リーダーシップを最大限に発揮するには、1つのスタイルにこだわらず、状況に合わせて様々なスタイルを使い分けることが必要と言われています。
しかし、実際にそれを行うには、リーダーシップのスタイルとその効果についてよく知っておく必要があります。
それでは、リーダーシップのスタイルにはどのようなものがあり、それをどう使い分ければよいか、具体的に考察してみましょう。
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目次
リーダーシップのスタイル
これまでリーダーシップに関しては様々な研究が行われており、リーダーシップのスタイルについてもいくつかの分類方法が提唱されてきました。まずはその中でも代表的な分類方法を2つご紹介します。
クルト・レヴィンの3つのリーダーシップ・スタイル
クルト・レヴィンはドイツ生まれの心理学者で、アメリカに渡ってからは様々な大学での研究が評価され、「社会心理学の父」と呼ばれた人物です。
彼の研究成果によると、リーダーシップは下記の3つのスタイルに分類されます。
専制型リーダーシップ
専制型リーダーシップとは、メンバーの行動全てにリーダーが上から指示を行うスタイルです。
この場合、目標設定からスケジュール管理に至るまで細部にわたりリーダーがコントロールできるため、失敗を最小限にすることができるでしょう。
しかし、メンバーが自分で考えて行動する機会が失われるため、長期間このスタイルを続けると、メンバーの自立心が育たないことが懸念されます。
民主型リーダーシップ
民主型リーダーシップとは、メンバーが自分達で決定できるようにリーダーがサポートするスタイルです。
この場合、リーダーはメンバー間で議論するための場を設け、意思決定がスムーズに行われるよう導きます。組織としての目標にメンバーの意見が取り入れられるため、個々の積極性が高められ、チームに一体感が生まれるでしょう。
しかし、作業計画やスケジュール管理もメンバーに任されるため、短期間で確実に成果を求められる場合にはやや不向きであると言えます。
放任型リーダーシップ
放任型リーダーシップとは、メンバーの行動にリーダーは関与せず、全てを任せるスタイルです。
この場合、メンバーそれぞれが自由な発想で行動できるため、メンバーのスキルが高い場合には個々の能力を最大限に活かすことができるでしょう。
しかし、一般的にはチームとしてのまとまりが得られず、協調性が失われる場合があります。また、自己管理能力の低いメンバーについてはモチベーションの低下や生産性の悪化が起こる可能性があります。
ダニエル・ゴールマンの6つのリーダーシップ・スタイル
ダニエル・ゴールマンは、前述のクルト・レヴィンから約50年ほど後の年代に活躍したアメリカの心理科学者です。1995年に発表されたベストセラー『EQ・こころの知能指数』などの著書でも知られています。
彼の研究においては、リーダーシップを下記の6つのスタイルに分類しています。
- ビジョン型リーダーシップ(Visionary Leadership)
- コーチ型リーダーシップ(Coaching Leadership)
- 関係重視型リーダーシップ(Affiliative Leadership)
- 民主型リーダーシップ(Democratic Leadership)
- ペースセッター型リーダーシップ(Pacesetting Leadership)
- 強制型リーダーシップ(Commanding Leadership)
この分類のしかたについては、同じ心理学の考え方をベースとしていることもあり、クルト・レヴィンの3つの類型と共通する部分があります。50年の歳月を経て、レヴィンの考えをさらに発展させ、細分化したものであると考えられます。
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リーダーシップ・スタイルごとの特徴を知ろう
ゴールマンによると、優れたリーダーはしばしば自分でも意識しないまま、6種類のリーダーシップを使い分けているといいます。
だとすれば、6種類の特性を理解し意識的に使いこなすことによって、リーダーとしての力をを向上させ、チームを成功に導くことが可能なはずです。
では、6つのリーダーシップスタイルの特徴とは、どのようなものか見ていきましょう。[1]
ビジョン型リーダーシップ(Visionary Leadership)
共通の夢に向かってメンバーを動かしていく、最も前向きなスタイルです。
組織としての「ありたい姿」をメンバーに語り、ゴールを示すことはしますが、到達までの方法はメンバーの自主性に任せます。
ビジョン型リーダーシップの長所
共通の夢を追うことで組織への帰属意識が高まります。また、目標達成までの手順はメンバーに委ねられるため、個々の自立心を育成することもできます。ゴールマンは自著の中で、このスタイルによるアプローチが6つのスタイルの中で総合的に見て最も効果的であったと述べています。[2]
ビジョン型リーダーシップの短所
リーダーの示すビジョンがメンバーに支持されない場合は、効果が期待できません。たとえば、現場の状況を理解せずに壮大な理想論を押し付けているように受け取られることもあるため、注意が必要です。
コーチ型リーダーシップ(Coaching Leadership)
リーダーがコーチ的な役割を担い、メンバーの考えや目標を尊重しながら、個々の成長を促すことで組織を成功へ導くスタイルです。この場合、リーダーとメンバーの対話を十分に行うことが重要です。
コーチ型リーダーシップの長所
コーチングにより、メンバーのポテンシャルを最大化することができます。
また、メンバーの夢や目標を仕事に結びつけることで、モチベーションの向上を図ることができます。
コーチ型リーダーシップの短所
個々のメンバーの性格や特徴を深く理解する必要があり、メンバーの数が多いチームではリーダーに負担がかかりすぎる傾向があります。リーダーにとっては、深い洞察力とコミュニケーション能力が求められるため、難易度が高いスタイルと言えます。
また、メンバーの成長を重視しすぎると、直近の目標が達成されにくくなる懸念があります。
関係重視型リーダーシップ(Affiliative Leadership)
メンバーと同じ目線に立ち、信頼を得ることで、チームの人間関係を良好に保つことを優先するスタイルです。仕事を進める上では、人間関係の悪化が大きな障害となることがありますが、そうならないようにするためのスタイルであると言えます。
関係重視型リーダーシップの長所
メンバーのメンタルヘルス改善につながり、組織全体のモラルを高めるのに有効です。また、一旦壊れてしまった信頼関係を修復させ、意思の疎通を改善させたい場合に効果を発揮するでしょう。
関係重視型リーダーシップの短所
メンバーの感情が最優先されるため、組織の目標達成が後回しになる懸念があります。また、リーダーが相手の感情を傷つけまいと対立を避けるあまり、行動が抑制されてしまうことがあります。このスタイルだけではチームを成功へ導くことは困難であり、他のスタイルと併用することが必要です。
民主型リーダーシップ(Democratic Leadership)
組織の意思決定にメンバー個々の意見を反映させ、チーム全体の合意を得た上で仕事を進めるスタイルです。結果よりも、メンバーとの合意というプロセスを重視します。
民主型リーダーシップの長所
メンバーから広く意見を集めることで、実態の把握やアイデアの発掘に効果があります。また、リーダー自身が判断に迷ったり、決断しかねる場合にも有効です。
民主型リーダーシップの短所
チーム内での合意を形成する過程で、議論が長引いたり衝突が発生し、結論が出にくいという懸念があります。また、全体の意見として無難なものが選ばれることが多く、劇的な変革をもたらすことは難しいでしょう。
ペースセッター型リーダーシップ(Pacesetting Leadership)
リーダーが自ら高いレベルの手本を示すことで、メンバーのパフォーマンス向上を図るスタイルです。メンバーに、リーダーが示したものと同様の成果を目指すよう期待することで、組織目標の達成を図ります。
ペースセッター型リーダーシップの長所
実力が重視される職場で、リーダー自身のスキルがメンバーから高い評価を受けている場合に効果があります。優秀なメンバーが揃っており、リーダーのスキルを盗もうと努力できる集団に向いています。
ペースセッター型リーダーシップの短所
メンバーへの期待が高くなり過ぎたり、リーダーの思いやりが欠如すると信頼関係が損なわれます。また、リーダーが何でも一人で行ってしまうと、メンバーの成長が阻害される懸念があります。
強制型リーダーシップ(Commanding Leadership)
レヴィンの「専制型リーダーシップ」と同様に、リーダーが明確な指示を行うことによりメンバーをコントロールし、最短で目的の達成を図るスタイルです。
強制型リーダーシップの長所
危機的状況や災害時など、危険を緊急回避する必要がある場合、有無を言わさず集団を動かす時に効果を発揮します。また、問題のあるメンバーに対して他に打ち手が無い時、一時的に使うと有効な場合があります。
強制型リーダーシップの短所
メンバーが自ら考える必要がない為、自立心の育成が困難です。また、度が過ぎるとメンバーの自尊心を傷つけ、組織の崩壊を招く恐れがあります。
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リーダーシップを使い分けるには
これまで6つのリーダーシップ・スタイルの特徴を見てきましたが、どのスタイルにも長所と短所があり、1つのスタイルを貫き通すだけでは不十分であることがわかりますね。
また、悪く見えるスタイルでも、状況によって一時的に使うことで効果を得ることができることもわかります。
それでは次に、状況に合わせてリーダーシップを使い分ける方法として、「SL理論」をご紹介します。
SL理論とは
SL理論(Situational Leadership)とは、メンバーの成熟度に応じてリーダーシップのスタイルを使い分ける方法です。1977年にP・ハーシーとK・H・ブランチャードによって提唱されました。
この理論では下記4つのリーダーシップ類型が定義されています [3]
S1:教示的リーダーシップ
S2:説得的リーダーシップ
S3:参加的リーダーシップ
S4:委任的リーダーシップ
ここでは、メンバー育成の初期においては指示的行動に重点を置き、中期においては協働的・援助的行動に重点をおくべきであるとされています。
SL理論に基づいたリーダーシップの使い分け
それでは、先述のゴールマンの6つのスタイルをSL理論の4類型に当てはめて、成熟度に応じたリーダーシップ・スタイルの使い分けを考えてみましょう。
S1:教示的リーダーシップ
新入社員など、習熟度の低いメンバーが対象です。
仕事の目的を明確に提示し、手順を詳細に指示しますが、仕事の価値や意義については深く説明しません。
ゴールマンの分類では、強制型リーダーシップで明確に指示を与えるとともに、環境重視型の長所を取り入れてメンバーのメンタルヘルスをケアするスタイルが有効と思われます。
この段階で、ビジョン型やペースセッター方のスタイルを取ろうとしても、メンバーのスキルが不足しており自力でついていくことは困難です。
S2:説得的リーダーシップ
まだ発展途上であるが、意欲は高いメンバーが対象です。
その仕事の価値や意義を伝えた上で、仕事の進め方や方法を明示し、疑問点にはしっかりと答えます。業務指示とコミュニケーションの両方とも必要性が高い段階です。
ゴールマンの分類では、基本的にはコーチ型のスタイルがマッチすると思われます。その上で、個々の習熟度に応じてビジョン型スタイルによる将来像の共有や、強制型スタイルによる明確な指示を取り入れるのが効果的であると思われます。
S3:参加的リーダーシップ
中堅社員など、スキルはあるが意欲が低いメンバーが対象です。
この段階では仕事の意義を理解し、業務遂行のための知識を十分持っているため詳細な指示は必要としません。しかし、何らかの不安要素により自発的行動が取り難い時期でもあるため、懸念事項を話し合い、不安を取り除くなどの関与が必要となります。
ゴールマンの分類では、民主型のスタイルにより、意思決定が必要な局面では共に決定し、責任も共同して負うなどの行動が効果的でしょう。ここで強制型やペースセッター型などのスタイルにより突き放してしまうと、逆効果となる恐れがあります。
S4:委任的リーダーシップ
ベテラン社員など、スキルも意欲も高いメンバーが対象です。
この段階では十分なスキルと経験を持ち合わせているため、リーダーによる細かい業務指示は行いません。また、自発的行動を取ることができ、自己解決能力も高いためコミュニケーションの必要性も低くなります。
ゴールマンの分類では、ビジョン型やペースセッター型のスタイルによって自発的な行動を促し、メンバーの可能性を最大限に引き出すことができる段階です。
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まとめ リーダーシップ・スタイルを使分けよう!
今回は、ダニエル・ゴールマンの6つのリーダーシップ・スタイルを使い分ける方法について、SL理論に基づくメンバーの習熟度を基準にして考察してみました。
他にも、メンバーの性格や、組織のありたい姿によって求められるリーダー像は変化するため、どんな場面でどのリーダーシップ・スタイルが必要か、日頃から意識しておきましょう。
参照
[1]リーダーシップのスタイル byダニエル・ゴールマン
https://www.spod.ehime-u.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2015/02/%E8%B3%87%E6%96%99%EF%BC%92%E3%80%90PDF%E3%80%917.pdf
[2]『EQリーダーシップ』ダニエル・ゴールマン他 著 第四章 P82 ビジョンの共有が共鳴を生む
[3] SL理論(Situational Leadership Theory)
https://leadershipinsight.jp/explandict/sl%e7%90%86%e8%ab%96%e3%80%80situational-leadership-theory