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「アサーティブネス」だけではコミュニケーションが苦手な人の問題が解決しない理由とは?

コミュニケーションが苦手という人は多い。本屋にもコミュニケーション能力の向上を謳う本は多いが、そのなかで一つ、「アサーティブネス(自己主張すること)」を扱う本が増えてきた。

「アサーティブネス(自己主張すること)」は大切だ。

だが、筆者の個人的体験では、それだけでは不十分であると考えている。なぜなら、コミュニケーションとは、自分の主張や説得するだけではなく、相手の主張を聞き、それに対してしっかりと返答する必要があるからだ。

私自身の経験を踏まえて、少しお話をしていきたい。

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コミュニケーションについての苦い経験

コミュニケーションについての苦い経験

実は私自身も、コミュニケーションが苦手だ。コンプレックスがあると言っても良い。

そんな私だが、自己主張を文化とすると言って良いだろう。イギリスやカナダ、その文化圏であるオーストラリアに留学したことがある。

 

しかし最初の留学先カナダでは、コンプレックスが災いしカナダ人と話すことすらできない始末。これではダメだと一念発起し、次の留学先オーストラリアでは、指導教官と良いコミュニケーションをとることができた。

しかし最後の留学先イギリスでは再び、うまくいかない。

自己主張をしっかりとしてみるのだが、何かが違う。

結局イギリス留学は、満足のいくものとならなかった。

このことをきっかけにして、「アサーティブネス」というコミュニケーションについて、深く考えるきっかけをもらった。

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「アサーティブネス」は決してマジックワードではない

「アサーティブネス」は決してマジックワードではない

アン・ディクソン氏が執筆した『働く女性のためのアサーティブ・コミュニケーション』という本がある。コミュニケーションが苦手な女性向けに書かれた本だ。そのなかに、「アサーティブネス」の定義が与えられている。[1]

 

「アサーティブネス」、つまり自分も相手も尊重しながら自己主張する方法

 

「アサーティブネス」の強調点は話すことだ。攻撃的にではなく、相手を尊重しながらしっかりと主張すれば、円滑にコミュニケーションできるというのだ。

 

執筆の背景には、1980年前後のヨーロッパの事情がある。[2]与えられた職場環境で、なかなか自分の考えることを積極的に主張できず躊躇する女性が多かったのだ。そのため、女性が職場で活躍できるのが阻害されている、と同著で説明されている。

 

このような状況を打破するため、コミュニケーションが苦手な女性に向けて、ディクソン氏が指南した方法がある。それが「アサーティブ・コミュニケーション」だった。

 

ディクソン氏の本は主に女性をターゲットにしたものだが、「アサーティブ・コミュニケーション」自体はより汎用的な方法だ。対話が苦手なビジネスパーソンが置かれる状況はまさに、ディクソン氏が本を出版した当時の、女性が職場で活躍しにくかった状況と似ている。上司に対し思い切った主張をすれば、マイナスの感情を抱かれるのではないか、あるいは仕事から干されてしまうのではないか、と対話を躊躇するビジネスパーソンは、まさに同じような状況下にいる。同僚に嫌われたくないという人もまた、似た悩みをもつだろう。

 

そういう人に対し、相手の批判をかわしたり、怒りをコントロールするといった「アサーティブネス」の実践を勧めるのは、効果的だと思う人がいるかもしれない。だからこそ「アサーティブ・コミュニケーション」を題材とした本が、日本でも多く出版されているのだろう。

 

しかし、「アサーティブネス」は対話が苦手な人を助けてくれるマジックワードでは決してない。私が留学中に、まさに「アサーティブ・コミュニケーション」を実践していたが、イギリスでは指導教官と円滑にコミュニケーションを図ることができなかった。

 

では円滑にコミュニケーションを行なうために、「アサーティブネス」は不要なのだろうか。

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「アサーティブネス」が見落とす点

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「アサーティブネス」は、円滑なコミュニケーションを行なうための必要条件の1つであることに変わりはない。ただし「アサーティブネス」以外にも、円滑なコミュニケーションに必要な条件がある。

 

相手の話を聞き適切に伝えなおす

ビジネスにおけるコミュニケーションでは、相手との意見の相違が出ることが避けられない。私の留学時の話に戻すと、研究指導という関係で教授と付き合いをもつ。指導という関係のもとで、論文を完成させるという目的に向かう。いい加減な理解では、クオリティの高い論文など書けない。

 

はっきりと主張したとしても伝わらないのは、単に英語がまずいからだけではない。莫大な知識と、研究方法、指導の方法などの蓄積が、指導教官の頭のなかにある。ところが、この経験が逆に私の主張を理解することの妨げになりうる。研究論文とは、これまで誰も考えてこなかったアイディアを披露し、それを証明する場なのだから、すぐさま相手に主張が伝わるとは限らない。

 

つまり、「アサーティブネス」以上に強調されるべき点があるのだ。それが「聞く」行為だ。

 

『アクティブ・ラーニングで身につけるコミュニケーション力』には、3種類の「きく」が紹介されている。[3]音を無差別に「聞く」、音楽鑑賞のように心で考えながら「聴く」、そして相手が言わないことを言葉を使って「訊く」の3つだ。

 

このうち「聴く」と「訊く」の2つが、円滑なコミュニケーションに重要だ。私の場合、初めて私の意見を聞く相手にでも理解できるように自分の主張を伝えきれていなかった。だからこそ、相手の反応を考えながら聴き、ときには相手から理解が十分でなかった点を「訊き」出す必要があった。そのうえで、再び相手が理解できるように主張を「伝え」たり、相手の疑問点に答えるべきだった。

 

外国語だから円滑にコミュニケーションを実践できなかったのでは、と疑問に思う方もいるかもしれない。しかし日本語でも同じだ。むしろ外国語でやりとりしていたからこそ、コミュニケーションの難しさを私は痛切に感じることができた。

 

対話が簡単でないのは、コミュニケーションする相手が自分とは異なる性格をもち、バックグラウンドを持つからではないだろうか。

 

私の場合は、使用言語の違い、研究のバックグラウンドや経験の違いが逆にコミュニケーションの障害となっていた。いきなり私が主張したところで、理解されるとは限らない。むしろ相手に自分の主張が理解されていない状況を出発点として、話をさらに展開させるべきなのだ。

 

相手を説得することがコミュニケーションではない

私がそう実感できたのは、次の本との出会いによる。『ていねいなのに伝わらない「話せばわかる」症候群』のなかで、という対談集がある。元外交官の北川達夫氏と、劇作家の平田オリザ氏が、コミュニケーションのあり方について論じている。[4]

 

北川氏は次のように述べている。

 

「ヨーロッパ型の教育に出会って、面白いと思ったのは、「個性」といったときに、「ほんとうに個性的なものは、極めて個人的なもので、他人には理解不能なものである」と考えるところでした。

『ていねいなのに伝わらない「話せばわかる」症候群』 北川達夫

 

アサーティブネスはもちろん重要だ。しかし、対話してもわかりえない部分が必ず残る。思い当たる体験を私は記憶している。海外の研究会に参加したときのこと。発表者と質問者がどれだけディスカッションしても、意見は平行線のまま。発表者は淡々と自分のスタンスから、論理的に説明するだけだ。質問者は、こうまとめた。

 

「あなたの意見に説得 (persuaded)させられてはいないが、納得(convinced)はした」。

 

つまり私はあなたと同じ考え方をしないが、あなたのロジックは理解した、と質問者は述べていたのだ。北川氏の本を読んだときに、自分の留学時の体験を理解できた。つまり、同意できない部分があったとしても、それを事実として受け止める必要があったのだ。

 

もちろんコミュニケーションの際に、相手の意見に対し適切に返答することもまた重要だ。北川氏は、こうも述べている。

 

優れた外交官というのは、極めて日本的な論理を外国人が納得するように伝えることのできる人間なんですよ。

 

つまり、相手の意見をしっかりと聞き、それを踏まえて、意見をアップデートさせる必要がある。相手と自分とのスタンスが違う可能性も、忘れてはいけない。だからこそ、相手の主張をしっかり聞くことも必要になる。そのうえで、きちんと相手が理解できるように伝えるべきだ。

 

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まとめ 相手の主張をしっかりと聞き、それを受け止めて返答しよう

まとめ 相手の主張をしっかりと聞き、それを受け止めて返答しよう

コミュニケーションにアサーティブネスが必要なのは、もっともだ。しかしそのこと以上に強調されるべきなのは、コミュニケーション相手と自分とは違うパーソナリティをもった人間だということだ。だからこそ、相手の主張をしっかりと聞き、それを受け止めて返答する必要がある。それで相手の主張に同意できなくとも、その状況を事実として受け止めることが大事だ。

 

外国語でコミュニケーションを実践する経験をつうじて、北川氏の主張の真意を実感できた。コミュニケーションの大前提として、頭にとどめてほしい。

 

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参照

[1] 『働く女性のためのアサーティブ・コミュニケーション』 アン・ディクソン 著
[2] 同上、16頁。
[3] 『アクティブ・ラーニングで身につけるコミュニケーション力』
[4] 『ていねいなのに伝わらない「話せばわかる」症候群』 北川達夫、平田オリザ 著

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