てはめるのではなく、まずは自分の内側の声に耳を傾けてみることが必要なのかもしれませんね。
<<あわせて読みたい>>
PM理論とは?SL理論も理解してリーダーシップを向上しよう!
参照
[1]EQデータ分析から見えてきた日本の課題
https://6seconds.co.jp/eq-articles/magazine-180401