サイトやアプリのUI/UXを改善するとき、アクセス解析だけでは課題が抽出しきれません。アクセス解析はユーザーの特性を定量的に計測するツールだからです。ヒューリスティック分析なら定性的にサイトの課題を抽出することができます。くわえて、ヒューリスティック分析は手軽でいつでも実施可能です。
ヒューリスティックとは日本語で経験則のことです。サイトのユーザビリティを経験豊富な分析者が閲覧・操作することで分析する手法がヒューリスティック分析です。ヒューリスティック分析のメリットや実施方法、注意点などをわかりやすく解説します。
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目次
ヒューリスティックとは
ヒューリスティックとは先入観や経験に基づく思考法を指し、計算によって合理的に思考するアルゴリズムの反対語です。ヒューリスティックの語源は「見つけた」を意味するギリシャ語の「Eureka」です。ヒューリスティックは「困難な質問に対して、適切ではあるが往々にして不完全な答えを見つけるための単純な手続き」が定義です。
定義を敷衍すると、ヒューリスティックとは「必ず正しい答えを導けるわけではないが、ある程度のレベルで正解に近い解を得られる方法」です。答えの精度は保証されない代わりに、解答に至るまでの時間が短いという特徴があります。
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ヒューリスティックの種類
ヒューリスティックの種類には「代表性ヒューリスティック」「利用可能性ヒューリスティック」「係留と調整ヒューリスティック」「シミュレーション・ヒューリスティック」の4つがあります。それぞれの特徴やポイントを、事例を挙げて紹介します。
代表性ヒューリスティック
代表性ヒューリスティックはステレオタイプに判断する方法です。代表性とは、自身が持っている対象への典型的なイメージにどれくらい類似しているかを指します。たとえば、「外国人っぽい見た目の人は英語を話すだろう」という推定が代表性ヒューリスティックです。
この場合、実際に英語を話す人は代表性が高く、話さない人は代表性が低いと表現されます。他にも、「今日は雨が降りそうだ」という判断は、雨の日のイメージと今日の空模様の類似性を評価して下しています。
利用可能性ヒューリスティック
利用可能性ヒューリスティックとは関連情報を広範に収集せず、思い出しやすい情報や入手しやすい情報に頼って判断する方法です。利用可能性ヒューリスティックで利用されるものは「頻繁に接しているもの」「個人的に関わりのあること」「インパクトのある出来事」「具体性のあるもの」に分類されます。 頻繁に接しているものは、習慣的行動やよく目にする広告など。個人的に関わりのあることは、自分の体験や周囲に起こった出来事、生年月日など。
インパクトのあることは、衝撃的なニュースなど。具体性のあるものは、友人やサイトの口コミなどです。すべての情報を漁らず、これらで判断するのが利用可能性ヒューリスティックです。
係留と調整ヒューリスティック
係留(アンカリング)と調整ヒューリスティックは、最初に得た情報を手がかりにして推定する方法です。アンカリングとは船をロープでつなぎ止めておくことです。たとえば、「トルコの人口は6000万人以上と以下のどちら?」と聞いてから、「ではトルコの人口は何人だと思うか」と聞くと「5000万人~7000万人」と多くの人が推定します。
最初の質問を「トルコの人口は2000万人以上と以下のどちら?」に変更すると、推定も「1000万人~3000万人」に変化します。このように、事前に聞いた情報をもとに答えを出してしまうのが係留と調整のヒューリスティックです。
シミュレーション・ヒューリスティック
シミュレーション・ヒューリスティックとは、経験や先入観から架空のシナリオを思い浮かべて結果を推定する方法です。たとえば、人前で話すのが苦手なのに結婚式のスピーチを依頼されたとします。シミュレーション・ヒューリスティックでは「過去にも緊張で台詞を忘れてしまった。今度もまた失敗するに違いない」と推定します。 上記の推論は現実となっていないので架空のシナリオです。
過去に失敗したからと、未来で必ず失敗するとは限りません。シミュレーション・ヒューリスティックではこうした将来予想の他に、因果推論や反実仮想といった手法があります。
ヒューリスティックと似た言葉の違い
ヒューリスティックと似た言葉に「認知バイアス」があります。認知バイアスはヒューリスティックに意味が似ていますがニュアンスがやや異なります。ヒューリスティックの反対語のアルゴリズムについても説明します。
認知バイアス
ヒューリスティックと似たイメージの言葉に「認知バイアス」があります。認知バイアスとは「先入観や思い込み、偏ったデータなどによって生み出される認識のゆがみ」です。ヒューリスティックは問題解決に用いられる一時的な思考ですが、認知バイアスは意思決定だけではなく日常生活で広範に適用される先入観的な思考を指します。 認知バイアスはさまざまなバイアスを内包しています。
「コンコルド効果」「生存バイアス」「後知恵バイアス」「正常性バイアス」などが代表的です。たとえば、正常バイアスは「自分だけは大丈夫と思う認知のゆがみ」です。
アルゴリズム
アルゴリズムは心理学で使われる用語で、ヒューリスティックと同じく問題解決手段です。しかしヒューリスティックとアルゴリズムは反対語です。アルゴリズムは計算の手段ややり方のことで、定型化された手順にしたがって合理的に問題を解決していきます。
ヒューリスティックと比べて時間はかかりますが、答えの正確性は高くなります。 アルゴリズムの視覚表現としてフローチャートがあります。アルゴリズムとフローチャートは特に、コンピュータプログラミングのプログラム作成でよく使用される手法です。
ヒューリスティックが起きる理由
人間の脳は反射的に判断する部分と、理性的・論理的に判断する部分に分かれます。理性的・論理的な部分は正確な答えを導き出せるものの処理に時間がかかります。脳がヒューリスティックを起こす原因は負担を最小限に抑えるためです。
すべての問題に対して脳を理性的・論理的に稼働させていては処理しきれません。 そこで、反射的に典型例や過去の経験則、身近な情報から物事を判断するのがヒューリスティックです。そのため、ヒューリスティックは「経験則」と同義語であると言われています。
ヒューリスティック分析とは?
ヒューリスティック分析とはサイトやアプリの分析に使われる手法です。ヒューリスティック分析は経験豊富なUI/UXのプロが、その経験知によってサイトやアプリを評価する分析方法のことです。
なお、UIとはユーザーインターフェース、UXとはユーザーエクスペリエンス(ユーザー体験)のことです。 ヒューリスティック分析は分析者や専門家が、サイトやアプリの設計図をチェックしたり実際に利用したりして評価します。
ヒューリスティック分析の目的
ヒューリスティック分析を行う目的は「サイトやアプリのユーザビリティ(使い勝手)を向上させ、売り上げやPVの向上を目指す」です。
使い勝手の悪いサイトはユーザーの離脱原因になるだけでなく、検索順位に悪影響を及ぼします。問題点を発見し、ユーザビリティを向上させることがヒューリスティック分析の目的です。
ヒューリスティック分析のメリット・デメリット
ヒューリスティック分析のメリット・デメリットについて解説します。
メリット
ヒューリスティック分析のメリットをいくつか紹介します。ヒューリスティック分析はスピーディーにできてコストが抑えられるのがポイントです。くわえて、実施するタイミングが制約されませんので、いつでも好きなタイミングで実施できます。
ヒューリスティック分析は技術的なハードルも非常に低いです。
分析がスピーディー
ヒューリスティック分析は事前にデータを集めたり、ツールをサイトに仕込んだりする必要がありません。分析者のスケジュールさえ合えば、いつでもサイトやアプリの分析が可能です。
くわえて、サイトリニューアル前、制作段階の途中、制作後などどの段階でも分析の実施が可能です。 ヒューリスティック分析は他の分析方法に比べ、比較的ハードルの低い分析方法です。
ツールが必要ない
ヒューリスティック分析は、分析者の経験知や専門的な観点からサイトを閲覧することで実施されます。そのため、ヒューリスティック分析にツールは不要です。アクセス解析ツールのタグを事前にサイトへ埋め込む必要がありません。
ヒューリスティック分析は技術的なハードルが非常に低い分析方法と言えます。
データから見えない問題点が分かる
アクセス解析ツールはユーザー数やPV数、直帰率などの数値データが分析できます。しかし、たとえば直帰率が高いとして、なぜ高いのかは数値データから見えてきません。ヒューリスティック分析では分析者の経験知と専門知識から、ユーザーが望む情報への導線やサイト構造を分析します。
使いやすいかどうかはアクセス解析ツールからは分析できません。そこで、ヒューリスティック分析が必要となります。デザインの一貫性や導線の配置、テキストの読みやすさなどがヒューリスティック分析で分析されます。
アクセスデータの理由付けができる
アクセス解析と同時にヒューリスティック分析を実施すると、データの理由付けができます。アクセス解析で閲覧されていないページは、なぜ閲覧されていないのか理由を見つける必要があります。たとえば、「導線が貧弱でユーザーを誘導できていない」「そのページに辿り着く前に離脱している」などの理由が考えられます。
ヒューリスティック分析では理由を特定してデータと紐付けられます。逆に、ヒューリスティック分析で使いづらい部分を、アクセス解析のデータから使いづらいと実証することもあります。
コストが抑えられる
ヒューリスティック分析を自社で行えばコストも抑えられます。サイト制作や運用に関わったことがある人が分析者となり、ヒューリスティック分析を行えば人員を確保する必要もありません。
未完成のサイトでも分析できる
サイトが未完成な段階でもヒューリスティック分析は行えます。テスト段階や設計段階においても実施できるため、早めにヒューリスティック分析を取り入れることで先回りして改善が可能です。先回りして改善することで開発にかかる費用も抑えられます。
デメリット
ヒューリスティック分析は分析者の主観が影響する可能性が大きいです。経験知による分析であるため、評価内容は分析者の知識や経験に大きく左右されます。ヒューリスティック分析を効果的に活用するためには、知識や経験が豊富なプロに依頼することがおすすめです。
ヒューリスティック分析の調査手順
ヒューリスティック分析の実際の手順について解説します。手順は「①分析する目的の設定」「②分析指標の設定」「③ヒューリスティック分析を実施」「④分析結果から課題を抽出・解決策検討」「⑤課題解決のための改善」の5段階です。順番を追って実施していきましょう。 ヒューリスティック分析は事前に準備が必要なく、スピーディーに行えることからPDCAサイクルを回すのに適しています。1つの目的でヒューリスティック分析を行った後は、異なる目的を設定してさらに改善を図っていきましょう。
①分析する目的の設定
まず、ヒューリスティック分析の目的を設定します。ヒューリスティック分析は達成したい成果を見据えて進めることが重要です。たとえば、達成したい成果には「商品の購入」「コンバージョン率アップ」「資料請求の問い合わせ」などがあります。1つのサイトで複数の目標が設定されることもあります。
しかし、1回のヒューリスティック分析に対して複数の目標を設定すると、次のステップである分析指標をはっきりと定められなくなります。1回のヒューリスティック分析で設定する目標は1つにしましょう。目標が決まったら分析する対象範囲を決定します。成果につながるページや問題点の多いページを対象範囲としましょう。
②分析指標の設定
次に決定した目的に応じてヒューリスティック分析の分析指標を設定します。分析指標とは「どんな観点でチェックするのか」の項目です。分析指標の設定は、ヒューリスティック分析を提唱したヤコブ・ニールセンが定めた「ユーザビリティに関する10のヒューリスティック」を参考にしてもいいでしょう。
- システムの状態を可視化する
- 実世界とシステムをマッチングさせる
- ユーザーに制御の主導権と自由を与える
- 一貫性と標準性を保持する
- エラーを起こさない
- 覚えなくても理解できるデザインにする
- 柔軟性と効率性を持たせる
- 最小限で無駄のないデザインにする
- ユーザー自身で認識、診断、回復ができるようにする
- ヘルプとマニュアルを用意する
③ヒューリスティック分析を実施
目的と分析指標を設定したらサイトやアプリを実際に操作、閲覧しながらヒューリスティック分析を進めます。ユーザビリティ上の問題点を②で設定した分析指標にしたがってレポートしましょう。
④分析結果から課題を抽出・解決策検討
ヒューリスティック分析で記録した問題点をもとに課題を抽出し、改善するための解決策を設計しましょう。たとえば、「メインビジュアルとコンテンツ内容に整合性を持たせる」「問い合わせフォームのボタンの視認性を上げる」「Webフォームの余計な項目を省略してシンプルに設計しなおす」などです。
ヒューリスティック分析では自社サイトの分析とともに、競合サイトの分析を行うことがあります。競合サイトを分析することで自社サイトの改善点を浮かび上がらせます。②で設定した分析指標に則って相対評価することで、課題がより明確になります。
⑤課題解決のための改善
最後に課題を解決するために改善策を出しましょう。①から⑤のステップをPDCAサイクルで回すことでより多くの課題が解決できます。
ヒューリスティック分析と他のWeb分析手法の違い
ヒューリスティック分析の他にもアクセス解析、ユーザビリティテストなどのウェブ分析手法があります。アクセス解析とはユーザーの特性や行動を、定量的なデータによって分析する手法です。アクセス解析とヒューリスティック分析の違いは、ヒューリスティック分析が定性調査であることです。
なお、ヒューリスティック分析とアクセス解析は併用することがあります。ユーザビリティテストはヒューリスティック分析と同じく定性調査に分類されますが、ヒューリスティック分析との大きな違いは実施者がユーザーであることです。ヒューリスティック分析だけでは発見できなかった課題が、ユーザビリティテストで発見されることが多いです。
ヒューリスティック分析に関するよくある質問
ヒューリスティック分析でよくある質問をまとめました。
ヒューリスティック分析の目的は?
ヒューリスティック分析の目的は、サイトやアプリの課題を抽出することです。特に、ヒューリスティック分析ではサイトやアプリのユーザビリティに関する課題を発見します。経験豊富な専門家が分析を行うことで、いろいろな視点から課題を見つけることができます。
それらの課題を改善していくことで成果につなげられます。ヒューリスティック分析を実施するときは、抽出した課題をまとめた調査レポートを作成するようにしましょう。そのレポートをもとに成果を出すことを目指さなければなりません。
ヒューリスティック分析を行うタイミングは?
ヒューリスティック分析はとてもスピーディーで、事前準備も必要ありません。自社で実施すればコストもかからないため、分析の目的に合わせて好きなタイミングで実施できます。サイトやアプリの設計段階や開発段階で、完成後の問題を予測するために実施されます。 ただし、どのタイミングで実施するにしても、ヒューリスティック分析では実施目的を明確にしておくことが重要です。「コンバージョン率のアップ」「売り上げのアップ」「特定ページへユーザーの誘導」などの目的をしっかりと設定してください。
ヒューリスティック分析による改善のみで十分ですか?
完成したサイトやアプリは最終的にユーザーが利用します。ヒューリスティック分析だけではなく、アクセス解析やユーザビリティテストを併用してユーザビリティやユーザーエクスペリエンスの向上を目指しましょう。 サイト分析の手法は他にも「クロス集計」「アトリビューション分析」「コホート分析」「ヒートマップ」などがあります。分析手法によって分析できる内容やポイントが異なります。抽出したい課題や目的に合わせて適切な分析手法を検討しましょう。
ヒューリスティック分析は社内と外部どちらにお願いした方がいい?
ヒューリスティック分析は第三者に依頼した方が、より客観的な意見を取り入れることができます。ヒューリスティック分析はもともと、複数名の分析者で行うのがおすすめです。1人だけだと主観に影響されやすいからです。ヒューリスティック分析を実施するにあたって、社内と社外の両方に依頼する方法もあります。 第三者への依頼は費用がかかりますので、事前に見積もりを取り検討しましょう。
外注するときはどういう会社に頼めばいいの?
ヒューリスティック分析は分析者の経験知によって結果が大きく左右されます。外注するなら実績のある会社かどうかをチェックしましょう。
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まとめ ヒューリスティック分析を活用しよう
ヒューリスティックとは先入観や経験則に基づく思考法で、経験則とほぼ同義です。ヒューリスティックの語源はギリシャ語の「Eureka」で「見つけた」を意味します。ヒューリスティックの定義は「必ず正しい答えを導けるわけではないが、ある程度のレベルで正解に近い解を得られる方法」です。 このヒューリスティックをサイトやアプリの分析に活用するのがヒューリスティック分析です。ヒューリスティック分析は経験豊富な分析者が目的を設定し、サイトやアプリを評価する手法のことです。ヒューリスティック分析でユーザビリティが改善し、サイトの課題を抽出できます。ヒューリスティック分析を活用してUI/UXを向上させましょう。
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