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「社外留職」「社内複業」がもたらす働き方改革?~イノベーション人財育成

「社外留職」「社内複業」も普段では聞きなれない言葉です。これらがキーワードとして注目されているのは「働き方改革」の推進と大手企業のパナソニックでの試行がニュースになったおかげでしょう。

どちらも仕事のスタイルの見直しだけでなく企業システムの見直し、人材育成プログラムにまで踏み込んで検討されていることは見逃せません。

このコラムでは、「社外留職」「社内複業」とは何かを、企業活動のイノベーションの視点から整理・解説します。日本でも古くから言葉は違えども同様の人材教育の手法は存在しました。
「社外留職」「社内複業」は経営課題のテーマですが社会心理学の観点からも考えます。

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古くて新しい「社外留職」に「社内複業」

「留職」は、もともとは「留学」からの派生語で学生や社会人が海外で勉強したり研究したりするのと同じように、企業人が社外で職に就いて個人や組織の知見を広めることです。国内企業はもとより海外企業への「留職」は経験の幅もコミュニケーション能力も広がり、大きな成果を生み出します。

現代は単なるグローバル社会への対応ではなくグローカル(glocal:グローバル(global)とローカル(local)からの造語)な視点で、自社や自分の仕事を見なおす時代です。ドラッカーも”Think Globally, Act Locally”とグローバル化の視点を指摘しています。

大学卒業時に英語の点数でTOEIC800点・900点を取得していても、海外で商談ができるかどうかは全く別物です。そもそも日本語ですら商談がまともにできないビジネスパーソンが英語で商談ができるはずがないわけです。そのくらいのことは、わかりそうなものなのですが、語学力のみで海外営業を命じる企業はまだまだ多いのが実態です。

プレゼンテーションなどもそうです。日本の大学でPower PointやKeynoteでスライドの作り方を学んでも、プレゼンテーションのロジックや注目点が実践に則していなければ役に立ちません。
欧米のビジネスプレゼンテーションが、結論-理由の二段階論法で構成されているのは、英語をはじめとしたヨーロッパの言語が主語+述語(S+V)で、できているためです。その社会的背景の理解もしながらコミュケーションには臨まなくてはなりません。

「複業」も副業ではなく、社内の別のミッションを持った部署で働く「パラレルワーク」が注目されています。「サイドビジネス」ではない複業が徐々に認知されはじめているのも、社会の価値観の大きな変化です。
日本では教育過程で「二兎追うものは一頭も得ず」の教えが強く、物事に集中して取り組むように育てられてきたことが倫理的にはあります。

社会制度をみても、税金がアメリカのような個人申告が基本の国と、企業が源泉徴収する日本の納税方法が違うのにも要因があります。マイナンバー制度の導入などの社会システムの変化も影響があると言えます。
「社内複業」によって、人材価値の見直しと組織にとっては、社内異動の際のリスク回避と言う「一石二鳥」のメリットがあります。

このような、「社外留職」や「社内複業」は実は日本では古くからあった職業訓練方法でした。江戸時代の「丁稚奉公」も、貧しい家だけではなく大店(おおだな)の商家から修行のために「丁稚奉公」させられることはよくありました。

江戸時代は武士を除けばほとんどが農民で、農業も専業農家の単作ではなく、多作・多品目栽培の兼業農家です。種蒔きや田植え、収穫時期以外の農閑期には別の仕事をしていました。まさに複業がスタンダードでした。
複業も社内で意思決定手法が違う部署で働くことの意味は特に大きなものがあります。

会社内でも技術系(研究職等)と法務系(監査室等)と経営系(営業やマーケティング等)では、判断規範が微妙に違います。

例えば、お酒について技術系は「C2H5OH」ですが、法務系は「20歳未満は飲酒禁止」、経営系は「商談の潤滑剤」となります。
このような価値観の違いや、それに基づく同調行動を体験することには大きな意味があります。

パナソニックでの試行

パナソニックが「働き方改革」のひとつとして、さまざまな価値観や能力を持った人材育成のために試行をはじめています。今までの会社の命令の出向とはちがった、社員の申請によって会社の定めた期間(1か月以上1年以内)、海外や他の会社で働ける新しい制度です。社員が企業文化や価値観の違う他の組織で働くことで、自己啓発してもらいたいという「社外留職」の制度です。

また、社員の申請に応じて現業を続けながら今の仕事と直接は関係のない、社内の別部署でも働けるという「社内複業」と呼ばれる制度も今年から試験的にはじめられています。
対象は入社4年目以上で現在の業務を1年以上担当している社員です。
試行にあたって、組織診断や社員ヒアリングにより、その会社の業務経験しかない社員よりも、中途入社した社員のほうが客観的な視点からさまざまなアイディアや参考になる意見を多く持っている、という事がわっかた結果からです。

パナソニックでは、このような新たな制度の導入で、社員の価値観や能力の幅を広げ自己啓発につなげたいとしています。同社では既に2012年にベトナムの現地NGOへ「留職」の実績も持っています。薪の代わりにソーラークッカーを普及させるプロジェクトの成功で、ベトナム社会から多くの感謝も受けています。留職社員は帰国後に「ベトナムのダナンに、パナソニックの創業期の景色が見えた気がするんです」(パナソニック株式会社 スペース&メディア創造研究所 山本尚明氏)という感想を残しています。

「個」の力を最大限にひきだす自己実現欲求を考える

イノベーションを起こすのは人間だけです。AIでもビッグデータでもありません。

イノベーションとは、ラテン語の”innovatus”(リニューアルされたもの)からきており、経営学上ではオーストリア出身の経済学者であるヨーゼフ・シュンペーターによって定義されたものです。

OECD(経済協力開発機構)では(1)プロダクト・イノベーション(2)プロセス・イノベーション(3)組織イノベーション(4)マーケティング・イノベーション、と4分類に定義しています。「社外留職」「社内複業」は3番目の組織イ
ノベーションの古くて新しいイノベーションの形態です。

イノベーションを起こす主体の人間自身の組織への貢献度を上げたり、プロジェクトやチームのモチベーションを向上させたりするためには、どうしても「個」の強化が避けて通れません。変化が激しく国際化された現在のビジネス環境では、国内マーケット対象の企業でもグローカルの視点で世界の中から自らの足もとを見なければなりません。

人間の欲求の階層を5段階(i.生理的欲求、ii.安全欲求、iii.社会的欲求、iv.承認[尊重]欲求、v.自己実現欲求)でまとめたアメリカの心理学者アブラハム・マズローの学説は、単に心理学だけではなく経営学にも応用されている幅の広いものです。基本的なテーゼ(命題)は「人は自己実現に向かって絶えず成長する」というものです。

「個」の力を最大限にひきだすためには、企業や組織において自分が必要とされている、果たせる役割があるという感覚が必要です(第iii段階)。これが「社内複業」で他の部門でも果たせる役割を実感することです。

そして、承認[尊重]欲求(第iv段階)は、他者からの尊重、地位や名誉、権益、関心などを得ることによって満たされます。典型的なのはtwitterやFacebookの「いいね!」です。

承認[尊重]欲求の高いレベルでは、技術やスキル・能力の修得、自己肯定感、自律性などを得ることで満たされます。このレベルでは他者からの評価よりも、自分自身の評価が重視されます。

この段階で「いいね!」は他人からの”Like”だけではなく、自分自身への「いいね!」が含まれています。「社外留職」は所属組織の枠を超えたところでの尊重欲求を満たしてくれます。

これが、さらに高次の自己実現欲求になれば、イノベーションへとつながり人の持つ能力や可能性を最大限発揮できるようになります。

まとめ

「社外留職」「社内複業」がもたらす働き方改革は多くの組織(企業や非営利団体)で検討する必要のある、組織イノベーションの施策です。とりわけ企画やクリエイティブ部門、知財や法務などの専門職の知識労働者にとっては、知見を自ら広げる手法自体を習得しないと将来の変化に対応できません。

これは企業や組織にとっては、ヘッドハンティングや転職による優れた社員の流出のリスクを最小限に抑えるための有効な手段としても機能します。

「社外留職」「社内複業」によって得られたノウハウが元来の所属部門に還流されれば組織自体の活性化も果たせる「一石二鳥」の効果を産むことでしょう。人材を「人財」に格上げするためにも有効な手法と言えます。

参照

・「ドラッカーの窓から明日を考える研究会」(ドラッカー学会) http://drucker-ws.org/window_report_01.pdf
・「グローカル人材」 https://jinjibu.jp/keyword/detl/800/
・「5回】新しい働き方(3)~「副業」から「複業」への転換へ~雇用から活用へ。調査データから読み解く、新たなビジネスキャリア学」https://www.hitachi-systems.com/report/specialist/humanresource/05.html
・「社外留職制度、社内副業制度」https://www.it-jinji.net/180606/
・「「留職」とは? パナソニックに起きた熱の伝播」https://toyokeizai.net/articles/-/12208
・「“必死”の伝播と、「会社で働くこと」の 意義の再確認」http://crossfields.jp/project/report_001
・「「イノベーション」の意味を正しく理解すると仕事の見方・考え方が大きく変わる」https://diamond.jp/articles/-/119041

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