クラッシャー上司とは、部下をつぶしてしまう管理職のことです。
パワーハラスメントの一種ですが、クラッシャー上司には「仕事ができる」「業績がある」などの特徴があるため会社としても対処に困ります。
また、社長など会社の上層部は、クラッシャー上司(社長たちからみると部下)を嫌いではありません。なぜならクラッシャー上司は会社を愛し長時間残業を気にせず働いてくれるからです。
しかし、クラッシャー上司の標的となった部下たちは多大な被害を受けます。うつ病などの心の病を引き起こす点は、パワハラ問題と同じです。
では、クラッシャー上司の部下になってしまったら、どうしたらいいのでしょうか。
また、会社や人事部は、クラッシャー上司をどのように取り扱ったらいいのでしょうか。
本記事では、クラッシャー上司について解説するとともに、その対処法について説明していきます。
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目次
クラッシャー上司とは
クラッシャー上司はパワハラ行為を目的にしていないという特徴があります。通常のパワハラ上司は、自分のストレス解消のために部下をいじめたり、元々の悪い性格のために他人に迷惑をかけたりしますが、クラッシャー上司にとってのパワハラ行為は仕事を円滑に進めるための手段なのです。しかもクラッシャー上司から厳しい指導を受けた部下は「生き残ることができれば」優秀なビジネスパーソンになるかもしれません。
しかしその厳しさは尋常の領域に収まらず、クラッシャー上司がやっていることは、外見上は歴然としたパワハラです。
クラッシャー上司の問題行動は以下のとおりです。
- 尋常ではない叱り方をする
- 標的を決めたら集中的に攻撃する
- 部下に無理難題をふっかける
- 標的にした社員を、人格を含め全否定する
- 部下を精神的に追い詰める
このようなことが3カ月も続いたら、部下は心の病気を発症することでしょう。
クラッシャー上司の事例
クラッシャー上司の具体的な事例を紹介します。
Aさん(29歳)は大手企業の入社7年目の広報担当でした。人事異動で広報室長が交代したことで悲劇が始まりました。広報室は室長と担当者1名の2人職場でした。
新広報室長のB氏は営業部や総務部を転々としてきた人物で、各部署で優秀な成績を収めてはいましたが、数人の部下を潰しています。
一方のAさんは人当たりがよく愛想がいいのですが、仕事は決して早い方ではありませんでした。
B氏は赴任した翌日にはもうAさんを怒鳴りつけていました。その日の午前中、B氏はAさんに「すべての業務を説明するように」と指示しました。Aさんは途中休憩を挟みながら3時間にわたって「わが社の広報体制」を説明しました。B氏は午前中は黙って聞いていたのですが、ランチから戻り午後1時になったとき、「すべてやり方を変えるから」とAさんに宣言しました。
そこからB氏はAさんを質問攻めにしました。自社のすべての製品名、製品ごとの特性、主な顧客の特徴、自社製品が関わる法、会社の中長期計画の概要、課長以上の管理職・経営者のフルネームと学歴、会社の沿革など、事細かに聞いていきました。
Aさんはほとんどの質問に対しうろ覚えの答えしか出せませんでした。B氏がAさんを初めて怒鳴りつけたのはこのときでした。
「広報担当者が自社のことを知らないで、お客様に広報できるわけないだろう」
その怒号はフロア中に響き渡りました。そのフロアには広報室のほか、総務部、経理部、人事部がありました。フロアの全員が広報室の2人をみましたが、B氏は気にしません。
「しばらく仕事しなくていいから、会社のことを調べろ」と続けて怒鳴りました。
その2日後です。Aさんが会社のパンフレットや社史、製品説明書などを熟読していると、B氏は「お前は昨日からなにやってんだ」と怒鳴りました。
Aさんはおびえて答えることができませんが、もちろんB氏の指示とおり会社について調べていたのです。
これをきっかけにして、B氏の説教となじりが始まりました。
B氏は万事この調子でした。
B氏はAさんに指示を出しますが、2、3日経つと指示とおりに仕事をしているAさんを全否定して怒鳴ります。そしてまったく別の仕事をいいつけるのですが、Aさんは萎縮して仕事がはかどりません。するとまた2日後にB氏はAさんに仕事が遅いと怒鳴ります。そしてB氏は「じゃあ、この簡単な仕事をやれ」と別の仕事をふります。Aさんが新しい仕事にとりかかると、「そういえば、この間頼んでおいた資料はどうなった」と、過去に発注した仕事の成果を求めます。Aさんが途中経過を示すと、また「仕事が遅い」と怒鳴ります。
総務部も人事部もB氏のクラッシャーぶりを目の当たりにしているのですが、
・B氏は正しい仕事の指示をしている(言い方に問題はあるが)
・Aさんの仕事は確かに遅い
・B氏は社長や他部署の管理職に信頼されている(B氏の攻撃を受けたくない)
といった心理が働き、Aさんを救済する人は現れませんでした。
部下なしでもバリバリ働いて成果を出す
しかしB氏の広報室長着任から3カ月後、Aさんは無断欠勤をするようになりました。Aさんは退職を考えましたが、幸いにも人事部長が動いてくれて、Aさんは営業部に異動することができました。営業部は別のフロアにあるので、もうB氏と顔を合わせることはなくなります。
B氏は部下がいない「1人広報室」を担うことになりました。B氏はそれを意に返すことなく、仕事に邁進します。そして経済紙から、会社の製品を紙面で紹介させてほしいというオファーを獲得したのです。
マスコミから好意的な取材を受けることは、広報室の最大の成果です。それをB氏は初めての広報業務にもかかわらず、難なくなし遂げたのです。
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クラッシャー上司から身を守る方法
もし自分がクラッシャー上司の部下になり、その標的になってしまったらどうしたらいいでしょうか。
ここでは3つの方法を紹介します。
人事部に相談する
クラッシャー上司の標的になった人は、1日も早く人事部に相談に行きましょう。人事部は意外に社員の本性を知りません。会社の規模が多きなるほど、人事部の目が行き届かなくなります。人事部による人事評価は、管理職からあがってくる人事評価表と、社員の自己評価表で行われます。いずれも書類です。書類には本性は書かれません。
クラッシャー上司の被害者は「この課長はあれだけ大暴れしているのだから会社が把握していないわけがない」と考えると思います。しかし人事部のほうで「部下をきつく叱るのはあの人のキャラクターだから」ととらえて、問題視していないことが多いのです。
しかしどの会社でもいまの人事部は、パワハラ問題に敏感になっています。そのため、上司の問題行動を人事部に報告すれば、口頭注意や懲戒、降格などにつながるはずです。
社内にパワハラ相談窓口があれば積極的に活用しましょう。
ストレス耐性を高める(ただ我慢しすぎないように)
実は、クラッシャー上司を慕う部下や若い社員はいます。なぜその人たちはクラッシャー上司のパワハラに平気なのでしょうか。
それはストレス耐性が高いからです。
ストレス耐性とは、ストレスに耐えうる力のことです。ストレス耐性が高い人は、上司から暴言を浴びせられてもあまり気になりません。
よって、クラッシャー上司に出会ってしまったら、ストレス耐性を高めることで「平気」になる可能性はあります。
しかし、誰でもストレス耐性を獲得できるわけではない点に注意してください。心の病は、自分のストレス耐性の度合いより強いストレスを受け続けたときに発症します。
「ストレス耐性を高めてクラッシャー上司の攻撃を我慢しようを思ったけど、やはり難しい」と感じたら人事部に相談しましょう。
ストレス耐性が低くても、実績を残している人はたくさんいます。無理やりストレスに抗おうとする必要はありません。
レジリエンスを高める
最近、人事・労務の話題のなかで「レジリエンス」という言葉をみかけるようになりました。これは「自己治癒力や自己免疫力を高めましょう」という考え方です。先ほど紹介した、ストレス耐性とも関係する話です。
パワハラへのバッシングが強化された結果、上司の通常の注意や当然の叱責もパワハラ認定されるようになってしまいました。それで、「若手社員も自分を鍛えよう」「レジリエンスを身につけよう」という考えが生まれてきたのです。
部下や若手社員側もレジリエンスを高めて、やりすごす力を身に着けることは決して悪いことではないでしょう。パワハラ上司の攻撃は人事部が守ってくれることもありますが、クライアント企業の横暴な担当者には自分で対処するしかありません。レジリエンスはビジネスシーンでも役に立ちます。
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会社がクラッシャー上司を放置しないほうがよい3つの理由
社長たち経営幹部や人事部長などがクラッシャー上司を認定したら、放置しないほうがいいでしょう。なぜなら、クラッシャー上司は管理職の仕事を果たしていないからです。
会社がクラッシャー上司対策に乗り出したほうがよい3つの理由を紹介します。
すぐに人材難になる
クラッシャー上司は優秀な部下はかわいがりますが、中程度以下の部下を育てるつもりはありません。しかしすべての社員が優秀な会社はありません。企業の競争力は、中程度以下の社員の力をどのように伸ばすかにかかっているといっても過言ではありません。
ところがクラッシャー上司は、そのような大事な人材を潰してしまうのですから、会社に損をもたらしているのです。
また社会全体がパワハラに過敏になっているいま、クラッシャー上司を放置することは会社の評判に関わってきます。
クラッシャー上司を放置する会社は、優秀な人材が集まらないでしょう。
人事制度が傾く
クラッシャー上司をみつけても、人事異動で「お茶を濁す」会社は、人事制度が傾きかねません。クラッシャー上司は異動先でも迷惑をかけるでしょう。つまり人事異動は問題の先送りにすぎません。人事異動をするなら、左遷の要素を加味したほうがいいでしょう。
人材を潰すという「会社の損失」を生み出しているクラッシャー上司に甘い対応をすると、そのほかの社員が会社の裁定を信頼しないようになります。
人事制度はフェアネスが命ですので、クラッシャー上司には、人材潰しをしないよう毅然と注意しましょう。
売上が落ちる
会社がクラッシャー上司を甘やかすのは、彼(または彼女)が実績を残しているからでしょう。社長や人事部長たちが、クラッシャー上司を罰して辞められでもしたら困ると考えてしまうと、彼(または彼女)はますますパワハラに磨きをかけるでしょう。
しかし、会社はチームワークで動いています。クラッシャー上司はの力で一時的に売上高が増えたとしても、チームのメンバーが育たないので中長期的には売上は鈍化します。
例えば、プロジェクトチームにクラッシャー上司がいると、スタッフは彼(または彼女)の顔色をうかがうようになり、自律した動きが取れなくなります。若い社員に「どうせ何をやっても叱られるんだから、叱られてから仕事を始めよう」といった考えが広がると、会社のパフォーマンスは落ちます。そのチームワークを崩すので、企業の売上高も長期的には落ち込むことになるでしょう。
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まとめ クラッシャー上司のパワハラ監視を
ただクラッシャー上司は、仕事ができるうえに会社への忠誠心が強いので、退職させる必要はありません。彼(または彼女)専用の仕事と役職を与えてあげればいいのです。つまり、一匹狼で活躍できる場をつくってあげればいいのです。
そうすれば、会社は貴重な戦力を失わずに済みますし、部下はのびのび働くことができますし、クラッシャー上司は強みを生かせるので、3者がWin=Win=Winの関係を築くことができます。人手不足が深刻化している日本において、クラッシャー上司を野放しにしているような会社は生き残れないでしょう。企業もそれに気づいていて、パワハラ監視に力を入れ始めています。
多くの会社が、若手社員の心のケアに乗り出しています。もし自分の上司がクラッシャー上司だったら、すぐに会社に救済を求めましょう。労働基準監督署のパワハラ相談窓口を活用するのもよいでしょう。
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