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孫正義氏のリーダーシップの10万分の1でも吸収したい「叱り方」と「世界の見方」

日本の一般的なビジネスパーソンに「孫正義氏のリーダーシップを真似てください」とアドバイスしたら、どのように反応するでしょうか。

「偉大すぎて参考にならない」と言うでしょうか。「10兆円を扱う勇気はない」と考えるでしょうか。

確かに、ソフトバンググループの会長兼社長の孫氏は、ソフトバンク・ビジョン・ファンドにおいて10兆円規模の資金を運用していて、しかもそれだけでは足りず「100兆円が必要だ」と言っています。[1]

 

一般のビジネスパーソンが孫氏のリーダーシップを「原液」のまま真似ることは不可能かもしれません。しかし孫氏の思考や言動を10万分の1にまで薄めたらどうでしょうか。なんとか「飲めそう」な気がしませんか。

本稿では孫氏のリーダーシップのうち「叱り方」と「世界の見方」を紹介します。その10万分の1でも吸収できれば、明日からのビジネスが劇的に変わるでしょう。

 

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孫氏の叱り方を学ぶ

孫氏に叱られたことを逸話として語るソフトバンクOBOGは少なくありません。ロボットベンチャー「GROOVE X」の代表取締役、林要氏もその1人です。

林氏はトヨタでスーパーカーの開発に携わり、その後ソフトバンクに移ってコミュニケーションロボット、ペッパーの開発責任者になりました。

ペッパーは、一般消費者向けの本格派ロボットとしてはソニーのアイボに次ぐ成功事例といえるでしょう。いわば日本ロボット史に残る偉業を成し遂げた林氏ですが、その開発途中で孫氏に「激怒」されています[2]。

 

職人がマネジメントとリーダーシップを身につけても足りないもの、とは

林氏はエンジニアで、自分を「職人」と位置付けていました。しかしより大きな仕事を成し遂げるには、マネジメントやリーダーシップのスキルを身につけていかなければなりません。ペッパー開発の責任者を任されたころの林氏は、マネジメントやリーダーシップのスキルが完全には身についていなかったため、開発が思うように進みませんでした。

開発が進まない大きな要因のひとつに、他部署の協力を得られないことがありました。

 

遅々として進まないペッパー開発に業を煮やした孫氏は、役員が居並ぶ会議の席で林氏をこう叱りました。

「情熱が足りないからペッパー・プロジェクトが動かないんだ」

 

一介のプロジェクトリーダーでしかない林氏が、「世界のソン」「10兆円を運用する孫」「トランプ米大統領と何度も面談しているソン」からこれだけ強く、しかも多くの人が見守るなかで叱責されれば、それはパワハラになるかもしれません。

しかしパワハラには、「被害者」がパワハラと感じなければパワハラと認定しづらい、という特徴もあります。

林氏も「思いやりを感じた」ので、孫氏のその叱責はパワハラには該当しないでしょう。

 

さて、ではなぜ多くの人の面前で叱られた林氏は、恨みに思ったり凹んだりしたのではなく感謝したのでしょうか。

 

林氏はこう理解しました。孫氏は、ペッパーの開発リーダーは林であると、役員全員にあらために認識させたのだ、と。

林氏はペッパー開発チームのマネジメントに苦しみ、他部署の協力が得られず困っていました。携帯電話会社のソフトバンクにとって、ロボットづくりの優先度はそれほど高くありませんでした。したがって他部署には、積極的にペッパー開発に協力しようというモチベーションが生まれません。

孫氏はそういった社内の雰囲気を、林氏を叱責することで一変させたのです。つまり「林を怒鳴りつけるくらい、俺はペッパー開発に力を入れているんだ」と役員たちに知らしめたのです。

 

孫氏がいう「情熱」は精神論ではない

林氏の気づきはもうひとつありました。

林氏は、孫氏から「情熱が足りない」と言われたことに猛省します。つまり林氏自身遠慮して、他部署に情熱を持って協力依頼していなかったことに気が付いたのです。

 

林氏はトヨタ時代に、年齢も社歴もキャリアも役職も上の社員や上司たちに熱く語りかけてプロジェクトを推進していました。それがときに軋轢を生みましたが、その熱さこそがプロジェクトを推進するエンジンだったのです。

孫氏に「情熱が足りない」と叱責された林氏は「自分は調整しかしてこなかった」と思うのです。

孫氏の叱責と林氏の猛省が転機となり、ペッパー事業はその後、あの大成功を収めることになります。

 

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孫氏の世界の「遠くを見る」見方を学ぶ

一般のビジネスパーソンが、偉人たちの世界観の広さや築き上げた王国の荘厳さに目を奪われてしまうと、その偉人を真似しようなどと思えなくなります。

それでは偉人から学ぶことができません。

 

そこで偉人の「見方(みかた)」にフォーカスしてみましょう。孫氏は世界やビジネスをどのように「見ている」のでしょうか。

孫氏は「迷ったときこそ、遠くを見る」と述べています。[3]

 

ボーダフォンを買収したときにはiPhoneが見えていた

孫氏はどのように「遠くを見る」のでしょうか。

少し古い話になりますが、孫氏は2006年にボーダフォンジャパンという、当時国内3位だった携帯電話会社(キャリア)を買収し、携帯事業に乗り出します。

当時ボーダフォンは、国内でダントツの3位でした。つまりNTTドコモとKDDIがダントツの1位2位で、ボーダフォンは「独り負け」の状態でした。

そのためボーダフォンを1兆8,000億円で買った孫氏は、投資家たちから「なぜ弱いキャリアなんか買ったんだ」と非難されることになります。[4]

 

しかしそのときの孫氏は、ボーダフォンを見ていたのではなかったのです。孫氏が見ていたのは、アップル社のスティーブ・ジョブズ氏が開発していた、まだ世に出ていないiPhoneでした。

孫氏は、後に世界を変えることになるiPhoneを売る「器」が必要だったからボーダフォンを買ったのです[4]。

そしてこの投資は見事に成功します。当初、日本国内で独占的にiPhoneを販売できたソフトバンクは莫大な利益をあげ、キャリアとしての基盤を築きます。そしてソフトバンクはダントツ3位から3強のひとつにまで急成長しました[3]。

 

孫氏が見る「遠く」とは、将来のことです。このときも孫氏は、ジョブズ氏の開発力の将来性とiPhone構想の将来性を見ていたのです。

それで1兆8,000億円の投資を躊躇なく実行できました。

 

このストーリーだけでも、一般のビジネスパーソンは多くの教訓を吸収できますが、孫氏にとってペッパービジネスや携帯ビジネスは序章にすぎないのかもしれません。

孫氏はさらに「遠く」を見ていますので、その見方もみてみましょう。

 

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スプリントを保持し続けるのはIoTを握るため

百戦錬磨の孫氏ですが、アメリカのキャリア、スプリント社の買収は失敗と言われ、孫氏自身も後悔の言葉を漏らしています。[5]

しかし孫氏はその後、後悔を撤回し、2018年3月に「5年後、10年後のことを考えると、それ(スプリント社を持ち続けること)がより正しいものの考え方だ」と断言します[3]。

それは、再び「遠く」が見えたからです。

 

ARMとOneWebとMONETとのシナジーを最大化する

孫氏はいま、IoT(ネットとモノ)時代を見据えています。IoTとはすべてのモノをネットに接続して、遠隔地から制御や操縦を行う技術のことです。孫氏はIoTこそが次の時代を動かす原動力になると信じています。

孫氏がスプリント社買収を後悔しなくなったのは、スプリント社とARM社とOneWeb社とMONET Technologies社が生み出すシナジー(相乗効果)こそが、IoT覇権を握る鍵になると考えたからです。

 

ARM社とはイギリスの半導体チップ開発の大手で、ソフトバンクが3兆円で買収しました。[6]IoT時代が到来すると、大量の半導体チップが必要になるからです。

 

OneWeb社はアメリカの低軌道衛星通信の会社で、ソフトバンクは同社に1,100億円の投資をしています。[7]低軌道衛星は従来の衛星より地球に近い空間を飛ぶので、速い通信と通信コストの低下を実現できます。消費者からすると、ネット接続が速くなり安くなるわけです。

 

MONET Technologies社は、ソフトバンクとトヨタがつくった会社で、コネクテッドカー(ネットに接続する自動車)など次世代の自動車ビジネスを創造する会社です。[8]

 

孫氏はいま、半導体チップも最新ネット接続もコネクテッドカーも手中に収めていて、これだけあればどのようなIoTでもつくれそうです。

しかしここで重要な問題が持ち上がります。それは、これらを使ってどのようにビジネスにしていくか、という問題です。

 

アメリカ市場で勝ちにいく

IoTでビジネスの果実を取るにはアメリカが最も効率的です。アメリカは世界一の経済大国であり、考え方が日本やヨーロッパに近いからです。また世界最大の消費国のひとつである中国にも、アメリカは影響力を持っています。

つまりアメリカでIoTの覇権を握れば、それは世界のIoTを獲ったようなものです。

 

そこでアメリカのキャリア、スプリント社が重要になります。携帯電話やスマホはネットやIoTと最も相性がよい媒体なので、IoTビジネスを展開するうえでソフトバンクがキャリアを持っていることは大きなアドバンテージになるのです。

 

ここで思い出したいのが、孫氏によるボーダフォンの買収です。孫氏はボーダフォン自体に大きな価値を見出していたわけではありませんでした。iPhoneを売る「器」として必要だったから、「割高」と知りながらボーダフォンをためらうことなく買ったのです。

孫氏には、アメリカのキャリア(スプリント社)ですら、「器」のひとつにすぎないのでしょう。

 

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濃すぎるなら薄めてもよい

孫氏の「叱り方」と「世界とビジネスの見方」を、一般的なビジネスパーソンが自分のリーダーシップに応用するとき、どのようにしたらよいでしょうか。

そのままでは「濃すぎる」ので「薄めて」使いましょう。では、どれくらい薄めたらいいでしょうか。

10万分の1に薄めてみてはいかがでしょうか。

 

孫氏はボーダフォンを1兆8,000億円で購入しました。その10万分の1は1,800万円です。

つまり「1,800万円の投資を躊躇なく実行できるようなビジネスを築き上げよう」と思ってみるのです。

 

1,800万円の投資を考えてみる

例えば、どうしても会社を辞めて起業したいと思ったとき、1,800万円の資金を集めて挑戦するのです。もちろん、無謀な挑戦をしてはいけません。独自に市場調査を行い、β版をリリースしてある程度の確証を得て、10年先の世界と日本と自分の姿を想像し、そのうえで「いま1,800万円の投資をしないと一生後悔する」と思えたとき行動に移すのです、孫氏のように。

 

そして、まだ若い会社員であれば、10年後に1,800万円の投資を躊躇なく行えるビジネスを始めるために、今の仕事に真剣に取り組んでみてはいかがでしょうか。

それこそが「孫氏に学ぶこと」だと思います。

 

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まとめ~肉声を母国語で聴くことができる幸せ

孫氏に関する情報は、書籍も雑誌もネットもニュース番組も取り扱っています。しかも日本人であれば、孫氏の肉声を母国語で理解することができます。

つまり孫氏に容易に学ぶことができる日本人は、それだけビジネス上のアドバンテージを有しているようなものです。

日本のビジネスパーソンが孫氏がつくってくれた道を歩まない理由はないでしょう。

 

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参照
[1]孫氏「10兆の次は100兆」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25210750Y7A221C1X11000/
[2]孫正義氏を激怒させたPepper元開発リーダーが、その叱責に学んだ「仕事でいちばん大切なこと」
https://diamond.jp/articles/-/92279?page=3
[3]【全文】米スプリントとTモバイル“合併交渉停止”の舞台裏 孫正義氏「心の底から晴れやかな気持ち」https://search.sbisec.co.jp/v2/popwin/info/dstock/market_report_kessanlogme_1711079984.pdf
https://finance.logmi.jp/245426
[4]孫正義が初めて明かす「僕は経営の修羅場をこうして生き延びてきた」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56035
[5]「米スプリント、買わなければよかった」と本音漏らした孫正義氏の今
https://biz.news.mynavi.jp/articles/-/693
[6]孫正義が3兆円で買収した「ARM」、その強さの源泉と未来予想図
https://wp.techfactory.itmedia.co.jp/contents/25165
[7]孫正義氏「OneWebで情報通信革命を」12億ドル出資する“宇宙ベンチャー”の未来を語る
https://finance.logmi.jp/186666
[8]孫社長と豊田社長が手を組んだ理由「ドアを開くと必ず孫さんが前にいた」
https://japan.cnet.com/article/35126633/

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